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長野パルセイロ・レディースのホーム、南長野でINAC神戸レオネッサは昨年の悪夢を払拭できるか。(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
試合後、サポーターに挨拶する長野の選手(C)松原渓

なでしこリーグは、5/3(水)に、第6節が行われた。

今節の注目カードは何といっても、第5節終了時点で5位のAC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)が、2位のINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)を、ホームの長野Uスタジアムに迎える一戦である。

昨年、長野で行われた同カード(2016年5月8日、なでしこリーグ第8節)は、INACが前半に2点をリードしながら、後半に長野が3点を奪い返す劇的な逆転勝利で幕を閉じた。

昇格1年目の長野が前年度2位のINACを下したことで「番狂わせ」とも言う人もいたが、あの試合はシーズンのリーグ最多記録となる6,733人の観客動員を記録し、長野のチームカラーであるオレンジ色に染まったスタンドの応援に後押しされた長野の選手たちの底力が、勝利を「必然」にした結果だった。

INACは2011年の女子ワールドカップで世界一に輝いたメンバーが6人、ピッチに立っていた。苦しい試合でも最後は勝ち切れる勝者のメンタリティーや、勝負どころを見極める戦術眼を持った経験のある選手たちの力を持ってしても、長野の追撃を止めることができなかった。

そして、この試合をきっかけに、長野の勢いは本物になった。

一方、後半戦(2016年10月8日、第10節)は、INACがホームに長野を迎えて、5-0で勝利。内容、結果ともにINACが自力を見せつけ、リベンジを果たした。INACの選手たちに話を聞くと、アウェイで喫した逆転負けの悔しさを忘れてはおらず、それゆえの結果でもあった。

今節の2日前には、FW横山久美がドイツ女子1部リーグの1.FFCフランクフルトに移籍することが発表された。国内で横山のプレーを見られる機会は、今節を含めて残り8試合になった。

そしてこの日、長野Uスタジアムには4,275人が詰めかけた。

【先制点で主導権を握った長野】

グラウンドを広く使ってボールを動かしながら縦への勝負パスを入れるタイミングを狙うINACに対し、長野は前節の日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)戦に続き、堅守を披露した。 センターバックの木下栞はこのように振り返る。

「(センターバックの)自分と坂本(理保)と、(ダブルボランチの)國澤(志乃)と齊藤(あかね)の4枚が動きすぎないようにして、中盤のスペースを空けないようにしていました」(木下/長野)

長野が戦術的に引いたため、INACのボール支配率が高くなり、長野は自陣でパスを回されたり、サイドからクロスを上げられる場面も少なくなかったが、最も重要なゴール前のスペースでは、INACの攻撃陣を自由にプレーさせなかった。

INACは前半4分、右サイドを突破したFW増矢理花のマイナスのパスに、ファーサイドからゴールに向かって走り込んだDF鮫島彩が右足で合わせたが、長野はDF五嶋京香が体でブロック。その1分後には、INACはMF中島依美のミドルシュートのこぼれ球をMF高瀬愛実がバイシクルシュートで狙ったが、長野は木下が密着マークで牽制した。

序盤のINACの攻勢をしのぐと、流れは徐々に長野に傾いた。

高い位置からプレッシャーをかけるINACに対し、長野は前線の横山と泊志穂に素早くボールを入れ、手数をかけない攻撃を見せる。20分には齊藤、泊、國澤とつなぎ、最後はMF野口彩佳がペナルティエリアの左角から狙ったが、そのシュートはGK武仲麗依の正面に飛んだ。

しかし、その直後に試合が動いた。

21分、右サイドで横山がドリブルで中央に侵入すると、中央でパスを受けた齊藤が素早く左サイドに展開。野口がダイレクトでゴール前の泊に折り返したボールが、INACのオウンゴールを誘った。

「(INACは)古巣なので、気持ちの入り方もやっぱり違いました」(野口/長野)

その後も、野口が積極的な攻撃参加から25分、28分とゴールに迫る惜しい場面を演出。

一方、立て続けのピンチをしのいだINACは、 31分には、中島の右CKをファーサイドで174cmの長身DFホン・ヘジが完璧に競り勝ってヘディングで合わせたが、シュートは左ポストを直撃。

続く35分には、左サイドから中央にドリブルで切り込んだ杉田妃和がペナルティエリアの外からゴール前にライナー性のパスを送り、右サイドから走りこんだ増矢が飛び込んで右足で合わせたが、そのシュートは長野のGK望月ありさが正面でキャッチした。

効果的に攻撃できなかった原因について、高瀬は試合後、

「入りは悪くなかったと思うのですが、予期せぬ形で失点してしまって、そこから焦って裏(のスペースを狙う形)ばかりになってしまったのはもったいなかったです」(高瀬/INAC)

と、心理的なプレッシャーについても触れた。

しかし、INACはミスからボールを失っても、高い位置からプレッシャーをかけ続けることで、次第に流れを取り返した。

その形が功を奏したのが41分。FW大野忍がボールを奪うと、すかさず、右サイドの高瀬にスルーパス。高瀬はドリブルでゴール前に侵入し、マイナスのクロスを受けた中島が長野の守備陣と交錯しながらゴールに押し込み、INACは同点に追いついた。

追いついた直後に、INACの松田岳夫監督はボランチの伊藤美紀を下げて、左サイドハーフでプレーしていた杉田をボランチにスライドさせ、同ポジションにMF仲田歩夢を投入した。

【決定力に課題を残した後半】

1-1で迎えた後半は、INACが押し気味に試合を進めた。

本来のポジションであるボランチでゲームを作る役割を担った杉田が本領を発揮。プレッシャーの中でも足裏を使ったボールコントロールで自由自在の方向転換を見せ、INACの攻撃にアクセントをつけた。

48分にはその杉田がミドルシュートを放ち、1分後には右サイドを突破した中島がゴール前に折り返したパスにFW大野忍が右足で合わせたが、いずれも枠を捉えられない。

杉田自身は、この時間帯について

「(ゴールを)決められるシーンがいくつもあったし、自分自身、決める自信もあったので、決定力を上げて、チャンスをモノにしていかなければいけない」(杉田/INAC)

と振り返った。

長野は横山の守備で手薄になったスペースを泊が活用してゴールに迫るものの、こちらも追加点が奪えない。

長野の本田監督は50分、左サイドバックのDF矢島由希に代えてDF小泉玲奈を投入し、76分には右サイドハーフの野口を下げて、MF内山智代を投入。一方、INACの松田監督は67分、右サイドハーフの高瀬を下げてFW道上彩花を同ポジションに投入。

両チーム共に、両サイドに変化を加えながら、試合は終盤戦に突入した。

長野は残り10分を切ったところで、スタンドのサポーターがハイテンポな手拍子と応援歌で選手たちを鼓舞。その声援に押されるように、鋭いカウンターから決定機を作った。

後半最大の見せ場が生まれたのは、84分。

長野は自陣ゴール前でボールを奪うと、國澤から前線の泊、横山へと素早い展開を見せた。横山はハーフウェーライン付近でボールを受けると、ドリブルを開始。7月にはドイツへと旅立つエースのゴールへの期待に、スタンドのボルテージが一気に上がっていく。その声援を背に、横山は、1対3の状況に追い込まれながらも強引に右足を振り抜いた。しかし、シュートは枠の左に逸れた。

一瞬、スタンドを包んだため息はすぐに、拍手に変わった。

結局、このままスコアは動かず、試合は1-1で終了。

長野は勝ち点1を積み上げ、一つ順位を上げて4位に。一方、INACは連勝を飾れず、無敗で首位に立つベレーザが勝利したため、勝ち点差は3に開いた。

【攻撃面で良さを見せた長野】

長野は、ベレーザ、INACと、中3日で上位2チームとの連戦を引き分けで乗り切ったのは大きい。今シーズン取り組んでいる守備面強化の成果は、数字にも表れている。昨シーズン、6節終了時点の失点数は「13」だったが、今シーズンは「7」である。 その中で、本田美登里監督の

「(今シーズンは)1-0や2-0といった、底力を感じさせるような試合をしたい」というシーズン前の言葉通り、手堅い戦いぶりも板についてきた。

しかし、長野は2試合とも先制しながら追いつかれる形で引き分けているだけに、選手たちの口からは、勝ちきれなかった悔しさがこぼれた。

「サポーターの皆さんもそうだと思いますが、誰よりもゴールが欲しいのは自分ですし、ここ最近、ゴールから遠ざかっているので、チームに貢献できていないと感じています」(横山/長野)

試合後に行われたドイツへの移籍会見の場で、横山は現在の想いをこのように吐露した。

横山は現在、4試合ノーゴール。対戦相手のマークが厳しくなったことも理由だが、その中でも勝ちきるために、長野はチームとして得点力や決定力を上げる必要に迫られている。

一方、相手のプレッシャーの中でもボールを保持して確実にチャンスを作れたことは収穫だ。長野が上位のチームにも互角に戦えている要因として、球際の強さを挙げたい。特に、FW横山、ボランチの國澤と齊藤、そしてセンターバックの坂本は対人にも強く、中央のラインでボールを奪えるのは、このチームの強みである。

本田監督は、

「球際は上手い、下手は関係なく気持ちの部分も大きい」

とした上で、

「今シーズンは腰が引けずにやれるようになったと思います」

と、手応えも口にした。

長野は次節、5/7(日)にホームの長野Uスタジアムに9位の伊賀FCくノ一を迎える。

【特長を活かすために】

2013年以来のリーグタイトル獲得を狙うINACにとっては、「痛い」引き分けである。

コンビネーションが未熟なディフェンスラインは今後の伸びしろに期待がかかるが、課題はむしろ、攻撃面だろう。足下の技術が高い選手が多く、パスは繋がるが、得点に直結するようなパスが通らず、ミドルシュートも枠を捉えなかった。

「自分がこの個性の強いチームの中で何ができるかを考えたら、アイデアや技術でもない、やはり力強さだなと、ここ数試合の中で感じています」(高瀬/INAC)

「しの(大野忍)さんが裏に(相手DFを)引っ張ってくれていて、空いたスペースで(ボールを)受けられるのですが、自分も裏に抜ける場面を増やせるようになればいいなと思います」(増矢/INAC)

自身の良さをチームの中でどのように活かすか、各選手の試行錯誤が続いている。

攻撃のバリエーションの多さを持ち味とするチームだけに、イメージをよりピンポイントで共有できるようになれば、安定した得点力が望めそうだ。

ベレーザの独走に待ったをかけ、上位をキープするためにも、INACは負けられない試合が続く。

INACは次節、5/7(日)にホームのノエビアスタジアムに6位のマイナビベガルタ仙台レディースを迎える。

試合詳細

なでしこリーグ(1部)他会場の結果・日程 

なでしこリーグ(1部)順位

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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