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U-20女子W杯直前のオランダ戦は2-2のドロー。「21人全員起用」で見えた収穫と課題とは?

松原渓スポーツジャーナリスト
オランダ戦を戦ったU-20日本女子代表(写真:Kei Matsubara)

 U-20女子W杯初戦を8日後に控え、U-20オランダ女子代表との壮行試合を行ったU-20日本女子代表。試合は、前半17分の、FW植木理子の目の覚めるようなミドルシュートで幕を開けた。

 だが、1点リードで迎えた終盤の85分にペナルティエリア手前でファウルを与え、FKを決められ失点。その2分後の87分に途中出場のFW児野楓香のゴールで再び勝ち越したが、その1分後には再び失点し、2-2で引き分けた。

 国際大会直前の親善試合はテスト色が強くなるため、結果を鵜呑みにはできない。この試合は日本が主導権を握る時間帯が多かったが、オランダは日本戦の前にはドイツと試合を行っており、この試合では終盤、1点ビハインドの状況で主力FWのJoelle Smitsを投入し、かろうじて引き分けに持ち込んでいる。彼女が最初から出ていたら、オランダはもう少し前線でボールを収め、劣勢を覆すことができたかもしれない。

 そして、それは日本にも言えることだ。池田太監督は親善試合のレギュレーションをうまく利用して、試合中に10人を交代し、GK3名を含む21名全員に経験を積ませている。フィールドプレーヤーは後半の45分間で8人が入れ替った。選手たちが移り変わる状況に柔軟に対応できなければ、ゲームは簡単に壊れてしまっていただろう。

 その中で、交代で入った選手も含めて、様々なコンビネーションからフィニッシュに持ち込めていたのは収穫であり、選手層の厚さを示したことは自信にもなったはずだ。日本の2点目は、途中出場のDF高平美憂からのパスを、同じく途中からピッチに立った児野が決めた。今回、FW鈴木陽が直前の怪我で離脱したために追加招集となった児野は、

「このチームで一番下手かもしれないけれど、下手なりにチームのために戦いたい。チームに必要な、流れを変えられる選手になりたいです」

 と、前日に強い覚悟を言葉ににじませていた。そして、ピッチに立つと10分間で結果を出し、勝負強さを証明した。

地元のオランダサポーターの歓声が試合に華を添えた(写真:Kei Matsubara)
地元のオランダサポーターの歓声が試合に華を添えた(写真:Kei Matsubara)

【高まる調整力】

 両国の起用法を見れば、試合の結果は最優先事項では無いことがわかる。その中で、日本は先発の11人での試合運びをもう少し長く見てみたかった気もする。

 17分の植木の先制点は個でこじ開けた文句なしのファインゴールだったが、時間とともにコンビネーションプレーも増えていた。

 先発はGKスタンボー華、ディフェンスラインは左からDF北村菜々美、DF南萌華、DF高橋はな、DF牛島理子。MF林穂之香とMF長野風花のダブルボランチに、両翼は左がMF宮澤ひなた、右がMF宮川麻都。2トップに、植木とFW宝田沙織。

U-20オランダ女子代表(写真:Kei Matsubara)
U-20オランダ女子代表(写真:Kei Matsubara)

 オランダは、女子A代表同様、U-20代表も4-3-3のシステムを採用し、堅守速攻で手数をかけずに速いボールをサイドに入れる狙いを見せた。そして、守備は1対1で奪いきることを優先しており、ボールに食らいついてくる。その中で、日本はボランチの長野を中心に、少ないタッチ数でボールを動かして主導権を握った。美しかったのは、前半30分の攻撃だ。

 右サイドバックの牛島がポジションを一つ飛ばしてセンターバックの南へライナー性のボールを送り、南はダイレクトで左の宮澤に展開。宮澤が受けた時には北村がオーバーラップしており、北村がフリーでクロスを上げた。これは相手に当たってファーに流れたが、セカンドボールに詰めていた林がミドルシュート。強烈な弾道が枠を捉えたが、これはGK正面に飛んだ。ゴールこそならなかったが、この攻撃のようにフィニッシュまで行くことができれば、カウンターのリスクも半減する。

 

 時間が経つにつれて日本の時間が増えたのは、単にオランダのリーチやスピード、日本とは異なる芝の感触に「慣れた」だけではない。試合中、プレーが切れた瞬間や給水タイム(前半と後半に一度ずつ設けられた)に、近いポジションの選手同士がこまめにプレーを確認し合う場面が見られた。池田監督はこの試合の最大の収穫として、

「自分たちと相手の状況を見て、選手たちが考えを伝え合って、それを実行に移せていたこと」を挙げている。

 相手の狙いやマッチアップする選手の特徴を早めに掴み、自分たちの判断で戦い方を調整していくことが、本大会でも流れを掴む鍵となる。

 個々でも、調整力の高さが光る選手が何人かいた。

 ボールに飛びつくような相手の守備をうまく利用していたのが、両サイドバックの北村と牛島だ。北村はマッチアップした相手のサイドハーフと適度な距離を保ちながら、ファーストタッチでボールを大きく持ち出すなど、相手の重心の逆を巧みに取り、かなり攻撃的にプレーしていた。躊躇(ためら)いのないオーバーラップで、縦の関係を組んだ宮澤との連携から度々、左サイドを崩した。

 一方、牛島がマッチアップしたAshleigh Weerdenはスピードのあるアタッカーで、オランダの攻撃の核。そのため、牛島は前半は攻め上がりを自重していたが、相手のロングボールの軌道を素早く見極めてコースに入り、オランダの十八番でもあるクロスからの得点パターンを阻止。そして、後半は攻撃参加も増えた。

「立ち上がりはスピードを警戒しすぎて(相手との間合いを)離しすぎていたのですが、慣れた後半はうまく対応できました。速いスピードでアプローチに来てくれるから、一つ目のタッチをはっきりすることで逆を取りやすかったです」(牛島)

 2人を含め、総合的にオフザボールの駆け引きで優位性を保てたことが、日本が流れを引き寄せた一因だろう。オランダの前線では、FWのFenna Kalmaが180cmの高さで脅威になったが、南と高橋のセンターバックコンビが完封。南は1対1でもほぼ全勝した。

【初戦に向けて修正すべき“最後の課題”】

 2つの失点シーンは、意思統一すれば防げるものであり、本大会に向けて修正するポイントが出来たと、池田監督はあえてポジティブな側面を強調した。

「ペナルティエリア付近でファウルを与えない(その前で潰し切る)」ことと、「得点直後は特に気を引き締める」ことーー。

 特に、88分の2失点目は、その直前に日本が勝ち越しゴールを決め、2-1とした直後。時間が時間だけに、土壇場での劇的な勝利が脳裏をよぎってもおかしくはない。分かってはいても、ゴールを喜んだ後で無意識に気の緩みが連鎖したのだろう。オランダはキックオフから数秒後に、途中出場でフレッシュな状態だったエースが裏のスペースに抜け出し、鮮やかなループシュートを決めた。様々な要素が偶発的に重なったとはいえ、それは本大会でもあり得ないことではない。

 日本は4月から、フランス、イングランド、そしてオランダなど、ヨーロッパのチームとの対戦や、国内合宿では男子高校生と練習試合を組むことで、感覚を意図的に“W杯仕様”に仕上げてきた。そして、その効果は随所に見られた。

 オランダ戦でフル出場したボランチの長野(フル出場は長野、南、牛島の3人のみ)は、タッチ数をかなり制限してプレーしていた。その意図を聞くと、攻撃のリズムを作ることと同時に、カウンターを受ければ失点に直結しやすい中央のポジションで「ボールを失わないこと」を意識していたからだという。それでも、失点には繋がらなかった幾つかのミスに危機感を募らせていた。

「パススピードもそうですし、一人ひとりが疲れて距離感が悪くなった時に、(パスコースを)探してボールを持ってしまうと、ミスが出やすい。そこでやられたらもったいないので、オランダ戦で体験できて良かったです」(長野)

 

 チームはいよいよ明日31日(火)、本大会が行われるフランスに入る。

 6日(月)の初戦で対戦するアメリカは、女子A代表がFIFAランク1位で、W杯や五輪でも決勝進出の常連になってきた、超がつく強豪だ。しかし、現U-20日本女子代表の選手たちは、各年代で同年代のアメリカと対戦を重ねてきており、結果はほぼ互角。それもあってか、選手たちの言葉から苦手意識は感じられない。しかし、隙を見せればやられる怖さも分かっている。キャプテンの南は言う。

「アメリカはオランダよりスピードがあって強く、高さもあるので、まずは1対1で負けないこと。ラインコントロールや終盤の集中力はもう一度しっかり確認して、引き締めて初戦に臨みたいと思います」(南)

 初戦まで、練習はあと5回。粘り強さと一体感が魅力の池田ジャパンは、大会が始まれば1試合ごとに濃厚な経験を積み、成長していくだろう。準決勝まで進めば、最大6試合を戦える。ずっと目指してきた「世界一」を合言葉に、1試合でも多くの経験を勝ち得て、それぞれが目指す未来への大きな糧にしたい。

 大会は8月5日(日)に開幕し、日本はグループリーグで6日(月)にアメリカ、9日(木)にスペイン、13日(月)にパラグアイと対戦する。※U-20女子W杯はフジテレビNEXTで放送される。

いよいよフランスに乗り込む(写真:Kei Matsubara)
いよいよフランスに乗り込む(写真:Kei Matsubara)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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