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「トーナメント・オブ・ネーションズ」に参戦するなでしこジャパン。世界での現在地を知る絶好の機会に

松原渓スポーツジャーナリスト
アメリカ戦に向け調整を行ったなでしこジャパン(写真:Kei Matsubara)

【アジア王者として臨む大会】

 女子サッカーの4カ国対抗戦、「トーナメント・オブ・ネーションズ2018」が、カンザスシティ(アメリカ)で間もなく開幕する。大会に参戦するのは、アメリカ(1位)、日本(6位)、ブラジル(7位)、オーストラリア(8位)の、FIFAランキング上位国。なでしこジャパンにとって、2019年のフランス女子W杯に向けた貴重な強化の場となる。

 同じ顔合わせだった前回大会で、日本はブラジルに1-1で引き分け、オーストラリアに2-6で敗れ、アメリカに0-3で敗れた。優勝国は、3戦全勝のオーストラリアだった。その後、日本は今年4月のアジアカップでオーストラリアを決勝で1-0で下しており、アジア王者として今大会に臨む。日本は、7月27日(金)にアメリカ、30日(月)にブラジル、8月3日(金)にオーストラリアと対戦する(全て日本時間、NHK BS1で生中継)。

 高倉麻子監督は今大会の位置付けについて、

「チーム力がしっかり上がってきているということを、世界の中で示したい。(アジアアップからの)リスタートと、(選手の)発掘、(チームとしての)積み上げをメインに考えて戦っていきます」と話した。

 しかし、懸念材料は少なくない。まず、今大会は国際Aマッチデーの日程ではないため、リヨン(フランス)所属のDF熊谷紗希が参加できない。センターバックで守備の核としてチームを牽引してきた大黒柱の不在をいかにカバーするかは、一つのテーマになる。また、熊谷とともに、アジアカップで日本の守備を支えたセンターバックのDF市瀬菜々も怪我で不参加となったため、最終ラインは初の組み合わせで、ぶっつけ本番になる可能性が高い。

 中盤では、チームの核だったボランチのMF阪口夢穂が膝の怪我で長期離脱を強いられており、6月のニュージーランドとの親善試合ではDF宇津木瑠美が同ポジションに入ったが、その宇津木も今大会は怪我による離脱が発表されている。加えて、ボランチが本職のMF猶本光も離脱(コンディション不良)したため、ダブルボランチも初の組み合わせになりそうだ。

 コンビネーションを合わせる機会は、前日の公式練習の1回のみ。日本は初戦のアメリカ戦から、正念場を迎える。

限られた時間の中で共通意識を高めた(写真:Kei Matsubara)
限られた時間の中で共通意識を高めた(写真:Kei Matsubara)

【世界王者との対戦で試される守備力】

 アメリカは、言わずと知れたFIFAランキング1位の女子サッカー大国だ。高倉監督体制で、日本はアメリカと3度対戦し、結果は1分2敗(△3-3、●0-2、●0-3)。160万人を超える競技人口の中から選りすぐられてきた代表選手たちは、圧倒的な個の強さを持っている。また、アメリカは毎月のように国内で親善試合を行っているため、代表経験豊富な選手が多く、今回のメンバー23名の代表キャップ数の合計は「1483」。中でも、大黒柱のカーリー・ロイドは「254」と、ずば抜けた経験値を持つ。一方、日本は「582」と、国際大会の経験値では大きな開きがある。

 今大会、日本で最も代表キャップ数の多い選手が、「94」のDF鮫島彩だ。高倉ジャパンでは左サイドバックの第一人者として、海外の並み居るキープレーヤー達を抑えてきた鮫島だが、昨年の同大会や昨年末のE-1選手権では、非常時のオプションとしてセンターバックでプレーした。中盤と最終ラインの軸を欠く今大会で、その緊急オプションが採用される可能性は否めない。 

 鮫島は、チームの守備面の成長と、アメリカの強さについて、次のように表現した。

 

「守備は我慢強くなりましたけど、(アジアカップは)アジアの大会だから耐えきれていた部分もあったと思います。アメリカはエリア内の攻防の強さが他の国とは違って、シュートレンジ、強さ、打つタイミングなどの駆け引きがとにかく上手。(自陣の)エリア内ではどれだけ我慢しても耐えきれないシーンが出てくるかもしれませんが、それもまた、一つ上のステップに行くチャンスと捉えたいです。そのためにも、迷わず、はっきりとしたプレーを心がけたいですね」(鮫島)

 鮫島が懸念するエリア内の勝負をなるべく避けるためには、前線からの全員守備が不可欠だ。アメリカとは2年ぶりの対戦となるFW岩渕真奈は、試合の入り方に意識を向けた。

「来年のW杯に向けて、この3試合をどう戦うかはすごく大事。まずは全員が体を張って戦わないと、(アメリカに)潰されてとことんやられると思います」(岩渕)

 中盤では、若き司令塔、MF隅田凜のプレーが鍵になりそうだ。ボランチは、ロイドやMFジュリー・アーツら、アメリカのキープレーヤーが揃う中盤の防波堤になり、攻撃の起点になることも求められる。

 また、拮抗した展開やビハインドの状況では、アジアカップ決勝など重要な局面でゴールを決めてきたFW横山久美の「一発」にも期待したい。

「まずは1点取って、チームが波に乗れるようにしたいし、最後まで諦めないで攻める姿勢を見せたい。それが日本らしさだと思うので」(横山)

 若い選手も多いため、チーム全体が硬くなる可能性は否めないが、そこはアメリカ女子プロリーグのシアトル・レインFCで4シーズン目を戦っているFW川澄奈穂美と、オフザピッチでも細やかな目配りでチームを盛り上げてきたDF有吉佐織、経験豊富な2人の声がチームを安定させるだろう。

スタジアムで前日公式練習を行った(写真:Kei Matsubara)
スタジアムで前日公式練習を行った(写真:Kei Matsubara)

 厳しい戦いになることは間違いないが、勝機もある。

 昨年から日本が特に向上した部分は、ビルドアップ時のパスミスが減ったことと、守備力の向上だ。特に守備面では、僅差のゲームを勝ちきる守備の粘り強さを得つつある。最後の局面で必ず体を投げ出し、90分間諦めずに戦うーーチーム発足から約2年、なかなか目に見える結果が残せず、悔しい思いを重ねて臨んだアジアカップで見せた守備力こそ、アジアの頂点に立った原動力だった。その中で、ワンチャンスを生かす決定力も見せた。

 

 高倉ジャパンのサッカーのコンセプトは、基本的には攻撃的だ。前線には、それぞれ異なる武器で攻撃に変化を生み出すストライカーが揃い、サイドは川澄、MF中島依美、MF長谷川唯らが巧みな駆け引きで相手のプレッシャーをかわし、前線と連係して攻め上がる。

 相手陣内でボールを奪えれば、シュートまで持ち込むチャンスは十分にある。

 センターバックでは、DF國武愛美が初招集された。スピードやパワーのある海外のFWに対応できる個を発掘し続けてきた中で、高倉監督はノジマステラ神奈川相模原の堅守を支える21歳の若きセンターバックに白羽の矢を立てた。また、怪我で不参加となった3名に代わり、リーグ首位の日テレ・ベレーザのセンターバックとして存在感を示しているDF土光真代、年代別代表で2度のW杯MVPを獲得したINAC神戸レオネッサのボランチ、MF杉田妃和が、共にA代表初招集となった。

 日本が大会を勝ち抜くためには、新戦力の活躍も必須条件となる。第2戦のブラジル戦、第3戦のオーストラリア戦も一筋縄ではいかない試合になりそうだが、大会の流れを決める上でも初戦は特に重要だ。

【日本へのリスペクト】

 アメリカ代表の公式サイト(https://www.ussoccer.com)は、「日本について知っておくべき5つのこと」と題して、以下の5つの情報を掲載している(以下、筆者要約)。

●日本は2019年のフランス女子W杯アジア予選(AFCアジアカップ)のチャンピオン。2017年のトーナメント・オブ・ネーションズからは12名の選手が同じで、アジアカップで優勝したメンバーのうち、18名(実際は17名)の選手が今大会に参加する。

●日本は、直近の7試合は負けておらず(5勝2分)、アジアカップ5試合も含めて、1失点以上していない。

●2016年から日本を率いる高倉麻子監督は、前任の佐々木則夫監督が黄金時代を築いたチームを引き継ぐという重責を担っている。現役時代には代表選手として活躍し、現役引退後は、FIFAのテクニカルスタディグループとして活動しながら、指導者として育成年代の世界大会で結果を残した。

●日本とアメリカのライバル関係は1986年以来続いており、女子サッカーで最も注目されてきた対戦の一つである。

●1年前の前回対戦は、アメリカが3-0で勝った。日本は昨年出場したメンバーのうち、7人(実際は6人)の先発を含む9人(実際は10人)の選手が今回も名を連ねており、アメリカは8人の先発メンバーを含む12人。アメリカは日本に対して27勝(実際は26勝)7分1敗と勝ち越している。

 アメリカは自国開催ながら昨年は優勝できなかったこともあり、今大会にかける意気込みは相当に強いことが窺える。もちろん、アジアカップの日本の戦い方も研究してきているだろう。

 

 来年のW杯に向け、個々とチームの現在地を知るためにも今大会は絶好の機会だ。その機会を無駄にしないためにも、鮫島や岩渕が強調していたように、精神的に受け身にならず、戦う姿勢をしっかりと示したい。結果以上に、90分間を通じて多くのものを得る試合にしてほしいと願う。

 

 アメリカ戦は、日本時間の7/27(金)8:15キックオフとなる。試合はNHK BS1で生中継される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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