岩渕真奈の代表初ハットトリックで難敵・中国に完勝! W杯後負けなしで迎える五輪イヤーへのラストマッチ

代表69試合目で初のハットトリックを決めた岩渕真奈(写真は6月のW杯)(写真:アフロ)

 EAFF E-1 サッカー選手権 2019 決勝大会(E-1選手権)第2戦で、なでしこジャパンは、今大会最大の難敵と見られていた中国と対戦し、FW岩渕真奈のハットトリックで3-0と快勝。チャイニーズ・タイペイ戦に続く2連勝で、優勝に王手をかけた。12月17日の韓国戦は、引き分け以上で優勝が決まる。

 中国は1980年代から90年代にかけてアジアカップ7連覇を果たしたアジアの強豪だ。12月13日に発表されたFIFAランクによると日本は10位、中国は15位。

 かつてG大阪でもプレーした元中国代表の賈秀全(か・しゅうぜん)監督が昨年5月に監督に就任し、高さ、パワー、スピードなど、身体能力の高い選手を軸に据えた、シンプルで力強いサッカーを見せる。

 今年6月のフランス女子W杯では日本と同じくベスト16で敗退したが、その後、中国王手企業のアリペイが中国女子サッカー支援に10年間で10億元(約158億円)のサポートを約束したとの報道があり、東京五輪や23年のW杯に向けて強化が進みそうだ。

 初戦で韓国と0-0で引き分けた中国にとっても、この第2戦は負けられない大一番だった。

 日本は昨年8月のアジア競技大会決勝で対戦した際、中国にパワーで押し込まれ、苦戦を強いられながらも終盤にカウンターからFW菅澤優衣香が決勝ゴールを決めて1-0と勝利している。当時の試合にフル出場していたDF清水梨紗は、「(前回対戦した時から)日本もブレずにポゼッションしながらつないでいくことに取り組んできて、積み上げてきたものがあるので、アジア大会の時よりもレベルアップしていると思います」と、チームの成長を口にしていた。

 その言葉通り、日本は中国に対してボール支配率では互角以上の戦いを見せた。

 高倉麻子監督はチャイニーズ・タイペイ戦から先発8名を交代。スタメンはGK山下杏也加、4バックは右からDF清水梨紗、DF南萌華、DF松原有沙、DF宮川麻都。MF杉田妃和とMF三浦成美がダブルボランチを組み、中盤は左にFW池尻茉由、右にMF籾木結花。FW岩渕真奈とMF長谷川唯が前線に並んだ。

 日本はこの試合で、ビルドアップ時には杉田が高めの位置を取り、長谷川が1列下がり、三浦がその背後のアンカーの位置で中盤を支える「4-3-3(4-1-4-1)」の形を取った。「4-4-2」の中国に対して、フォーメーションを違えることで局面での数的優位を作りやすくし、主導権を握る狙いが見られた。

 実は、この形は2年前のE-1選手権の中国戦(◯1-0)でも試している。その試合では連係が合わない場面やパスミスが目立ち、勝利したものの、試みは成功とは言えなかった。

 だが、「4-4-2」が主流だった当時の国内リーグと違い、現在は国内王者の日テレ・ベレーザが「4-3-3」を基本フォーメーションに据えているほか、浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサなど、代表メンバーを多く擁するチームが中盤の構成を流動的にしているため、「4-3-3」を使いこなせる選手が多い。

 また、新戦力が多かった2年前と違い、現在はある程度メンバーが絞られているため、チームとしての戦い方の幅を広げる試みも積み上げやすい。そうしたことから、選手の間からも「4-3-3」に対して前向きな声が上がっていた。

 だが、結果的にこの試合で「4-3-3」へのチャレンジは、良い面と悪い面の両方を浮き彫りにした。

 前半9分の先制点のシーンは、その試みが功を奏した。左サイドバックの宮川が中央から攻撃に参加し、長谷川とのワンツーから岩渕に繋ぐと、最後は岩渕が相手に寄せられながらも体を倒しながらゴールに流し込んだ。これは、ベレーザのチームメートでもある長谷川と宮川が「4-3-3」をベースにした連係の中でよく見せる、サイドバックの中央からの攻撃参加がゴールに繋がった形だ。

 

 だが、その後はこのフォーメーションが裏目に出る場面が増えていく。

 昨年のアジア年間女子最優秀選手に輝いたスピードスター、FWワン・シュワンと、屈強なフィジカルを武器とするFWイェン・リーの2トップを起点にした強度の高い中国のハイプレスに対して、選手同士の距離感が悪くなり、バックパスから無理に繋ごうとしてピンチになる場面が何度かみられた。

 中国の選手が前からプレッシャーにくることで空いた2列目のスペースにGK山下や最終ラインからフィードを入れる形が増えたが、前線に150cm台の小柄な選手が揃う日本は、空中戦ではどうしても分が悪く、ボールを失う場面が多発した。

 

 一方、中国の攻撃は2トップが裏を狙うシンプルな形でそこまで怖さはなく、日本は最終ラインの4人が丁寧なラインコントロールで牽制。相手2トップの飛び出しは面白いようにオフサイドにかかり、その数は前半だけで10回を数えた。

 一進一退の攻防が続く中、前半30分過ぎに高倉監督は、池尻と岩渕と長谷川のポジションをスライド。高さと体の強さがある(165cm)池尻を最前線に据えることで、前線に起点を作るためだ。岩渕自身も、その変化をポジティブに受け入れた。

「前から(プレッシャーに)来る相手に対して、やま(山下)の正確なキックを生かすためには、自分が一番前にいるよりも、身長があって競(せ)れる(池尻)まゆが競ってくれて、そのこぼれを拾う方がいいなと。そこから少しずつ、日本のペースになったと思います」(岩渕)

 そして、44分、一瞬の隙をつかれてイェン・リーに日本の左サイドを突破されるピンチを凌いだ直後、日本が再び決定機を迎えた。長谷川が高い位置で相手のボールを奪うと、絶妙のタイミングで飛び出した岩渕にスルーパス。岩渕が相手GKとの駆け引きを制し、2-0とリードを広げる。

 後半はビルドアップが安定した一方、パスが中国選手の足に引っかかる単純なボールロストも多く、波に乗り切れない。

 そんな中、決定的な3点目を呼び込んだのは交代で入ったFW小林里歌子だ。54分、左サイドからカットインすると、右足でファーサイドを狙ったシュートを放つ。相手GKが弾いたところに岩渕が詰めてハットトリックを達成した。

 その後も、62分に三浦がポスト直撃のシュートを放ち、72分の相手の強烈なミドルは間一髪、山下が片手で弾き出すなど、両チームともチャンスを作りながらスコアは変わらず、3-0で日本が勝利した。

【4-3-3へのトライが示した可能性】

 結果的に日本はビルドアップのミスが多く、内容にスコアほどの差は感じられなかった。

 ただし、この試合でトライした「4-3-3」がうまくはまらなかったのは、単に準備期間の短さによるものだろう。

 試合後の選手の声を聞くと、うまくいかなかったことを認めつつも、今後の導入についてはポジティブな声が多かった。「4-3-3」でキーとなるアンカーの位置でプレーした三浦は、自身の出来に渋い表情を見せつつも、その可能性に手応えを感じたようだった。

「(選手同士の話し合いの中で)お互いに狙いを理解するのは早かったんですが、合わせる時間が少なかったですね。自分もポジショニングが悪かったし、それぞれが立ち位置などもまだ掴めていない中で相手のプレッシャーにハマってしまったので。でも、あれだけ前から来てくれる相手なら、うまくやればプレッシャーをはがせる手応えはありました」(三浦)

 ミスが多い中でも快勝できたのは、数回の決定機で見せたコンビネーションプレーの精度の高さと決定力、そして守備の安定感によるものだ。

 6月のフランス女子W杯以降、日本はこれで親善試合2試合を含めて4連勝。岩渕はそのうちの3試合で先制ゴールを挙げ、計6得点と、その決定力は群を抜く。この試合では代表戦69試合目にして初のハットトリックを達成した。

「(2点をとった後の)ハーフタイムに『ハットトリックいけ』といろんな人に言われて。(3点目は)ラッキーな形でしたけど、ハットトリックできたことは自分の自信にもつながるし、素直に嬉しかったです」

 チャイニーズ・タイペイ戦では得意のドリブルから個の力で2ゴールを叩き込んだが、今回の3ゴールは日本らしい連係から生まれたことに触れ、「細かい崩しだったり、スルーパスだったり、いろんな人の特徴が出たゴールでした」と喜びを口にした。

 今大会は、国際Aマッチデーの開催ではないために海外組のDF熊谷紗希が招集されていない。その中で岩渕は初めてキャプテンマークを巻いているが、まったく気負う様子もなく、「もう慣れたというか、特に何もしていないですからね」と、マイペースを貫いている。

 そんな岩渕のキャプテン像は、いい意味で上下関係を感じさせず、それぞれが自分の意見を主張し合えるこのチームの色をよく映しているように思える。 

 また、W杯以降の4試合で無失点という数字が示すように、守備の安定感は結果を残すことができている大きな要因だ。

 高倉監督はコンパクトな守備と、なるべく高い位置からの守備を求めており、背後を狙われるリスクは高い。だからこそ4バックのラインコントロールは生命線となる。

 その最終ラインを支える一人が南だ。今季、リーグ最小失点(18試合で16失点)に留めた浦和のハイラインを支えてきた21歳の言葉には、迷いがない。

南萌華(左/筆者撮影)
南萌華(左/筆者撮影)

「相手(中国の選手)にスピードがあるのはわかっていましたが、自信を持ってあの(高い)ラインをキープできる自信はありました。裏を取られて一つピンチになったところもあったので、そこは反省点です」

 今大会は南にとって初めての“熊谷がいない大会”となった。A代表に選ばれて以来、常にその背中を見てきた先輩がいない中で、今大会はセンターバックとして2試合にフル出場し、自分なりのリーダーシップを模索中だ。

「ビルドアップや守備のカバーリングなど、サキさんがいない中で積極的にやろうと考えていましたが、もっと味方をうまく動かしながら守れれば良かったなと。そこはいつも自分がサキさんに頼っていたところだなと実感できました。(自分は)人に強くいけたり、空中戦で戦える部分が特長なので、そういう部分では人一倍頑張ることを心がけています。ラインコントロールの声に関しては、少しずつではありますけど、リーダーシップも取れるようになってきているかな、という実感があるので、さらに追求していきたいですね」(南)

 今大会はシーズン終盤で過密日程の選手もいるため、高倉監督は大会前に話していた通り、選手たちの疲労も考慮しながらローテーションで選手を起用している。

 その中で、南とともに2試合にフル出場している松原も、存在感を示している。本職はボランチだが、キック力を生かした展開力や空中戦の強さを武器にしており、今大会はセンターバックとしての出場時間の方が長い。この試合ではビルドアップの局面で「前からの圧力に負けてしまってボールを下げてしまう部分が多かった」と反省点を口にした一方、ラインコントロールに関しては、センターバックで何度かプレーしてきた中での“慣れ”も感じさせた。

松原有沙(筆者撮影)
松原有沙(筆者撮影)

 最終候補に残りながらW杯メンバーの23名に選ばれなかった松原は、落選したことを「自分の今までのサッカー人生の中で一番悔しかったこと」と振り返る。東京五輪は18枠で、さらに厳しい戦いになることを理解している。だからこそ毎回の代表活動で、目の前の試合にすべてを出し尽くす覚悟で臨む。中国戦でフリーキックのキッカーを志願した場面に、その想いが現れていた。

「皇后杯(3回戦の愛媛FCレディース戦)で直接フリーキックを決めたことが自信になっていました。今までの自分だったら、代表で自分が蹴るという意思は出てこなかったのですが、『自分がやるんだ』という気持ちを出して長所を出していかないとここには残れないので、(中国戦では)『蹴らせてほしい』という意思を伝えて、蹴らせてもらいました」

 ベレーザや浦和やINACのように、同じクラブのチームメートが複数いる選手は、選手同士の連係をある程度計算できる。だが、ノジマステラ神奈川相模原からただ一人選ばれている松原のような選手にとっては、代表活動の限られた時間の中でどれだけ周囲との連係を深め、その中で自分の良さをアピールできるかが重要になる。

【五輪イヤーへのラストマッチは優勝をかけた韓国戦】

 次の韓国戦は、優勝がかかる重要な一戦だ。2連勝の日本に対し、韓国はここまで1勝1分。日本は引き分け以上で優勝だが、負けた場合は韓国の優勝となる。

 高倉監督体制で韓国との対戦成績は2勝1分と勝ち越しているが、今大会でチームの顔となる背番号10をつける籾木は「おそらく中国よりも、韓国の方がボールをうまく繋いできて、テクニックが高いチームだと思います」と、表情を引き締めていた。

 今大会は東京五輪前の最後の公式戦で、年内最後の代表活動でもある。

 そのラストマッチを最高の形で締めくくり、五輪イヤーを迎えてほしい。

 韓国戦は12月17日、19時30分(日本時間も同じ)キックオフ。フジテレビ(地上波)で生中継される。