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新戦力が躍動。コスタリカとの2戦目で快勝したなでしこジャパン(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
2試合目を5-0で勝利し、コスタリカ相手に2連勝を飾った(c)松原渓

4月9日(日曜日)、熊本県民総合運動公園陸上競技場で行われたキリンチャレンジカップで、コスタリカ女子代表と対戦し、3-0と快勝したなでしこジャパン。

2日後の11日(火曜日)には、一般の方々には非公開でコスタリカとのもう一試合が行われた。

日本は9日の試合から先発メンバー8人を替えて臨み、5-0で勝利。内容も結果も、このチームの選手層の厚みを示すゲームとなった。

この日のスターティングメンバーは、GK山下杏也加、DFは左から杉田亜未、中村楓、熊谷紗希、市瀬菜々。ダブルボランチに猶本光と隅田凜が入り、左サイドハーフに増矢理花、右サイドハーフに中島依美。籾木結花と上野真実が2トップを組んだ。

一方、コスタリカは9人のメンバーを替えて臨んだ。

【口火を切った猶本のゴール】

9日の試合の反省点として、高倉麻子監督が挙げたのは守備面である。

「9日の試合では(DF、MF、FWの)それぞれのライン間で穴ができている部分があったので、(この試合では)11人が常に良い距離感で連動することや、ディフェンスの強度を上げようと伝えました」(高倉監督)

その点では、たしかな修正の跡が見られた。

序盤はプレッシャーをかけるタイミングがズレる場面もあったが、日本はコンパクトな形で、高い位置からボールを奪いに行けていた。

そして、この試合では、なでしこジャパンの最大の持ち味である、多彩な攻撃が見られた。

コスタリカは9日の試合よりも高い位置からプレッシャーをかけてきたが、日本は少ないボールタッチ数でテンポよくボールを回し、前がかりになったコスタリカのプレッシャーをかいくぐっていった。

試合開始直前まで降り続いた雨の影響で、グラウンドは滑りやすくなっていたが、そのピッチコンディションも味方につけ、日本はパスに緩急をつけながら多くの決定機を演出した。

選手同士の距離感のバランスが良かったことは、先制ゴールを決めた猶本の言葉にも表れている。

「私が(ボールを)受けた時に、誰かしらが近くにいてくれて、出すところがなくても逃げ道があるので、その中に自然と身を置いてプレーできました」(猶本)

前半9分には、増矢の縦パスに抜け出した杉田がゴール前にマイナスのクロスを上げ、逆サイドから中島が飛び込む。完全にコスタリカの守備陣形を崩したが、シュートはバーの上に外れてしまった。

その直後の10分に、先制ゴールが生まれる。

左サイドで増矢のパスに抜け出した籾木がゴール前にグラウンダーでマイナスのクロスを入れると、中島が中央でスルー。走り込んだ猶本が冷静にGKの動きを読み、左サイドに流し込んだ。

13分には、相手センターバックの判断の遅れを見逃さず、前線の上野が奪ってGKの裏をつくループシュートを放ったが、僅かに枠をオーバーしてしまう。

19分に日本は再び決定機を迎えた。上野から増矢につなぎ、3人目の動きで抜け出した猶本がGKと1対1の絶好の場面を迎えた。しかし、至近距離からの猶本のシュートはGKが右手ではじき、ゴールはならなかった。

追加点は23分。

隅田の縦パスに抜け出した上野が、ゴール前にグラウンダーのパスを入れると、籾木が走り込んで決め、2-0とする。

31分には、左サイドで上野のパスを受けた杉田がゴール前を横切るようにドリブル。右サイドの中島にパスを出すと見せかけて、DFとGKが釣られた瞬間にノールックで右足を振り抜いた。

ニアの右サイドを切っていたGKの逆をつく技ありシュートが、ゴール左隅に決まった。

【後半も無失点で試合を締めくくる】

コスタリカのキックオフで再開した後半も、日本は相手が後ろに下げたボールに増矢と籾木がすぐさまプレッシャーをかけ、2列目の隅田が連動してボールを奪い、すぐに攻撃を開始。

56分、右サイドで中島がドリブルで仕掛け、ゴールラインギリギリで倒されて、FKを得た。そして、猶本がニアに入れたボールに、熊谷が頭で合わせて4-0。

高倉監督は隅田をベンチに下げてボランチにMF中里優を投入し、籾木に代えてMF大矢歩を左サイドに投入。

66分には大矢、増矢、上野とつないで、最後は杉田がゴール前に走りこんだが、シュートは相手DFにブロックされた。

72分には、市瀬に代わって右サイドバックに入った高木ひかりが、中島の縦パスに抜け出す。高木は飛び出してきたGKをゴールラインギリギリでかわしてゴール前の増矢にパスを送ったが、シュートは相手DFに当たってしまった。

一方、ここまで完全に押し込まれていたコスタリカも、後半はアメリア・バルベルデ監督が次々に交代カードを切り、流れを変えようとした。

日本は全体的に運動量が落ちてきた中で、前線のプレッシャーが弱くなり、センターバックのマリアナ・ベナビデスに精度の高いロングボールを蹴られる場面や、FWメリッサ・エレラに抜け出される場面も。熊谷はこの時間帯について、次のように振り返った。

「あれだけチャンスを作れていながら、なかなかゴールにできなかった中で、自分たちのリズムや流れを作れなくなっていました」(熊谷)

しかし、この時間帯を身体を張って凌(しの)ぐと、後半アディショナルタイム、ゴール前の混戦から最後は中里が詰めて5-0とし、ゴールラッシュを締めくくった。

【多彩に魅せた攻撃のバリエーション】

日本が90分間を通じて試合をコントロールできたのは、オフザボールの場面で、相手を完全に上回っていたことが大きい。 また、パスやコントロールのミスが少なく、攻撃はしっかりとシュートで終わらせることができていた。

この試合の収穫はなんと言っても、新戦力が結果を残したことだ。

前半の試合の流れを作り、攻守において存在感を見せたのは、ボランチの隅田だ。あらゆる局面に関わり、駆け引きの中で効果的なパスを配給した。足元の技術を活かした狭いスペースでの連携は得意としているが、19分に上野の落としをダイレクトで展開した場面では、視野の広さと正確なフィードも見せた。

左サイドでは、トップの籾木と上野、そしてサイドハーフの増矢の、異なる特徴を持つオフェンシブな3人が生み出すコンビネーションプレーはワクワクさせられた。

公式記録にはならないが、猶本と中里は代表初ゴールを挙げたし、所属の伊賀FCくノ一でFWを務める杉田は、慣れないサイドバックでプレーし、ミスもあったものの、怯まず果敢にチャレンジし続けた結果、3点目の素晴らしいゴールに貢献した。

2試合を通じて、無失点に抑えたDF陣の安定感も評価できる。

改めて、キャプテンの熊谷の存在感が際立った。

なでしこジャパンに新たに呼ばれる守備の選手は、一様に、熊谷の「コーチングの分かりやすさ」について口にする。

攻め込まれた場面では、

「ノーファウルで(クリアして)!」

判断が遅れた場面は

「1個、前(のタイミング)で出して!」

ゴールを決めた後は

「もう1回、自分たちで(点を取りに行こう)!」

熊谷のコーチングは端的で、しかもイメージしやすい。

高倉監督は、9日の試合後、熊谷のキャプテンシーについて次のように評価した。

「彼女はチームの中でも年齢関係なく話をしたり、ざっくばらんにサッカーの話をする時間を作ってくれていますし、なにせ、声が大きいので(笑)。試合中、彼女からの指示はみんな、よく聞こえると思います」(高倉監督)

フランスリーグ1部の強豪、オリンピック・リヨンで5年目のシーズンを迎える熊谷は、26歳ながら、代表歴は早10年目になる。国内外でのリーグ優勝やチャンピオンズリーグ優勝、そしてワールドカップ優勝と、若くして勝利のメンタリティを知り尽くした闘将の「声」は、力強くピッチに響き渡った。

【課題は球際のコンタクト】

9日の試合に続き、 この試合でも課題は上がった。熊谷は話す。

「奪えるところで奪い切れないところや、自分たちがボールを持っている場面で寄せ切られてしまう場面がいくつかありましたし、そういったところで個のレベルアップは今後も必要です」(熊谷)

日本は、足元をえぐられるようなタックルや、ボディブローのような当たりも受けた。主審の判断でいずれもファウルになったが、こういったプレーへの対応も、国内では体感できない部分である。

「アルガルべカップでは攻守ともにやろうとしていたことが形にできず苦戦した中で、今回はさらにもう一段階、上を目指して臨みました。トレーニングやコスタリカとの対戦の中で、攻守ともにチームとしてやろうとしていたことが少し、表現できたと思います」(高倉監督)

高倉監督が「少し」と強調したのは、相手のレベルも考慮してのことだろう。

コスタリカはFIFAランク30位。

コスタリカとの2試合を通じて、日本がテーマにしていた「相手にプレッシャーをかけるタイミングを、チームとして一致させる」ことが、少しずつ選手たちの体に染み込んでいることを確認できた。

今後、世界の強豪国との対戦を考えた場合、この守備の完成度を高めていくことは、 このチームの最大のストロングポイントである攻撃力を活かすためにも、半永久的なテーマになる。

この試合で得た手ごたえを自信に、さらにレベルが上のチームに対しても同じサッカーを表現することができるのか、なでしこジャパンのさらなる進化を期待したい。

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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