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上位進出を狙う千葉。進化を続けるサッカーで、なでしこリーグの「台風の目」になれるか

松原渓スポーツジャーナリスト
日体大に2-1で勝利した千葉イレブン(写真:Kei Matsubara)

【内容と結果を両立させながら】

 ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)が、上位進出を視界にとらえた。9月15日(土)のリーグ第11節、日体大FIELDS横浜(日体大)に2-1で勝利。現在の順位は5位だが、首位の日テレ・ベレーザ(ベレーザ)との勝ち点差は「9」。リーグ戦は残り7試合で、上位チームとの直接対決も残っている。

 今シーズン、サッカーのスタイルも含めて劇的な変化を見せている千葉の、終盤戦の戦いは見どころの一つだ。

 千葉は昨シーズン、リーグカップで初優勝を飾り、皇后杯もベスト4まで進出した。だが、リーグ戦は一昨年に続き、10チーム中7位に。

 下位に沈んだ理由の一つが、リーグ終盤戦の失速だ。昨シーズンのラスト7試合は1勝1分け5敗、一昨シーズンは2勝1分け4敗だった。降格争いとは無縁だったが、優勝争いにも絡めず、リーグ3連覇中のベレーザには2年連続で「20」以上の勝ち点差をつけられてしまった。特に、昨年は上位4チームに一勝もできなかったのが響いた。堅守が光った一方で、強力な得点パターンは見えてこなかった。

 今シーズンは藤井奈々監督を新指揮官に迎え、昨年までのカウンター主体のスタイルに加え、ボールポゼッションにも力を入れている。その中で、内容だけでなく結果も上向きになっていることは、上位チームとの対戦成績を見ても明らかだ。ベレーザとは5月のホーム戦でドローを演じ、浦和には1勝1分けと勝ち越した。INAC神戸レオネッサ(INAC/●0-1)とノジマステラ神奈川相模原(ノジマ/●0-2)には敗れたが、1試合当たりのシュート数は総じて昨年より増えている。

 チームを変革する上で「産みの苦しみ」は避けられないものだが、今年の千葉は内容と結果も両立させながら良いペースで勝ち点を伸ばしており、チームの雰囲気もポジティブだ。

 その要因は何だろうか?

【藤井監督がもたらした変化とは】

 

 藤井監督は就任時に、今シーズンのテーマとして「個々の感覚と判断を研ぎ澄まし、“ゲームを読む目”や“ボールを持つ体力”をつけて、一つでも上を目指すチームに進化させたい」と、「個のベースアップ」を掲げていた。

 そして、トレーニングではプレーの優先順位やオフザボールの準備など、攻守の原理原則を改めて見直しながら、チームを向上させてきた。

 藤井監督はいつも表情は穏やかだが、その指摘は厳しく、きっぱりとしている。だが、日体大との試合後は、チームが良い方向に変化を続けている手応えも口にし、その要因として「ポジショニングの向上」を挙げた。

「ボールを持っている選手の周りでしっかりポジショニングが取れるようになったことで、(ミスの原因が)技術の質だったのか、判断が前じゃなくて横だったのか、という『うまくいかない理由』が明確になってきました。あとは、一つ目でボールを収める確率が少しずつ上がってきているので、周りの選手が信用してポジションを取れるようになってきた。それは、しっかり段階を踏んでいかないとうまくいきません。プロセスを間違えて2個飛ばしたところから始めても、成功しないんです」(藤井監督)

 それは、長く育成年代の指導に携わってきた指揮官の信念でもあるだろう。昨年末の第21回全日本女子ユース(U-18)サッカー選手権ではジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18を日本一に導いており、若い選手の抜擢にも積極的だ。

 また、千葉の伝統的なチームコンセプトである「走力」も強化されつつある。6月から9月までの約3ヶ月間の中断期間は、「走り」というテーマに向き合ったという。

 千葉はリーグ戦で引き分けが多く、昨年の皇后杯でも、準々決勝と準決勝でいずれも0-0の末に2度の延長戦を戦った。もともとの走力に自信があるからこそ、勝負どころでより効果的に発揮して、90分間で勝ち切ることを目指す。

「延長にならないようにするために、90分間の中の走り方の質を上げて欲しい。(トレーニングで意識していることは)疲れてきた時に、頭が死なないことです」(藤井監督)

【光った個の力】

 そういった変化を結果につなげるために、今後はプレー精度を上げていくことが重要になる。日体大戦では、前半8分に流れの中からFW深澤里沙の先制ゴール、53分にセットプレーからMF西川彩華のゴールで2点のリードを奪ったが、その後は細かいミスが増えて攻撃が停滞。88分にコーナーキックから押し込まれて1点差にされると、最後までヒヤリとする場面が続いた。

 背番号10をつけるベテランFW、深澤は現状の課題について「点をとる部分です」と力を込めた。

「(シュートまでの)作りに集中してしまって、最後のシュートが雑になってしまう。みんな『自分が決める』という強い気持ちを持っていると思いますが、外した後の切り替えに時間がかかることもある。最後のところでゴールに押し込む力をもっと上げていきたいです」(深澤)

 そう反省点を口にした深澤だが、自身はリーグ戦フル出場で攻撃を牽引。今シーズンはサイドハーフを主戦場とし、チームトップの4ゴールを決めている。また、勝利した4試合中3試合で先制点を決めており、ここぞという場面での重要なゴールが多い。この試合でも、DF若林美里のクロスに2列目から飛び込む形で決めた先制ゴールが勝利の呼び水となった。

 特筆すべきは、シュート数に対して44%という決定率の高さだ。リーグの決定率ランキングは1試合1本以上のシュートを打った選手が対象になるため、深澤(11試合で9本)は入っていないが、その条件を満たせば間違いなく上位に食い込むだろう。

 決定力を上げるために、何を心がけているのか。

「どんなボールでもゴールに押し込むことです。きれいなゴールを決めるタイプではないので、こぼれたセカンドボールにいち早く反応するとか、プレーが切れるまで貪欲にいくこと。それは、誰にも負けません」(深澤)

 一瞬を見逃さず、こぼれ球に相手より一足早く反応できる。それは気持ちだけでなく、こぼれ球への反応やポジショニングなど、経験の積み重ねによって得られる感覚もあるだろう。チームとしてチャンスをより多く作れるようになったからこそ、深澤が言うように、攻撃陣にはフィニッシュを決め切る力が求められる。

 一方、中盤で目を引いたのがMF鴨川実歩だ。日体大戦では、ボールを持つとドリブルで果敢に仕掛けた。156cmと小柄だが、深い切り返しと、相手の懐をすり抜けるような身のこなしで相手をかわしていく。正確なキックも持ち味としており、去年はボランチでプレーする機会も多かったが、ポジションが変わったことで意識の変化があったという。

「サイドでプレーするからには、仕掛けていく姿勢が大事だなと。ドリブルのスピードを上げる中で緩急をつけたり、相手を外した瞬間に打つ技術も高めたいですね。それを続けることで、他の選手が空いてくると思いますから。(今後は)観客をワクワクさせたり『何をするんだろう?』と思わせるようなプレーをしていきたい。きれいなゴールじゃなくても、1試合で3点ぐらい取れる選手になりたいです」(鴨川)

 ドリブルで決定的な仕事ができる選手といえば、なでしこジャパンでも活躍するFW岩渕真奈(INAC)やFW横山久美(AC長野パルセイロ・レディース)が思い浮かぶ。鴨川はその後に続く存在になれるだろうか。「個のレベルアップ」を強調してきた藤井監督が、鴨川という個をチームの中でどのように生かしていくのかという点も楽しみだ。

先制点を決めた深澤里沙(左)と積極的なドリブルを見せた鴨川実歩(右)(写真:Kei Matsubara)
先制点を決めた深澤里沙(左)と積極的なドリブルを見せた鴨川実歩(右)(写真:Kei Matsubara)

【ノジマ戦は、現在地を知る格好の一戦】

 9月24日(月)に対戦するノジマは、ひとつ順位が上の4位。今シーズンは新戦力の活躍もあり、上位戦線を盛り上げている。ノジマは組織としての連動性、柔軟性が高く、昨年に比べて決定力も高い。千葉にとっては、現在地を知る格好の一戦になる。

 アウェーの前半戦で、千葉はノジマに0-2で敗れた。中断期間中の9月1日に行われたトレーニングマッチも2-3で敗れたが、選手たちの言葉からは苦手意識や気持ちの面で引いている様子は感じられない。

 昨年はカウンター攻撃を武器としていたこともあり、ボールを握られる試合には慣れている。その中で、持ち前の粘り強さや走力をどのように発揮するのか、注目したい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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