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植木、宝田のハットトリックでパラグアイに快勝!「死の組」からヤングなでしこが勝ち取った決勝Tの切符

松原渓スポーツジャーナリスト
GS第3戦でパラグアイと対戦した(筆者撮影)

【狙い通りの6ゴール】

 

「チームは生き物」と言うが、特にW杯のような国際舞台では、1つの試合をきっかけにチームが大きく変化することがある。

 

 U-20女子W杯グループステージ(GS)第3戦。U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)は、2トップのFW植木理子とFW宝田沙織がWハットトリックと得点力が爆発し、パラグアイに6-0と快勝。自力で決勝トーナメント(決勝T)進出を決めた。

 初戦のアメリカ戦(◯1-0)、第2戦のスペイン戦(●0-1)と、2つの優勝候補との熱戦を経て、「優勝するために乗り越えなければいけない(最初の)山場」(DF南萌華)だったパラグアイ戦で、自分たちの力で次のステージを勝ち取ったチームは、また一つ、成長するチャンスを得た。

 同時刻開催の裏のカードでスペインとアメリカが引き分けたためGS2位で、17日(金)にベスト4進出をかけてドイツと対戦する。

 日本が自力で決勝T進出を決めるためには4点差以上の勝利が必要だったが、裏のスペインとアメリカの結果次第では、得点数のノルマがなくなる状況でもあった。しかし、「選手に(裏の試合の)情報は伝えずに、自分たちのゲームをしようと話しました」という池田太監督の言葉通り、日本は立ち上がりから攻撃的な姿勢を貫いた。

 

 先制点は、開始早々の前半5分に生まれた。相手の最終ラインが、クロスやマイナスのボールに対してボールウォッチャーになりやすいという分析通りの形。左サイドバックのDF北村菜々美のパスに抜け出したMF遠藤純が、左サイドをえぐってゴール前にグラウンダーのパスを入れ、相手ディフェンダーの死角から走り込んだ宝田が決めた。18分には、ボランチのMF林穂之香が相手のゴールキックを鋭い出足でカット。ダイレクトで前に送ると、宝田が相手GKの頭上を越すループシュートでリードを広げる。その後はやや攻撃が停滞したが、前半終了間際の44分に宝田のクロスを植木が豪快なダイビングヘッドで沈めると、その4分後にも遠藤のパスに植木が合わせて4-0。

 前半のうちに決勝T進出を確実にした日本は後半、DF高平美憂(46分)、MF今井裕里奈(62分)、MF福田ゆい(77分)と、交代選手を投入しながら攻勢を強め、60分と61分にも植木と宝田のゴールで6-0と試合を決定付けた。

 すでに2連敗でGS敗退が決まっているパラグアイも、なんとか1点を取ろうと、A代表を経験している10番のジェシカ・マルティネスを中心に猛攻を仕掛けてきたが、日本は4バックを中心に複数で対応。70分にはエリア内で南のクリアが相手の足にかかり、PKを献上するも、GKスタンボー華がコースを完璧に読んでストップした。

 日本が試合を通じて放った枠内シュート数は「17」。多彩なコンビネーションが光ったが、ここまでノーゴールだった2トップコンビのハットトリックは、チームを勢いづかせる一番の収穫だろう。2人が良い距離感を保ちながら、常に対となる動きでスペースを有効に使い、アメリカ戦とスペイン戦で出た課題の修正も見られた。ボールがこぼれてくるポイントをいち早く察知し、スムーズな加速と冷静なフィニッシュが光った宝田は、

「相手の背後が空くという情報があったので、そこを狙って、クロスに対して仲間を信じてしっかり入れました」(宝田)

 と、試合を振り返った。早い時間帯に2ゴールを決め、プレッシャーからチームを解放したという点でも、この試合のプレイヤーオブザマッチにふさわしい活躍だった。

地元のサッカー教室に参加した子供達も日本の応援に(写真:Kei Matsubara)
地元のサッカー教室に参加した子供達も日本の応援に(写真:Kei Matsubara)

【圧倒した左サイドと、バランスをとった右サイド】

 勝利を引き寄せた6ゴールの経緯を辿ると、様々な伏線が見えてくる。光ったのは、6ゴール中5ゴールを生み出した左サイドの崩しだ。近いポジションの選手と連係して多彩な崩しのアイデアを披露し、3ゴールをアシストした遠藤は、この試合の影のMVPにふさわしい活躍だった。また、その遠藤の積極的なプレーは、高い位置で相手を牽制し続けた左サイドバック、北村に支えられた部分もある。

 一方、右サイドのMF宮澤ひなたとMF宮川麻都はバランスを取る形で、あえて攻撃を自重。

 1戦目と2戦目で右サイドハーフとして出場した宮川は、この試合は右サイドバックに抜擢されたが、元々、2列目から後ろはどのポジションでもプレー可能だ。所属の日テレ・ベレーザでは同ポジションのレギュラーを務めており、宮澤はベレーザで宮川と右サイドで縦の関係を組んでいるため、コンビネーションは安定している。その2人にボランチのMF長野風花を加えたトライアングルが、前がかりになりがちな全体のバランスをコントロールしていた。

 2列目から個人で仕掛けることができ、フォワード陣とともにこのチームの得点源になってきた宮澤は、今大会はここまで、自分から仕掛ける回数がそれほど多くない。それは、相手の守備の強度や、宮澤自身の判断もあるだろう。日本の対戦国が、これまでの年代別代表の国際大会や親善試合の映像を分析していたなら、宮澤のマークを厳しくするのは当然だ。

 そこで無理に仕掛ければ、逆に流れを悪くしてしまう場合もあるだろう。宮澤は簡単にボールを失わないため、相手を背負った際でもボールのおさまりどころとして機能しているが、その先の選択は柔軟だ。まずはフリーになった味方をシンプルに生かし、相手の注意がそちらに向けばドリブルで打開を図る。相手の出方を注意深く見て、判断をギリギリのタイミングで調整している。その証拠に、ボールタッチに力が入っておらず、目線は常に高い位置にある。

「前半は左サイドが機能していたので(無理に仕掛けず)、クロスボールとかシュートのこぼれが右にこぼれてくるかな、とチャンスが来るのを待っていました。後半は左のマークが厳しくなって右が空いてくることも考えて、カウンターを狙っていました」(宮澤)

 その狙い通り、後半は攻撃に絡むチャンスも増えた。62分に交代でピッチを退いたが、給水の際には、右サイドに回った遠藤にタッチライン際で重要なアドバイスを送っている。

「純と話していたのは、ポジショニングについてです。(宮川)麻都さんは前(サイドハーフ)主導で動いてくれるし、麻都さんが中に入ったら(自分が)角度を取った方がいい場合もあるから、試合中にもっとコミュニケーションを取りながらプレーした方がいいと思う、と伝えました」(宮澤)

 遠藤は両サイドハーフでプレーできるが、これまで、公式戦で宮川と縦の関係を組む機会はそれほど多くなかった。だからこそ、遠藤は右サイドでプレーする機会が多い宮澤に自ら聞きに行き、宮澤は忌憚のない意見を伝えた。こういったコミュニケーションの積み重ねこそが、重要な場面で明暗を分けるものだ。

 選手同士が声をかけ合う光景は、宮澤や遠藤に限らず、ピッチ内外でよく見られた。それは、具体的な指示だけではない。

「理子、大丈夫だよ」

 試合中、ベンチからFW児野楓香がかけてくれた声を、植木は聞き逃さなかった。また、セットプレーの際、キッカーである長野も、植木に「外しても大丈夫だから、どんどん打って」と声をかけたという。これまで、重要な試合で数多くのゴールを演出してきたエースが人一倍緊張しやすいことを、全員が分かっていた。

「周りの選手が声をかけてくれたことで落ち着けました。ゴールを決められたのは、周りの支えがあったからです」(植木)

 試合後、植木はそう言って一瞬表情を和らげると、4日後の試合に向けて気持ちを切り替えるように、再び口元を引き締めた。

【中3日で迎える準々決勝、ドイツ戦】

 負ければ即敗退が決まるノックアウトステージは、一つのミスが結果に直結する。

 そのためにも、攻守の精度はさらに上げていきたい。この試合ではパラグアイがラインを高く設定していたが、日本は出し手と受け手のタイミングがずれる場面も多く、オフサイドは13回に上った。

 また、勝敗を分けるカギとして、セットプレーも重要になってくる。その意味でも、セットプレーのキッカーを務める長野がキーパーソンになる。パラグアイ戦では、48分に得たPKを相手GKに阻まれ、今大会初ゴールとはならず。これまでの2試合で出た課題から、選手同士の距離間を修正し、パラグアイ戦は持ち味のスルーパスを成功させる場面も多かったが、得点には繋がらず。試合後は勝利にホッとした表情を見せつつ、言葉には悔しさも滲んだ。

「中盤の球際はどのチームも強いですが、そこでボールを拾えたらチームも楽になるし、チャンスも広がる。もっともっと得点に関わるようなスルーパスを出したり、シュートも打っていきたいです」(長野)

 また、スタンボーのビッグセーブによって事なきを得たPK献上も、ノックアウトステージでは致命傷になりかねないため、気をつけたい。

 中3日で行われる準々決勝は、パラグアイ戦と同じヴァンヌのスタジアムで行われる(GS1位通過だった場合は中2日で、会場が変わる)。対戦するドイツも同じ条件とはいえ、より厳しいグループを勝ち抜き、それなりに疲労が蓄積しているであろう日本にとってはアドバンテージと言えるかもしれない。

 ドイツは女子サッカーの競技人口が100万人を超えており、アメリカに次いで世界で2番目に多い(日本は4万人前後)。FIFAランクも2位の強豪だ。A代表入りを狙う有望な若手が多く、U-20女子W杯ではアメリカと並んで過去最高の優勝回数(3回)を誇る。パスをつないで圧倒するのは難しいだろうし、ガチガチに守備を固めるのも得策ではなさそうだ。拮抗した試合でポイントになりそうなのは、勝負どころを見逃さない駆け引きと決定力。そして、最後まで諦めない粘りとハードワークだろう。

 持てる力を出し切れば、勝機はある。苦しい時は、宮川や林のように、前回大会でも同じステージを乗り越えてきた経験のある選手たちが背中で見せてくれるはずだ。あとは、全員で大舞台を楽しめばいい。

「(池田)太さんを世界一の監督に」。選手たちからは、そんな声も聞こえてくる。

 一段ずつ、確実に階段を上ってきたヤングなでしこの冒険は、ここで終わらないはずだ。

 準々決勝のドイツ戦は、17日(金)深夜2:30(日本時間)キックオフ。フジテレビNEXTで生中継される。

上:パラグアイ戦前日、全員で円陣を組み勝利を誓った/下:ゴール裏に、今大会にケガで出場できなかった鈴木陽(はるひ)のユニフォームが掲げられた(写真:Kei Matsubara)
上:パラグアイ戦前日、全員で円陣を組み勝利を誓った/下:ゴール裏に、今大会にケガで出場できなかった鈴木陽(はるひ)のユニフォームが掲げられた(写真:Kei Matsubara)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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