接戦を制した浦和が3位を確定。ドイツ帰りのFW安藤梢がもたらした大きな変化

加入後、浦和に変化をもたらした安藤(対仙台戦、2017年6月17日)(写真:松尾/アフロスポーツ)

【通算100ゴール】

 10月1日(日)に行われたなでしこリーグ第17節で、アウェーのジェフユナイテッド市原・千葉レディース(以下:千葉)との一戦に臨んだ浦和レッドダイヤモンズレディース(以下:浦和)は、1-0で勝利し、1試合を残して3位を確定した。

 攻め込んでいるが、決め手がないーー浦和にとって歯がゆい時間帯が続く中、勝利をもたらすゴールは試合終盤の77分に生まれた。

 浦和のMF加藤千佳が左サイドの相手陣内中央から蹴ったクロスに、まず、ニアサイドで相手ディフェンダー2人を背負った菅澤がジャンピングヘッドを狙う。これはボールが高く、わずかにタイミングが合わなかったが、背後で待ち構えていた安藤がヘディングでピタリと合わせた。

 菅澤の動きに気を取られた千葉のディフェンス陣がボールウォッチャーになった中で、安藤は「ボールが越えてくるかな、と思った」と抜け目なく、コースを狙う余裕さえ見せた。

(対仙台戦、2017年6月17日(C)松尾/アフロスポーツ)
(対仙台戦、2017年6月17日(C)松尾/アフロスポーツ)

 この日、安定したセービングでゴールを死守していた千葉のGK船田麻友がとっさに反応したが、シュートはその指先をかすめてゴール左隅に突き刺さった。

 そして、このゴールは、安藤のリーグ通算100ゴール目になった。

「周りから『あと1点で100点ですよ』と、言われていたんです。ドイツでプレーしていた期間が空いているのであまり実感はないんですが、みんなのおかげです。ドイツに移籍する前に、最後にこのスタジアム(フクダ電子アリーナ)でジェフ(千葉)と対戦した時のゴールもヘディングだったのは偶然かな、と」(安藤)

 

 試合後にチームメートから盛大な水かけで祝福された安藤は、取材エリアに現れるとそう言って、穏やかに笑った。

 安藤はドイツ・女子ブンデスリーガ1部で約7年半プレーし、今年6月に浦和に復帰。なでしこリーグ153試合目で100ゴールを達成した。通算100ゴールは史上10人目の快挙だという。

【活性化したチーム内コミュニケーション】

 安藤は2002年にLリーグ(現なでしこリーグ)でデビューした後、背番号10を託された2004年と2009年にはリーグ得点王に輝き、浦和の優勝を牽引。両シーズンとも、リーグ最優秀選手に選ばれている。

 その後、なでしこジャパンのワールドカップ優勝(2011)と準優勝(2015)、2012年ロンドン五輪の銀メダル、フランクフルト在籍時のUEFA女子チャンピオンズリーグ優勝(2015)など、なでしこジャパンとドイツで主要な国際タイトルを獲得しており、その実績は、17年のキャリアがいかに濃密だったかを物語っている。

 

 そんな安藤が加入した後の浦和の変化は、6月以降の成績にも顕著に表れている。

 リーグ前半戦(1節~10節)の成績は5勝1分4敗だったが、安藤の復帰後、リーグ中断期間に行われたリーグカップでは予選8試合を無敗で勝ち上がり、決勝で千葉に1-0で敗れたものの、準優勝。

 さらに、8月中旬のリーグ再開後(11節~17節)も5勝2敗と順調に勝ち点を積み重ね、前半戦終了時に5位だった順位を3位まで上げた。

 今シーズンから浦和を率いている石原孝尚監督は、安藤の加入によるチームの変化について次のように話す。

「若い選手が多いチームの中で、安藤が率先してコミュニケーションをとって、練習から意見をぶつけ合う雰囲気を作ってくれています。その中でチームが成長してきました」(石原監督)

 ドイツでは3つのクラブを渡り歩き、言葉や様々な壁を乗り越えながら、それぞれの場所で勝利を追求した。

 安藤は、勝つチームには何が必要なのかを知り、それを言葉で伝えるだけでなく、自らのプレーで示すことができる。

 今のチームで唯一、安藤がドイツに移籍する以前に浦和で一緒にプレーしたことがあるGK池田咲紀子は、その存在に大いに刺激を受けている一人だ。

「大事なところでいつもゴールを決めてくださるのがすごいな、と。安藤さんがいろいろな選手に声をかけているのを見て、最近は私も少しずつ、(周りに)声をかけるようになりました」(池田)

【上位進出の要因とは】

 浦和に復帰した当初に感じたことを、安藤はこう話す。

「ドイツから帰ってきた時に、練習の紅白戦に激しさが足りないと感じました。私はむしろ、(控えの選手で構成される)Bチームが良い方が、強いチームになると思っています」(安藤)

 そして、それをストレートに伝えてきた。

ドイツでも球際の攻防は激しい(エッセン対ホッフェンハイム、2017年2月26日(C)アフロ)
ドイツでも球際の攻防は激しい(エッセン対ホッフェンハイム、2017年2月26日(C)アフロ)

 浦和に明らかな変化を感じたのは、リーグカップ第7節(7月8日)のINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)戦だ。

 この試合で、浦和は球際の攻防で先手を取り、セカンドボールに対する意識もかなり高かった。安藤は前半のみの出場だったが、チームは90分間プレッシャーを緩めることなく、2-1で逆転勝利。対INAC戦で、実に3年ぶりの勝利を挙げた。

 球際で戦う姿勢は明らかに、チームの新たなストロングポイントになっていた。

 石原監督は、監督就任1年目で3位という成績を残せた理由について、次のように分析する。

「毎週、(試合に出られなくて)悔しい思いをしている選手たちがいて、競争の中でトレーニングしてくれています。中でも、紅白戦の質が高くなったことが、公式戦で力を発揮できた要因だと思います」(石原監督)

 今シーズン、なでしこリーグ全10チームの登録メンバーは、1チームあたり平均25人である。その中で浦和は31人と、ダントツで多い。

 しかも、年代別代表に選出されたことがある選手がほとんどで、先発メンバーの中にはなでしこジャパンに名を連ねてきた選手も多い。それは、これまでも同じで、多くのタレントを抱えながら2015年は6位、2016年は8位と低迷した。

 今年は、シーズン途中の安藤の加入によってFW陣の競争がさらに激化したが、豊かな伸びしろを秘めたチームに好循環が生まれたことは間違いない。

 安藤が復帰当初に危機感を抱いていた練習の雰囲気は、加入から4ヶ月が経ち、理想的なものに変わりつつあるようだ。

「今は紅白戦でかなりバチバチした感じがあって、みんな闘えています。だから、私もすごく危機感がありますし、激しいポジション争いは今のチームの強みだと思います」(安藤)

【さらに上位を目指して】

 今後、浦和がさらなる成績の向上を目指す上で、上位の日テレ・ベレーザとINAC神戸レオネッサに勝てるかどうかは重要なポイントになる。今シーズン、浦和はこの2チームとホーム&アウェーで対戦し、1勝もしていない。4試合でゴールが一つもなかったことは、今後の課題である。

 浦和にはタイプが異なるFWが揃っているが、大一番ではやはり、百戦錬磨の安藤のゴールに期待が高まる。

上位相手のゴールに期待がかかる(なでしこリーグカップ2017決勝(C)松尾/アフロスポーツ)
上位相手のゴールに期待がかかる(なでしこリーグカップ2017決勝(C)松尾/アフロスポーツ)

 ラストパスの出し手になることが多いボランチのMF筏井りさは、相手ディフェンスラインの背後のスペースを狙うことを要求する安藤から学ぶことがあるという。

「味方の動きを見てから、追いつくタイミングでパスを出すことはできるのですが、読みがいいディフェンダーが相手だと、判断が遅れることがあります。アンチ(安藤の愛称)さんはそのタイミングを要求してくれるので勉強になっています」(筏井/対ちふれASエルフェン埼玉戦、9月10日)

 一方、安藤自身も、チームメートとの呼吸が徐々に合ってきた手応えを感じている。

「ドイツでは、ボールを受ける時にこちらが走るタイミングに合わせてくれるというよりは、『走って追いついてね』という(スペースに出される)パスが来ることが多かったんです。その点、日本では確実なプレーをするので、自分もボールを受けるタイミングや場所にこだわって伝えて、みんなからも要求を受けながら合わせています」(安藤)

 今年7月に35歳の誕生日を迎えた安藤にとって、今の浦和には一回り以上、年下の選手も少なくない。それでも、安藤は違和感なくチームに溶け込んでいるように見える。

 オンザピッチでは愛のある厳しさと行動力でリーダーシップを発揮し、オフザピッチでは、謙虚で、時に”天然”な一面も。それも、「この人についていきたい」と思わせる安藤の魅力なのかもしれない。

 浦和は次節、10月7日(土)に、ホームの浦和駒場スタジアムでAC長野パルセイロ・レディースとの最終節を迎える。長野にはFW泊志穂やDF坂本理保など、浦和出身の選手も多く、熱い試合になることは間違いない。