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ノジマのホームを沸かせた6ゴール。横山の空白を感じさせなかった長野の攻撃力(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
ノジマの2点目を決めた田中陽子(写真:アフロスポーツ)

7月1日(土)に相模原ギオンスタジアムで行われたなでしこリーグカップ第6節、ノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)とAC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)の一戦は、ともに点を獲り合うシーソーゲームの末、3-3の痛み分けとなった。

この試合で、ノジマは14本、長野は13本と、両チーム合わせて27本のシュートを放った。 

今シーズンのなでしこリーグとなでしこリーグカップを合わせた全74試合で、1試合当たりの平均シュート本数が17.4本であることを考えると、これがいかに多い数字かが分かる。

ちなみに、両者はリーグ第3節(4月2日)の対戦時も同じ本数のシュートを打っており、長野が14本、ノジマが13本を打った末に、結果はノジマが3-2で勝利している。

1部昇格1年目のノジマと、2年目の長野。

異なるスタイルのサッカーを志向しながら、ともに攻撃に特徴のある両チームの対戦は、この日のスタンドを何度も沸かせた。

【輝いたノジマのサッカー】

キックオフの笛が鳴ってからわずか30秒後、ノジマは左サイドで細かくパスをつなぐと、FW南野亜里沙がペナルティエリアの左隅からファーサイドを狙ったシュートが正確に枠を捉えた。

しかし、長野はGK池ヶ谷夏美が鋭い反応でこのシュートを左にはじき出し、最初のピンチを逃れると、前半4分にはMF齊藤あかねが放ったミドルシュートが、ノジマゴールのバーを直撃。

序盤から共に積極的な攻撃で口火を切ったこの試合は、前半8分に最初のゴールが生まれた。

クロスボールのこぼれ球を拾ったノジマのMF吉見夏稀が、ペナルティリア右隅から中央にパスを送ると、MF川島はるなが右足でゴール左隅に流し込んで、ノジマが先制点をあげた。

一方、長野はセットプレーのチャンスを活かして同点に追いつく。

12分、左コーナーキックから、長野の齊藤がゴール中央に蹴ったボールをノジマのGKジェネヴィーヴ・リチャードがキャッチできず、後ろにそらしたところに詰めていたDF坂本理保が頭で決めて1-1。

しかし、ノジマはその1分後に再びリードを奪い返す。

13分、左サイドバックのDF臼井理恵からのフィードをタッチライン際で受けたMF田中陽子が、左サイドからドリブルで仕掛け、ゴールに向かって斜めに走った南野にパスを送った。そして、南野がゴールラインぎりぎりの位置からゴール前に折り返したボールを長野のDF鈴木里奈がクリアしたが、そこに詰めていたのはノジマの田中。

「その前のプレーで打っておけば良かったなという場面があったので、積極的にダイレクトで狙った」(田中/ノジマ)

という、力を抑えた右足インサイドの技ありシュートが逆サイドネットに決まり、2-1で再びノジマがリード。

ノジマは中盤の川島、田中、そして、MF尾山沙希の3人が流動的にポジションを変えながらテンポよくパスをつなぎ、試合を優位に進めた。

また、守備ではコンパクトな陣形を保って高い位置から長野にプレッシャーをかけ、ショートカウンターを狙った。

21分にノジマが迎えたチャンスは、その狙いが、はまった場面だ。

長野のGK池ヶ谷からペナルティーアークの前あたりでパスを受けたセンターバックの坂本に対し、ノジマはトップの南野と左サイドハーフのMFパオ・ミッシェルが前後から挟んでプレッシャーをかけた。さらに、ノジマはボランチの尾山が連動した守備で、坂本の縦パスを高い位置でインターセプトすると、ダイレクトで右サイドの吉見に展開。

さらに、吉見がキープしている間に右サイドバックのDF石田みなみが長野のマークを振り切ってオーバーラップ。最終的にフィニッシュまで持ち込めなかったが、守備から攻撃へのスムーズな切り替えによって、長野のゴール前まで攻め込んだ。

長野はこの場面で見られたように、2列目から次々に選手が飛び出してくるノジマに対し、ゾーンで守るのかマンマークするのかがはっきりせず、判断の遅れが目立った。

しかし、25分を過ぎると長野がノジマのペースに慣れて、ゾーンで守る際のマークの受け渡しがスムーズになり、反撃の機会を増やしていった。

その流れの中で27分に決まった長野の同点弾は、理想的な攻撃から生まれたゴールだ。

中盤でMF國澤志乃がノジマのボールを奪い、前方の山崎にパスした後、泊−齋藤のダイレクトパスから左サイドを駆け上がったDF小泉玲奈に渡った。小泉はドリブルでノジマのDF2人を惹きつけると、左サイドのタッチライン側をオーバーラップしたMF野口彩佳にパス。そして、野口は躊躇することなくダイレクトでゴール前にクロスを入れると、中央から走りこんだ泊が鮮やかなジャンピングヘッドを決め、2-2。

長野が再び、同点に追いついた。

【新加入で魅せたベテランの存在感】

ノジマは64分、MF川島はるなに代えてFW工藤麻未を投入。前半同様、細かくパスをつないで追加点を狙いに行くが、長野の堅いブロックを崩すことができず、長野のプレッシャーに対しパスミスも増えていった。

「長野は流れを掴むと非常に強いということは警戒していたのですが、そこを引き出させてしまった」

と、試合後に振り返ったのは、ノジマの菅野将晃監督である。

長野は、後半、この試合で今シーズン初先発を飾ったセンターバックの鈴木に代えて、DF木下栞を投入。すると、守備のラインコントロールが安定し、ノジマの縦パスを前でインターセプトする場面が増えた。

さらに長野は、64分に左サイドハーフのMF野口に代えて、マイナビベガルタ仙台レディースから新加入のMF中野真奈美を投入。トップの山崎を左サイドハーフに下げて、中野をトップに置いた。すると、ベテランのMFは早速、落ち着いたボールキープと正確なキックで魅せた。

22分、その中野は相手陣内中央でパスを受けると、相手を引き付けてタメを作り、右サイドからペナルティエリアに向かって走り込んだMF児玉桂子の足元に吸い寄せられるようなスルーパス。81分には、ノジマのゴールから35m以上はありそうな位置から矢のようなフリーキックを坂本の頭にピタリと合わせた。

いずれもゴールには結び付かなかったが、中野のプレーで流れを引き寄せた長野は立て続けにチャンスを作った。

すると83分、ノジマのGKジェネヴィーヴ・リチャードが中央に通したパスを、高い位置で狙っていた長野の齊藤がカットし、そのまま右サイド、ペナルティエリアの外からシュート。地を這うようなグラウンダーがゴール左隅に決まり、長野が3-2と勝ち越した。

しかし、試合終盤に決めた劇的な逆転ゴールで勝利が長野に傾くと思われた矢先、ノジマはホームの声援をバックに、土壇場で粘り強さを見せる。

87分、パオが相手陣内の左サイド中央でボールを受けると、スピードに乗ったドリブルで長野のDF2人を交わして中央に切り込み、その後、寄せてくるDF3人の間を通しながら、ゴール左隅に同点ゴールを決めた。

ノジマの同点ゴールが決まった後、残り少ない試合時間の中で両チームとも手数をかけないロングボールで4点目を狙いにいったが、スコアは動かず、3-3で終了。

6節を終えて、勝ち点「7」の長野がグループ2位、ノジマは1試合少ない状況ながら、長野と同勝ち点の3位になった。

【リズムが出ない時こそ守備が重要】

個人技でチームを敗戦から救う同点ゴールを決めたパオについて、菅野監督は

「チームとして、ああいう個の力を発揮できる選手は少ないです。パオは、練習であの形になれば9割方ゴールが入りますから。今日の彼女はキレも非常に良かったですね」(菅野監督/ノジマ)

と、賞賛を惜しまなかった。パオは、女子では珍しいロングスローという特技も持っており、この試合では90分間、ノジマの攻撃にアクセントを加えていた。

一方、序盤にいいリズムの中で2度のリードを奪いながら、追いつかれた流れは悔やまれる。

ノジマのサッカーで、攻撃にアクセントをつける重要な役どころを担う田中は、守備面の課題について次のように話した。

「リズムが出ない時こそ守備で流れを変えないといけないのですが、前半と同じように守備をしてしまったことも(後半の流れが悪かった)原因だと思います」(田中/ノジマ)

選手同士の連携の良さと運動量を活かし、少ないタッチ数でパスをつないでゴールを目指すノジマのスタイルは「攻撃的」と形容されやすいが、その攻撃は連動した守備に支えられている。

今後は、状況によって守備の強度を柔軟に変化させることも、ノジマの進化の鍵となる。

ノジマは次節、7月8日(土)に、アウェイの新潟市陸上競技場でBグループ5位のアルビレックス新潟レディースと対戦する。

【背番号「10」不在で迎えた初戦】

試合後、長野の本田監督の表情は明るかった。

「選手たちが言われたくないのは『横山がいなくなったから負けちゃったよね』ということだと思います。選手全員が、点を獲る意識がありました」(本田監督/長野)

長野は、これまでチームのエースとして得点を量産してきたFW横山久美がフランクフルトに移籍し、背番号「10」不在で臨んだ初の試合だった。そんな中で、ノジマの2度のリードに粘り強く追いつき、最終的に3ゴールを決めたことは収穫だ。

特に、流れの中で6人が攻撃に絡んで決めた泊の2点目は、新たなチームの息吹を感じさせるゴールだった。

また、主導権を握った終盤に存在感を発揮したのが、新加入の中野だ。2005年から06年にかけて、中野は長野の前身である大原学園JaSRA女子サッカークラブでプレーしていたため、11年ぶりの復帰である。

中野は6月末にチームに合流するまで、1か月近くサッカーをしていなかったという。それでも試合に起用したのは、岡山湯郷ベル(現なでしこリーグ2部)時代に指導している本田監督自身が、中野の力をよく知っているからだ。

「本当にクレバーで、どこのポジションもできる選手なんですよ。コンディションが整ってくれば、本当に、横山(久美)に代わる戦力になってくれると思います」(本田監督/長野)

中野という経験豊富な新戦力を得た長野は次節、7月8日(土)に、ホームの長野UスタジアムでBグループ4位のジェフユナイテッド市原・千葉レディースと対戦する。

長野にとっては、カップ戦でこれ以上負けると準決勝進出が厳しくなるため、是が非でも勝ち点3が求められる、大事な一戦になる。

試合詳細

なでしこリーグカップAグループ(1部)結果・日程

なでしこリーグカップAグループ(1部)順位

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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