早期利上げか現状維持かの激しい論争がイングランド銀行(英中央銀行、BOE)にとどまらず、金融界も巻き込んで続いている。根底には最近の急激なインフレ加速が一時的か否かという根本的な命題がある。英国の9月のインフレ率は前年比3.1%上昇と、前月の同3.2%上昇をやや下回ったが、最新の10月データ(11月17日発表)は同4.2%上昇と、10年ぶりの大幅な伸びとなった。英予算責任局(OBR)の最新の経済予測ではサプライチェーンのボトルネック(制約による品不足)や労働者不足を反映した賃金上昇、世界的な原油高などエネルギー価格、コモディティ(国際相場商品)の上昇を受け、来年のインフレ率は平均で4%上昇に加速し、ピークに達すると見られている。これはBOEの物価目標2%上昇の2倍だ。

BOEのアンドリュー・ベイリー総裁が10月16日のオンラインによるパネル討論会で、インフレが長期化するのを防ぐため、「インフレは慎重に抑制する必要がある」と発言して以降、金融先物市場ではクリスマス前の12月に政策金利が現在の0.1%から0.25%に引き上げられる可能性をすでに織り込み済みだ。

早期利上げ支持派の論点はこうだ。英シンクタンク、ニーザーのポール・モーティマー・リー副所長は10月12日付の英紙デイリー・テレグラフで、「原油価格の高騰と天然ガス不足問題を考えると、来年初めにインフレ率が5%上昇となる可能性は十分にある。賃金は1年で5%も上がることはないので、消費者は生活費を切り詰めなければならなくなる。最大の経済リスクは急激な物価上昇が経済成長を阻害することだ」と述べている。

インフレは諸刃の剣だ。テレグラフ紙のトム・リース記者(経済部)は10月24日付で、「インフレ率が上昇すると、税収が増え、歳出が予測より抑えられ、名目GDPも上昇する。その結果、政府の借入金が減少するのに役立つ半面、国債の利払い増加により、国債費(債務返済費用)が増加する」と指摘する。OBRが10月21日に発表した調査では、1-8月の政府の借入金は938億ポンド(約14.4兆円)となったが、全体の約25%がインフレ連動債のため、インフレ加速によって今後5年間で国債費用が500億ポンド(約7.7兆円)増加(英金融大手HSBCは750億ポンド(約11.6兆円)と予測)する見通しを明らかにしている。英シンクタンク財政研究所(IFS)も10月12日付リポートで、インフレ連動債により、国債の利払い費用は年間150億ポンド(約2.3兆円)増加すると試算した。リース氏は、「インフレ率の上昇と借入コストの上昇により、(財政が硬直化し)リシ・スナク財務相が予算を自由に動かす余地が制限される」と懸念を示している。

BOEの金融政策委員会のメンバーで、現在は英経営コンサルタント大手ケンブリッジ・エコノメトリクスに所属するアンドリュー・センタンス氏も10月19日付のテレグラフ紙で、「BOEは来年2月に最初の利上げを行うべきだ」とした上で、「インフレが加速するにつれて、政策金利を超低水準(現在0.1%)から通常の低水準に引き上げるため、2月以降も追加利上げを実施し、来年末までに政策金利を1-2%にすべきだ」と主張している。

BOEは昨年3月、新型コロナのパンデミック(世界大流行)という緊急事態に対応するため、1カ月で2回連続となる緊急利下げを実施し、政策金利を0.75%から0.1%にまで一気に引き下げた。しかし、金融に関する緊急事態を解除すべき時期に来ているという判断だ。センタンス氏は、「景気回復が政策金利の小さな変化に耐えられないとは思えない。(2月に)0.1%から0.25%への利上げで耐えられないような景気回復は価値がない。政策金利のわずかな上昇で経済が回復軌道から吹き飛ばされると考えず、英国経済を信頼すべきだ」としている。(「下」に続く)