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辛島啓珠監督を迎え、変革を進める仙台。的確な補強で広がる攻守のオプション

松原渓スポーツジャーナリスト
選手たちの反応に手応えを感じているという辛島啓珠監督(筆者撮影)

 2月13日(水)から17日(日)までの5日間、千葉県内で「なでしこ交流戦」が行われた。

 参加したのは、なでしこリーグ1部のジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)、浦和レッドダイヤモンズレディース(浦和)、マイナビベガルタ仙台レディース(仙台)、ノジマステラ神奈川相模原(ノジマ)、AC長野パルセイロ・レディース(長野)、ちふれASエルフェン埼玉(ちふれ)、オルカ鴨川FC(オルカ)、スフィーダ世田谷FC(世田谷)、国民体育振興公団(韓国/KSPO)の9チーム。5日間で19試合が行われ、遠方からもサポーターやファンが駆けつけた。

 

 昨年12月から今年1月のオフにかけて、各チーム間の移籍は例年になく活発だった。また、高校や大学卒のルーキーを補強したチームも多く、新戦力を加えて調整を進めている状況だ。

 例年、この交流戦では試合を通じて戦術の落とし込みやポジションの見極めなどを行うチームが多いため、勝敗はさほど意味を持たない。だが、各チームの方向性や新戦力をチェックする上ではまたとない機会である。

 そこで、3月21日(木)のなでしこリーグ開幕に向け、1部の5チームを取材した。

【苦しいシーズンを経て、新体制で上位への巻き返しを図る仙台】

昨年順位:リーグ:8位/カップ戦:Bグループ2位/皇后杯:ベスト8

 仙台は昨年、残留争いを強いられる苦しいシーズンを送った。シーズン中には前監督の千葉泰伸監督が復帰したものの、悪い流れを断ち切ることができないまま、順位は過去最低の8位に。最低限のノルマである1部残留を果たしたものの、戦力値を考えれば、得点・失点ともにリーグワースト2位の数字は深刻だった。

 それだけに、今年は「変革」を予期させる体制が整った。2017年までアルビレックス新潟レディースを率いた辛島啓珠監督を新指揮官に迎え、補強も精力的に行うなど、フロントの気合も伝わってくる。

 補強の目玉は、リーグ4連覇中のベレーザからプロ契約で加入したMF隅田凜だ。本職はボランチだが、中盤の広いエリアをカバーできる。優れた予測と球際の強さに加えて得点力もあり、攻守のつなぎ役としてチームを導けるか注目したい(今回の交流戦は、負傷明けのため別メニュー調整)。また、同じく代表のDF市瀬菜々もプロ契約になり、6月のW杯に向けて着々とコンディションを上げている。

 後方にはDF北原佳奈(173cm)、DF三橋眞奈(173cm)、DF坂井優紀(171cm)、前線にはFW浜田遥(174cm)、FW沖野くれあ(166cm)に加えて、浦和からFW白木星(170cm)が加わり、平均身長の高さはリーグ屈指。中盤の構成に変化が見られそうな今年は、そういった体格的なアドバンテージもより効果的に生かしたい。

今季は攻撃面で大きな変化が見られそうだ(筆者撮影)
今季は攻撃面で大きな変化が見られそうだ(筆者撮影)

 辛島監督は方向性として、ポゼッションの強化を明示しており、「今はシンプルにボールを動かしていくことを強調して、オフェンスのことばかりやっています」と明かし、スタイルを徐々に変化させていく狙いもあるようだ。だが、優先順位はあくまでも「結果」だ。

「どんな形であれ、点を取る、ゴールを守るというところが一番重要です。ただキープしているだけではダメですが、ある程度ボールを持てることはいい守備につながるし、いい守備がいい攻撃にもつながるので、その辺のバランスが重要です。何かに固執して本質を見失わないようにやりたいですね」(辛島監督)

 

 本職はセンターバックながら、交流戦ではボランチでプレーしていた市瀬も、

「今年は昨年よりもつなぐことを意識して、遊びのパスを入れながら(攻撃する)、というところもあるので。そういう点では今、サッカーが楽しいです」

と、変化への手応えを口にしていた。

「捲土重来」をスローガンに掲げる仙台は、幸先の良いスタートダッシュを切ることができるか。

 3月21日(木・祝)のリーグ開幕戦は、アウェーの相模原ギオンスタジアムで、ノジマステラ神奈川相模原と対戦する。

辛島啓珠監督 14日 ノジマ戦(△1-1)後

ーー新監督に就任されて、ここまでの手応えはいかがですか?

今、(チームが始動して)3週間ちょっとですが、みんなすごく一生懸命やってくれていて、思った以上にできるし、(言ったことに対する)反応が良いなという印象です。練習でやったことがゲームにいい形で出ています。今後は主力にけが人が出るとチーム力に影響するので、コンディションも今は徐々に作りながら、良い積み重ねをしていきたいと思っています。交流戦はけが人がいて人数が足りなかったこともあって、練習生に入ってもらっていました。攻められることも多かったのですが、粘り強く守るいい練習になりましたね。

ーー去年に比べて、球際で戦う部分が増したように感じますが、守備面で徹底していることはありますか。

今はシンプルにボールを動かしていくことを強調して、オフェンスのことばかりやっています。伝えたことが今後、どれだけ表現されるかによって、そのまま行くのか、修正しながら時間をかけていくのか調整していきたいと思っています。ある程度プランは持っていますが、どちらかというと思った以上にやれているので、今の方向性でいこうという手応えがありますね。

ーーボールをつなぐということは、言葉でいう以上に落とし込むことが難しいと思いますが、その点はどのように浸透させていこうと考えていますか。

どんな形であれ、点を取る、ゴールを守るというところが一番重要です。ただキープしているだけではダメですが、ある程度ボールを持てることはいい守備につながるし、いい守備がいい攻撃にもつながるので、その辺のバランスが重要です。何かに固執して本質を見失わないようにやりたいですね。

ーー結果を出すことと、チームとしての戦い方を植え付けていくことのバランスはいかがですか?

勝ち点を取っていかなければいけないので、まずは結果が優先です。それと並行して、徐々に内容も上げていきたいと考えています。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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