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英上院、イングランド銀行は「QE(量的金融緩和)中毒」と断定(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
英上院経済委員会のマイケル・フォーサイス委員長=英BBCテレビより

英上院経済委員会のマイケル・フォーサイス委員長は7月15日、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)の1500億ポンド(約23兆円)の追加国債買い入れの正当性について約半年間にわたって審査した結果をまとめた報告書を公表した。その中で、同委員長は、「BOEはQE(量的金融緩和)中毒」と断定して以降、政界やロンドン金融街(シティ)でBOEの景気刺激の金融緩和政策の継続の是非をめぐり、議論百出となっている。

QE中毒というのは、BOEが昨年11月会合で、新型コロナのパンデミック(世界大流行)で疲弊した景気を回復させるため、非伝統的な金融緩和措置であるQE規模を国債買い入れ枠だけ1500億ポンド増額し、総額8950億ポンド(約135兆円:8750億ポンドの国債買い取り枠と200億ポンドの投資適格級の社債買い取り枠)に拡大したが、パンデミックからの経済再開で景気が回復し、インフレが急加速しているにもかかわらず、BOEは景気刺激策として巨額の資産買い入れに固執し続けていることを皮肉った表現だ。上院の報告書にはBOEのマーヴィン・キング元総裁も加わっており、問題の根深さを示している。

BOEは9月23日の金融政策委員会(MPC)で、この総額8950億ポンドの資産買い入れの継続を決めたが、全員一致ではなかった。資産買い入れ規模について、2委員が反対し、7対2の賛成多数で据え置いている。前回8月会合から反対委員が1人増え、インフレリスク重視のタカ派(強硬派)の勢いが増した。反対したのは従前からのマイケル・サンダース委員と新たに加わったデイブ・ラムスデン委員で、いずれも国債買い取り枠を8400億ポンド(約127兆円)に350億ポンド(約5兆円)減額することを提案した。現在の総額8950億ポンドの資産買い入れプログラムは今年12月末に終了するが、両委員は前倒しで早期に終了することも主張した。

BOEによると、9月22日時点の資産買い入れ額は8520億ポンド(約128兆円)に達し、昨年増額した1500億ポンドのうち、1080億ポンド(約16兆円)も含まれる。これは増額分のうち、未消化は420億ポンド(約6兆円)を意味する。サンダース委員は英国経済が回復し、インフレ率が4%上昇と、加速していることを挙げ、「需要過多の経済状況が今後も長く続き、インフレ率は2-3年後に物価目標の2%上昇を超え続けてる可能性が高い」と懸念を示している。

こうしたMPC内部からの反対意見や市場の声を受け、BOEのアンドリュー・ベイリー総裁は8月5日会合で政策金利が現在の0.1%から0.5%(従来は1.5%)に引き上げられた段階で、QEのテーパリング(段階的縮小)を開始するという新フォワードガイダンス(金融政策の指針)を採用したい考えを初めて表明し、やや柔軟さを示している。市場では政策金利が0.5%に上昇した時点で、BOEは満期を迎えた保有国債の償還金の再投資を停止。また、政策金利が1%に達すれば、BOEは国債の一部を市場に売り戻すと予想している。

しかし、「量的緩和をやめることはBOEが思っている以上に難しいかもしれない」と、英紙フィナンシャル・タイムズのトミー・スタビントン記者(金融担当)は8月13日付コラムで指摘する。同氏は、「BOEの金融政策委員会のブリハ前委員も7月の講演で、『BOEが1500億ポンドの追加国債買い入れが経済に刺激を与えるとは想定しておらず、英国債の暴落=長期金利急伸の再発防止が狙いだった』と暴露した。これはBOEの追加国債買い入れは政府の国債増発による財政赤字を賄うためだという市場の認識と合致している。そうである以上、QE停止が簡単だと考えるのは無謀だ」という。

市場では9月会合でタカ派の2委員がQEの巻き戻し(縮小)を支持したことを受け、BOEは早ければ来年3月に0.15ポイントの利上げを開始し、来年末までに2回の追加利上げを織り込んだ。これまで市場は来年5月に最初の利上げを予想していた。BOEは議事抄録で、「すべての委員はたとえQE終了前に引き締めが必要になっても、将来の金融引き締めは利上げによって開始することで意見が一致した」とし、「利上げのあと、QE終了」というコンセンサスを確認した。

しかし、上院経済委員会の報告書では、これまでの量的緩和の急拡大により、政府債務(国債)の満期の短縮化が進む見通し(2020年12月末時点で平均15年超から2022年3月末時点で10年となる)のため、今後、利上げが実施された場合、利上げの最初の1年間で利払いが急増する国債(政府債務)の割合が2008年の2倍超となり、市場金利が1ポイント上昇すれば、政府が支払う国債の利払い費用は2025年度で208億ポンド(約3兆円、対GDP比0.8%)となり、来年度予算で発表した中期の財政緊縮予定額の3分の2が吹き飛ぶ。それだけ、QE縮小開始前の利上げも難しい問題を抱えているといえる。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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