常勝軍団を導く勝負強さ。3年連続なでしこリーグ得点王、FW田中美南が貫く代表への想いと進化

リーグカップ決勝で2ゴールを決めた田中(写真はリーグ開幕戦)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【感謝の言葉】

 1-1の末に延長戦にもつれ込む激闘となった8月3日のなでしこリーグカップ決勝戦、日テレ・ベレーザ(ベレーザ)対INAC神戸レオネッサ(INAC)で、勝利の女神を振り向かせたのは、ベレーザのFW田中美南だった。

 値千金の勝ち越し弾が生まれたのは延長後半5分。DF土光真代からのフィードを頭でFW小林里歌子に落とし、裏に抜け出す動きを見せながら足下でリターンを受けると、鋭い切り返しで相手DFとの間に一瞬の空白を作る。ボールは利き足ではない左足の前にあったが、トーキックで相手GKのタイミングをずらし、左サイドネットに流し込んだ。終了間際にも1点を追加し、勝利を決定づけた。

 2016年から3年連続でなでしこリーグ得点王に輝いている田中は、今季も9試合で9得点を決め、得点ランクトップを走る。

 タイトルがかかる一発勝負の舞台でベレーザとINACが対戦するのは、昨年から3度目。田中はその3試合で4得点し、うち2試合で決勝点を決めた。勝敗を決定づけるゴールの割合は、年々増えている。

 ベレーザがフランス女子W杯に9名の主力を送り出し、代表メンバー不在の中で予選を戦ったこのリーグカップで、田中は重要な役割を果たした。残ったレギュラーはわずか5名。永田雅人監督は、下部組織のメニーナから中学生と高校生を引き上げる形で不足を埋めながら戦った。キャプテンとして経験の浅い選手たちを牽引した田中は、決勝進出を決めた浦和レッズレディース戦(○3-2)後に、その経緯をこう振り返っている。

「メニーナの選手に助けてもらいながらやってきた中で、一人ひとりの良さを引き出すこと、指導といったら大げさになりますけど……みんな上手い選手たちですが、こういう舞台では萎縮しちゃう子もいます。自分のプレーを出せないことがチームにとって一番良くないから、その選手たちの一番いいプレーを引き出せるように意識して取り組んできました。決勝に行けることをメニーナのみんなに感謝したいし、しっかり勝って恩返ししたいです」

 そして、優勝を決めた後の取材でも、田中は周囲への感謝を再び口にした。

 W杯メンバーの一人だったMF三浦成美は、大会後、自身のツイッターに「最高のキャプテン」と記した。

【W杯落選をめぐって】

 6月のフランス女子W杯で、田中は代表メンバーに選ばれなかった。選ばれた23名は、W杯初出場選手が17名で、平均年齢は出場24カ国中2番目に若い24歳となったことが注目を集めた。同時に、リーグ3年連続得点王が入らなかったことが衝撃を与えた。

 メンバー発表後の5月17日。高倉麻子監督はメディア向けの囲み取材の場で田中を選出しなかった理由について、こう答えている。

「彼女は国内で3年連続得点王と(18年のリーグ)MVPという素晴らしい成績を収めている選手です。長い間代表に呼び、試合に起用してきましたが、代表でインターナショナルマッチを戦うときに、ボールを収めて自分(個人)でゴールへのチャンスを作り出していくところに物足りなさを感じることがありました。また、いろんな選手と組んで流れの中でゲームを作るところでも思ったようなパフォーマンスが出てきませんでした。彼女が素晴らしいフォワードであることは変わりないですが、今回は名前が入りませんでした」

 FWは、結果的に3年間で16名もの候補が名を連ねた最激戦区だった。

 田中が高倉ジャパンで最初にメンバー入りしたのは、16年にチームが発足して2度目の海外遠征となった16年7月のスウェーデン戦だ。それから約2年半、一度もメンバーから外れることなく、主軸の一人だった。国内外の遠征で、チームが今回のW杯までに戦った43試合のうち36試合でメンバーに入り、21試合で先発。8試合に途中出場し、13ゴールを決めた。

 国内リーグで15年から4連覇しているベレーザの前線は、ほとんどが代表選手だ。その選手たちが見事な連係を見せる。田中自身も「(国内では)毎年、20点以上取るチャンスはある」と口にするほど、ビルドアップの質は高い。

 一方、代表は様々なチームから高い能力を持った「個」が集まってくる。その中で、高倉監督はチーム発足から約2年半は選手の組み合わせを固定せず、特定の型を追求していない。W杯という舞台ではそれぞれの強みを持つ相手に応じて変幻自在に対応できる力が求められると考え、組む選手によって自分のプレーを変える調整力や判断力、あるいは個人の打開力を求めた。それは、代表が2011年にW杯で優勝する以前からFIFAのテクニカル・スタディ・グループやインストラクターとして世界の女子サッカーの潮流を研究してきた高倉監督が、W杯で勝つために必要だと感じた戦略だったのだろう。

 そうした環境では、田中にとってベレーザのチームメート同士の連係の良さがアドバンテージになる場面は少なかった。

 1年目は本職ではないサイドで起用されることもあったが、2年目の17年以降は本職のFWに定着。17年4月のコスタリカ戦(キリンチャレンジカップ/○3-0)で高倉ジャパンで待望の初ゴールを挙げている。だが、強豪国との対戦ではシュートを打たせてもらえなかったり、決定機を逃す場面が少なくなかった。強豪国の代表ディフェンダーはパワーやスピードなどの高い身体能力に加え、駆け引きにも長ける。国内では相手を一発で置き去りにできたターンやファーストタッチが通用しない中で、相手との間合いを図り損ね、決定機で迷いが生じることもあった。

「足の長さや足が出てくるタイミングに国内とのギャップがあって、その中で迷ってしまうシーンがあります。相手のスピードが上がる中で、(相手との)駆け引きやタイミングが悪くてパスをもらえない状況をなくしたいです。1対1では少しでも迷ったらブロックされるので、判断のスピードを上げること。そのためにファーストタッチやトラップの置きどころをもっと良くしたいですね」(17年8月/アメリカ遠征)

 田中は「原因ははっきりしているので、早く乗り越えたいです」とも言っていた。そして、帰国後は体幹やゴール前での瞬発力を向上させるトレーニングを重ねた。

 国内リーグではその成果がゴールに結実する場面も増えていたが、代表では限られた出場時間の中で、劇的に状況を変えるアピールはできなかった。

 18年4月のW杯アジア予選と8月のアジア競技大会で、日本は優勝した。田中はいずれの大会でも招集はされたものの、決勝のピッチに立っていない。そして、W杯のメンバー選考において、FWはタイトルがかかっていたこの2大会の結果が重視された。また、昨夏のU-20女子W杯で優勝したメンバーや、リーグでパフォーマンスを上げてきた若手の台頭もあった。

 田中が代表メンバーに名を連ねたのは、追加招集だった今年1月の国内合宿が最後だ。

 W杯前の重要な強化期間にメンバー入りしなかったことで、ある程度の覚悟はできていたかもしれない。国内では比肩するもののない結果を残してきただけに、忸怩たる思いがあっただろう。

 だが、メンバー発表の2ヶ月ほど前に行われたリーグ開幕記者会見で、田中はこう語っている。

「チームで取り組んでいることとか、これができるようになりたい、ということに向かってやっているのがすごく楽しいんです。その先に、代表に呼ばれるとか、W杯のメンバーに選んでもらえることがあればすごく嬉しいですね」

 迷いのない表情で語る田中からは、前向きに努力を続けている揺るぎなさが伝わってきた。 

 5月10日のメンバー発表を受けて、田中は自身のツイッターに、

「W杯のメンバーに選出されませんでした。これが全てではないけれど、家族、友人、期待して応援してくれていた方々にもW杯で闘う姿を見せることができなくて申し訳ないです。引き続き、なでしこジャパンの応援よろしくお願いします」と綴っている。

 ベレーザの永田雅人監督は今回のリーグカップでの決勝戦の後、田中の成長についてこんな風に語った。

「田中は(選ばれなかったという)自分の状況を受け入れて、今の環境で成長するために考え、僕たち(コーチ陣)が提示することを受け入れて、メニーナの選手と融合しながら彼女たちのいいところを引き出してくれました。(田中は)すごく成長していると思います」(永田監督)

【進化の軌跡】

 永田監督は昨年ベレーザの監督に就任して以来、個々の選手に合わせてどうしたらプレーを上の段階にもっていけるか、世界で戦えるという基準を明確にしながらプレーの進化を提案してきた。田中についてはどのように指導し、田中自身どのようにプレーを進化させてきたのだろうか。リーグ開幕記者会見でその内容をこんな風に明かしていた。

「最初は周りが流動的に動く中で、(自分は)固定されたポジションで、点を取るための動き出しやボールの置きどころを意識することから始めました。その理解が深まってきた上で、今はゴールを取るスタンスは崩さずにプレーエリアを広げることを意識して、ゲームメイクにも関わる場面を増やしています。楽しいですよ。小学生の時はボランチで、パサーだったんです。だから、そういう(出し手としての)プレーも楽しいと思える感覚はあったので。最後は自分が決めることを意識しながら、味方をうまく生かせるようになりたいです」(田中)

 以前はポストプレーやターンからのシュート、裏への抜け出しを武器としていたが、昨年からは一つひとつのプレーがより正確で力強くなった。加えて、今季は中盤まで下がって、裏に抜ける選手を正確なパスで生かす場面が増えている。

 フィニッシュのバリエーションも増えている。準決勝の浦和戦で決めた3点目は印象的だった。スピードに乗った状態で後方からのフィードを右足アウトサイドでトラップし、右足で軸足の裏を通して相手をかわした。そこから2度切り返して相手のタイミングを外し、最後は左足で決めた。

 田中はこのゴールについて、前日に行われた横浜F・マリノスとマンチェスター・シティの試合で、シティのMFデ・ブライネが決めた1点目の流れをイメージして打ったと明かした。永田監督は海外サッカーの映像を編集して選手たちに見せるが、シティの試合も多いという。

 ターンから足を振るまでのスピードが向上したのはフィジカルトレーニングの成果だろう。今季、田中に複数のマークをつけるチームが増えた。

 決勝戦の後、田中に対してW杯に関する質問が再び投げかけられた。

「自分が『こうなりたい』というイメージがあります。(メンバーに)選ばれたかったですけれど、選ばれなかったことで、結果的にいい期間を過ごすことができたと思っています」

 田中は実にさっぱりした表情で答えている。

 最後に、開幕まで1年を切った東京五輪への想いを聞かれると、「東京オリンピックには出たいです。選手として、そこはもちろん狙っています」と、力強く語った。

 なでしこリーグ後半戦の再開は8月31日(土)。束の間のオフを挟み、田中は再び緑色のユニフォームに袖を通す。ゴールに飢えたストライカーの進化は、来夏の東京五輪の18枠をめぐる競争をさらに激化させることだろう。