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米1月雇用統計、前月比20万人増―時給賃金8年ぶり高い伸びでインフレ圧力高まる

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

1月雇用者数は依然堅調―前月から伸び加速し予想上回る

1月平均時給は前年比2.9%増と8年ぶりの高い伸びでインフレ圧力高まる

1月失業率は依然17年ぶり低水準の4.1%=4カ月連続

1月雇用統計は依然ゴルディロックス(適温状態)で市場は3月利上げを予想

<主な内容>

◎1月製造業雇用者数、前月比1万5000人増=12月同2万1000人増

◎1月建設業雇用者数、前月比3万6000人増=12月同3万3000人増

◎1月サービス産業雇用者数、前月比13万9000人増=12月同11万1000人増

うち、レジャー・接客業は同3万5000人増、専門・ビジネスサービス業は同2万3000人増、教育・健康サービス業は同3万8000人増、小売業は同1万5400人増

◎1月平均時給、前月比0.3%増の26.74ドル=12月は同0.4%増

◎1月平均時給、前年比2.9%増に加速=12月は同2.7%増

◎1月週平均賃金、前月比0.2%減の917.18ドル=12月は同0.4%増

◎1月週平均労働時間、34.3時間に減少=12月は34.5時間

◎1月製造業の週平均労働時間、40.8時間に低下=12月は40.9時間

◎1月週平均労働時間指数、108に低下=12月は108.5(2007年=100)

◎12月雇用者数、前月比16万人増に上方改定=前回発表は14万8000人増

◎11月雇用者数、前月比21万6000人増に下方改定=前回は25万2000人増

◎10月雇用者数、前月比27万1000人増に上方改定=前回は21万1000人増

1.5兆ドル(約165兆円)の大規模減税からなる税制改革で景気拡大を目指すドナルド・トランプ米大統領=ホワイトハウスサイトより
1.5兆ドル(約165兆円)の大規模減税からなる税制改革で景気拡大を目指すドナルド・トランプ米大統領=ホワイトハウスサイトより

米労働省が先週末(2日)発表した1月の新規雇用者数(非農業部門で軍人除く、季節調整済み)は、前月比20万人増と、市場予想のコンセンサスである同18万人増を上回り堅調な伸びを示した。前月(昨年12月)の16万人増から伸びが加速し、昨年10-11月に2カ月連続で記録した20万人台も回復した。政府部門が増加に転じたことや、民間部門では建設業とサービス業、なかでも小売業は伸びが加速したことで全体の雇用者数が押し上げられた。製造業と専門・ビジネスサービス業、教育・健康サービス業の伸びは鈍化した。建設業は強い住宅購入需要による堅調な住宅市場を反映して拡大が続いている。

内訳は、民間部門が前月比19万6000人増と、12月の同16万6000人増(前回発表時14万6000人増)を大幅に上回り、市場予想の同17万5000人増も大幅に上回った。これより先、大手給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング社)が1月31日に発表した1月ADP雇用統計でも民間部門の新規雇用者数は前月比23万4000人増と、市場予想の18万5000人増を大幅に上回り、今回の政府統計と一致し雇用市場が堅調を維持していることを示している。また、前日(1日)に発表された1月27日で終わった週の週間新規失業保険給付申請件数(季節調整済み)も前週比1000人減の23万人と、152週連続で強い雇用市場を示す閾値30万人を下回っている。

他方、政府部門は同4000人増と、12月の同6000人減(前回発表時2000人増)から増加に転じ全体の雇用者数を押し上げた。

また、過去3カ月の改定値をみると、12月が前回発表時の前月比14万8000人増から同16万人増に上方改定されたが、11月は同25万2000人増から同21万6000人増に下方改定された。しかし、10月は21万1000人増から27万1000人増へと大幅に上方改定された。この結果、10-12月の3カ月間で計3万6000人の上方改定となった。

中長期のトレンドをみると、過去3カ月間(2017年11月-2018年1月)の月平均は19万2000人増と、前回12月雇用統計時点の同21万6000人増を11%下回り、伸びが鈍化した。これは今回の発表で10月の数値が6万人も上方改定されたためだ。しかし、2017年(217万人増)の月平均18万1000人増のペースを上回り、2016年(234万人増)の月平均19万5000人増とほぼ並んでいる。景気回復が持続安定的に進むために必要といわれる15万人増を上回っており、今後、労働市場への参加者数の増大を十分吸収できるほど堅調が続いているといえる。

こうした堅調な雇用が続いている背景には米経済がいわゆる、大恐慌時代(2007年12月-2009年6月)以降、これまで8年半にわたって着実に拡大していることがある。過去6カ月のGDP(国内総生産)伸び率は年率換算で3%増を超えており、これは2014年以来3年ぶりの高い伸びだ。今年はドナルド・トランプ大統領の1.5兆ドルの大規模減税を柱とする税制改正と規制緩和によって景気が刺激され、今後数年間は3%増の成長率が続くとの見方が大勢となっている。また、FRB(米連邦準備制度理事会)傘下のアトランタ地区連銀は今年1-3月期GDP(国内総生産)伸び率見通しを4.2%増と予想しているほどだ。

失業率4.1%で変わらず=17年ぶり低水準

失業率は前月の4.1%と変わらず、市場予想と一致した。依然として2000年12月以来約17年ぶりの低水準が続いており、足元の経済がしっかりしていることを示した。

失業率の算出で分母となる労働力人口が51万8000人増となった一方で、分子となる失業者数も前月の約658万人から約668万人へと、10万8000人増となったため失業率は前月と変わらなかった。失業者数は依然として2007年12月のリセッション前の水準(2007年11月時点で724万人)を大幅に下回っている。ただ、今回の統計で失業率を短期間でかなり低下させるために必要といわれる新規雇用者数25万人増を下回っている。

また、労働市場への参加度を示す労働参加率(軍人を除く16歳以上の総人口で労働力人口を割ったもの)は前月と同じ62.7%となり、依然昨年5月以来8カ月ぶりの低水準となっている。この10年間はピークの66%から低下傾向にある。これは主に米国の人口の高齢化が進んでいるためとみられるが、それにしても雇用需要が強いにもかかわらず労働参加率が低下したということは、仕事を探す意欲を失っている労働者(産業予備軍)はそれほど多くはないことを意味する。これは将来、生産拡大に必要となる労働供給源が枯渇する恐れを示しており懸念材料だ。

失業状態の深刻さを示す6カ月以上(27週間)の長期失業者数は、前月の151万5000人から6.2%(9万4000人)減の142万1000人と、6カ月連続で減少した。失業者全体に占める長期失業者の比率も前月の22.9%から21.5%に低下し、前年同月の水準(24.1%)も下回った。雇用状況の厳しさが引き続き緩んでいる。

一方、広義の失業率(U-6、狭義の失業者数に仕事を探す意欲を失った労働者数と経済的理由でパート労働しか見つからなかった労働者数を加えた、いわゆる、“Underemployed Workers”の失業率)は8.2%と、前月の8.1%を上回り2カ月連続で上昇した。ただ、1年前の9.4%を大幅に下回っている。これは2006年以来11年ぶりの低水準。しかし、正規雇用をあきらめてやむを得ずパート労働者(involuntary part-time workers)となった数も前月の491万5000人から498万9000人と、2カ月連続で増加したのは懸念材料。ただ、1年前の577万6000人を78万7000人も下回っている。

時給賃金、前年比で8年ぶり高い伸び

景気、特に個人消費の見通しの判断材料となる賃金上昇率は、1月の1時間当たり平均賃金(全従業員データ)が前月比0.3%増の26.74ドルと、市場予想の0.3%増と一致した。12月のデータが同0.3%増から同0.4%増に上方改定された上に、さらに0.3%伸びたことで今後、賃金の伸びが加速する兆しを見せた点が注目される。

前年比では2.9%増と、12月の2.7%増や市場予想の2.6%増を上回り、2009年5月以来8年ぶりの高い伸びとなった。企業は深刻な労働者不足の中、労働者を競って確保しようと賃金を引き上げている一方で、トランプ政権の大規模減税や全米18州で雇用者が従業員に支払う最低賃金が引き上げられ賃金が上昇した面もある。ただ、低失業率で健全な経済状況でみられる3.5-4%増を依然として下回っており、インフレ率(12月消費者物価指数(CPI)は前年比2.1%上昇)を考慮すると、実質0.8%増と、まだ実質賃金の伸びは弱い。

一方、週平均労働時間は34.3時間と、前月の34,5時間から減少し、市場予想の34.5時間を下回ったのは懸念材料だ。このうち、製造業の週平均労働時間(全従業員データ)も前月の40.8時間から40.6時間に低下し製造業の不振が際立った。製造業の週平均の残業時間は前月と同じ3.5時間だった。労働時間の減少は企業が労働者の確保に苦労していることを示している。今回の統計では1月20日に政府の暫定予算が失効し4年ぶりに政府機関の一部が閉鎖した影響はなかったとしている。

今回の1月統計でも雇用市場が依然堅調を維持しゴルディロックス(適温状態)となっている一方で、今後、賃金上昇率が加速しインフレ上振れ圧力が高まったことで、市場ではFRB(米連邦準備制度理事会)は今年3回の利上げを予定しているが、早ければ次回3月会合で小幅利上げを実施すると予想している。米債券市場では10年国債の利回りが雇用統計発表後、2.79%から2.84%に上昇し3月利上げを織り込み始めた。

2月以降の雇用統計で失業率が一段と低下すれば賃金の伸びが一段と加速し、利上げペースが一段と早まる可能性がある。トランプ政権の1.5兆ドル(約165兆円)の大規模減税と規制緩和で景気が刺激され、米投資分析大手ムーディーズ・アナリティクスの主席エコノミストのマーク・ザンディ氏が指摘するように雇用増加が現在のペースで進めば18年末までに失業率は3.5%にまで低下し、FRBは景気過熱感から今年の利上げ回数を3回以上に加速させる可能性がある。

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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