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夏の高校野球はなくなるのか?

増田雅昭気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属

「気候が変わってきているのに、夏の高校野球はこのままで良いのか」という議論を、近年、頻繁に聞くようになってきました。

日本体育協会の指針では、熱中症予防のため、気温が31℃以上で運動は厳重警戒、35℃以上で原則中止、と目安が示されています。(湿度や輻射熱も考慮された指標のほうがより望ましい)

ひと昔前より、明らかに気温は上昇しています。35℃以上の日数は、東京の場合1970年代~80年代は1年間で平均1日ほどだったのが、2000年代には約5日に。大阪は1年間で6日ほどだったのが、約16日に増加。今後、さらに増える可能性もあります。

当然、球児の健康を考えるのが一番で、熱中症のリスクに関しては、今以上に議論されるべきだと思います。

ただ、これは高校野球に限ったことではありません。この議論が進むと、高校生以下は夏の大会・部活・体育の授業もという話になってくるはずです。もし、夏の高校野球がなくなるとしたら、他の運動もなくなるのでしょう。

少し話が広がりますが、夏季オリンピックは、北半球の最も暑い7月~8月に開かれます。2020年の招致を目指す東京も、開催期間は7月下旬~8月上旬です。

夏に運動をしなくなった高校生が出場する可能性は、今より低くなると思いますが、心配なのは暑さに慣れていない国から出場する若年の選手です。おそらく出場を止めるのは難しいでしょう。そういった選手を熱中症からどうやって守るか。徹底した対策がとられるべきだと思います。

国内の高校生以下の運動についても、学業などで時期がずらせない事情があるとしたら、対策がいっそう重要になってきます。

まずは、できるだけ気温の低い場所を選ぶこと。たとえば、高校野球なら地方大会の球場を、県内の少しでも気温の低い所にするなどです。

ちなみに、甲子園球場の場合、夏の大会時に気象観測をしたことがありますが、日なたでも連日35℃を超えるようなことはなく、超えても時間はそれほど長くありません。晴れて気温が上がるほど、浜風(海風)が強まる傾向があり、気温の上昇をおさえます。密な観測によって、球場や競技場の特性をまず把握する必要があります。

また、それでも基準値を超える気象状況になったら、雨の時のように中断する、さらに、前日の予測によって気温の低い時間帯に試合をずらす、なども検討されて良いのではないでしょうか。

残念ながら、気象災害は多くの場合、起こってから対策が取られます。選手を守るためにも、先手を打つことが望まれます。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属

TBSテレビ・ラジオ気象キャスター。大学在学中に気象予報士を取得し、民放キー局の報道番組に学生予報士として出演。気象キャスターに携わりながら、企業への予報やアドバイザーも長年担当し、甲子園での高校野球の大会本部気象担当を務めたこともある。災害から身を守る気象情報の使い方など講演も行うほか、Twitterで気象情報を毎日発信。著書に『TEN-DOKU クイズで読み解く天気図(ベレ出版)』がある。1977年滋賀県甲賀市生まれ。

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