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アメリカ西海岸で開催される「トーナメント・オブ・ネーションズ」に、なでしこジャパンが参戦!(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
初戦に向けて調整する、なでしこジャパン(左からDF大矢歩、DF鮫島彩)

【いよいよ開幕】

 日本時間7月28日8時18分(アメリカ西部時間7月27日16時18分)、アメリカ西海岸の都市シアトルで、女子サッカーの4カ国対抗の国際大会、「トーナメント・オブ・ネーションズ2017」が開幕する。

 この大会には、ホスト国のアメリカ(FIFAランキング1位)、ブラジル(同8位)、オーストラリア(同7位)、そして、なでしこジャパン(6位)の4ヶ国が出場し、総当たり戦で優勝を争う。なでしこジャパンは、現地時間7月24日の午前中にシアトル入りし、初戦のブラジル戦に向けて調整中だ。

 

 なでしこジャパンは、高倉麻子監督就任後の昨年6月から、1年間で4度の海外遠征を行うなど、目に見える形で活動機会を増やし、代表チームの強化を図ってきた。

 強豪国が揃う今大会は、現在のチーム力を試し、さらなる成長をもたらすために絶好の機会となる。

 対戦相手の3カ国はともに、各大陸のチャンピオンとして昨年8月のリオデジャネイロ・オリンピックに出場。アメリカとオーストラリアはベスト8、ブラジルはベスト4の成績を収めた。

 オリンピック4連覇を目指していたアメリカにとっては悔いの残る結果となったが、その悔しさをバネに再び、強化に力を入れている。

 女子サッカーの競技人口が160万人を超えると言われるアメリカでは、代表人気が非常に高く、2017年に入って国内で行われた代表戦5試合の平均観客数は22,266人にも上る。なでしこジャパンは昨年6月にもアメリカと親善試合を2試合行ったが、国旗を様々にアレンジして身にまとったサポーターや、お気に入りの選手のユニフォームを着て目を輝かせる少女たち、そして、腹の底に響く地鳴りのような応援は忘れられない。

 今大会も、地元のサポーターが、盛大かつ華やかに大会を盛り上げることが予想される。

 味方の声がまったく聞こえなくなるほどの”完全アウェー”のスタジアムで試合ができる経験も、なでしこジャパンの選手たちにとっては貴重な機会になるだろう。

 大会はアメリカの西海岸地域を中心に、シアトル、サンディエゴ、カーソンの3会場で試合が行われる。初戦の会場となるセンチュリー・リンクフィールドは、MLS(※1)でトップクラスの人気を誇るシアトル・サウンダーズFCのホームである。また、シアトルは、FW川澄奈穂美と、今大会になでしこジャパンの一員として出場するMF宇津木瑠美が所属するNWSL(※2)のシアトル・レインFCの本拠地でもある。

※1 アメリカおよびカナダのプロサッカーリーグ

※2 アメリカ女子サッカーのプロリーグ

【なでしこジャパンが目指すチーム像とは?】

 今大会では、GK齊藤彩佳、DF万屋美穂(以上、マイナビベガルタ仙台レディース)、DF坂本理保、FW泊志穂(以上、AC長野パルセイロ・レディース)、MF櫨まどか(伊賀フットボールクラブくノ一)の5人が初招集され、青いユニフォームに袖を通してピッチに立つチャンスを得た。

 なでしこジャパンは2017年に入って、1月、3月、4月、6月と、コンスタントに活動を重ねてきた。その中で、チームの核となる選手は絞られてきた感はあるが、対戦相手によって先発メンバーやコンビネーションを変えて戦ってきた。

 高倉監督は、今大会のメンバー発表会見の場で「欲を言えば、実力が拮抗した2つのチームを作りたいと思っています」と、メンバーを固定しない方針を明らかにしている。

 ワールドカップやオリンピックに向けては、ある程度メンバーを固定した中で連携の熟成を促す手法もある。しかし、ピッチに立つ選手が誰とでもコンビネーションを奏でられるチームを作れば、交代策や選手のポジション変更によって、戦い方に有効な変化を加えることができるし、サブの選手も含めて誰が出ても安定したチームプレーが期待できるため、過密日程にも左右されない。 

 また、チーム内で競争力が高まり、良い緊張感が生まれるなどの相乗効果も期待できる。

 

 ワールドカップやオリンピックが短期間での連戦になることも考慮すれば、後者の戦い方は有効だ。ただし、チームのベースを整えるまでにはある程度、時間がかかることを覚悟しなければならない。また、チーム全員のレベルが高くなければ、2チームを作ることはできない。

 今のなでしこジャパンはまさに後者で、攻守におけるコンビネーションを選手同士で構築している段階であり、新戦力の活躍や既存の選手たちのさらなる奮起にも期待がかかる。

 A代表出場試合数が「10」以下の選手が過半数を占める中で、DF鮫島彩、MF阪口夢穂、MF宇津木瑠美ら、経験のあるベテラン選手は、そういった選手たちに自らの経験を伝えることを惜しまない。それに応えるように、新しく呼ばれた選手や若手が、物怖じせずに自分の持ち味を出そうとする積極性が見られる。その成果はピッチでも少しずつ現れてきている。1年前に比べると、特に攻撃面で、鮮やかなコンビネーションから局面を突破する場面が1試合のうちに何度か見られるようになった。

 

 たとえば、6月上旬のヨーロッパ遠征では、ベルギー代表との親善試合で初の3バックに挑戦した。

 そうすることで、前線で攻撃に割く人数を増やし、選手がポジションに囚われることなく流動的に動きながらボールを回し、相手のマークを混乱させることに成功した。しかし、結局シュートまで持ち込むことができず、逆にカウンターから失点した(結果は1-1)。どれだけボールを持つことができても、ゴールが奪えなければ勝てない。

 

 現在は、FW横山久美が多くのゴールを決めて日本の得点力を支えているが、チームとしては、横山の決定力を活かしてフィニッシュに持ち込む形だけではなく、新たなバリエーションが欲しい。

【守備面の対応は見どころ】

  今大会は国際Aマッチデーの日程ではないため、日本はリヨン(フランス)に所属する、センターバックでキャプテンのDF熊谷紗希を欠いて戦うことになった。また、同じくセンターバックのDF中村楓(アルビレックス新潟レディース)がケガのために直前で辞退することに。

  その結果、DF登録の7人の選手のうち、A代表出場試合数が「78」の鮫島を除く6人は、全員のA代表出場試合数を足しても「16」という、初々しいメンバー構成になった。そのうち、初招集が2人。

 限られた準備期間の中で、守備陣はどのようにまとまるのか。また、チームとして、守備陣の経験の少なさをどうカバーするのか。その対応は見どころの一つである。

 今大会は攻撃力が高い国が揃っているだけに、日本が守備に回る時間も多くなることが予想される。

 チームとして1年間取り組んできた、FW、MF、DFの3つのラインをうまくコントロールしながら高い位置でボールを奪う守備に加えて、ブラジルの前線の攻撃力や、オーストラリアの迫力あるカウンター、アメリカのパワフルなサイドアタックなど、それぞれの特徴を考慮した守備も必要になる。1対1の守備も、試合の中で相手との間合いや当たりの強さに早く慣れて対応しなければならない。

 MF長谷川唯が対戦を楽しみにしているのは、過去にFIFA年間最優秀選手賞を5度受賞したブラジルのFWマルタだ。日本は初戦で、ブラジルと対戦する。

「ブラジルのマルタ選手は、私が小さい頃、女子サッカーの選手で知っている数少ない選手でした。そういう選手と一緒にピッチに立てるのはすごく光栄ですし、対戦することができたら、負けないように頑張ります」(長谷川)

 なでしこジャパンが2戦目で対戦するオーストラリアは、国内リーグが冬季の短期開催なので、現在は代表メンバ−の大半が海外リーグでプレーしている。今シーズン、日本のマイナビベガルタ仙台レディースに加入したMFカトリーナ・ゴリーもその一人だ。力強いドリブルからの展開には注意したい。

 なでしこジャパンが最後の3試合目で対戦するアメリカは、前線に得点力のある選手が顔を揃えるが、その中で粘り強く守り抜き、チャンスをしっかりと活かして勝機を掴みたい。

 大会の模様は、NHK BS1で、以下の日程で生放送される。

7/28(金) ブラジル女子代表 vs なでしこジャパン(日本女子代表) 8:18キックオフ

7/31(月) なでしこジャパン(日本女子代表) vs オーストラリア女子代表 6:18キックオフ

8/4(金)  アメリカ女子代表 vs なでしこジャパン(日本女子代表) 11:15キックオフ

(※時間はすべて日本時間)

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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