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やきとり大吉の進化形「白い大吉」の狙いとは コロナ禍を経て変わる焼き鳥チェーン市場

圓岡志麻フリーライター
「やきとり大吉」がイメージを一新。「白い大吉」とは?(ダイキチシステム提供)

「お酒を飲む」という昔からの楽しみは変わらないものの、それを提供する場所である、アルコール業態の形は時代に合わせ次々に変化してきた。

コロナ禍を経てさらにその流れが加速している。

今回はその中でも、お酒の良きお供である「焼き鳥」を取り上げる。ヘルシーでおいしく、日本人の好みに合う鶏肉を扱い、1本から注文できる手軽さから人気が高い焼き鳥店。大衆的な雰囲気の店から、客単価が7000円以上の高級専門店まで、さまざまなタイプの店が台頭してきている。

人気であるからこそ競争も激しく、とくにコロナ禍を経た今では、差別化がより重要になってきている。

大勢での宴会や、二次会、三次会まで長時間お酒を飲むといった行動はコロナ以前に比べぐっと減った。外でお酒を飲む機会自体も減っているだろう。その分、食事やお酒を楽しむ時間への期待価値が、より上がっていると考えられるのだ。

創業50周年を前に、イメージチェンジに踏み切った

そんな中、大衆的な焼き鳥店の代表とも言える「やきとり大吉」も変わりつつある。

やきとり大吉は1977年創業のダイキチシステムにより、国内外に500店舗以上を展開するチェーン。約620店を展開する「鳥貴族」に次ぐ規模で、鮮やかな赤に極太の店名ロゴの目を引く看板が特徴だ。

看板メニューはもちろん焼き鳥だ。店で1本1本串打ちを行い、焼き加減を見ながら丁寧に焼きあげる。「み(もも)」なら1本154円、生ビールが539円と手軽な値段。

白い大吉では白と木を基調にした上品な店舗デザインを採用。また窓からの店内の見通しをよくするなど、幅広い客層が入りやすい工夫を凝らした(ダイキチシステム提供)
白い大吉では白と木を基調にした上品な店舗デザインを採用。また窓からの店内の見通しをよくするなど、幅広い客層が入りやすい工夫を凝らした(ダイキチシステム提供)

従来の大吉も白大吉も、看板メニューは焼き鳥。手頃な価格も嬉しい(筆者撮影)
従来の大吉も白大吉も、看板メニューは焼き鳥。手頃な価格も嬉しい(筆者撮影)

有名なチェーンではあるものの、お父さんが仕事帰りにちょっと1杯やっていく店というイメージが強く、筆者はこれまで利用したことがなかった。

ところが2022年9月、兵庫県神戸市に、イメージを一新する新しい店舗がオープンした。

外観は木目と白を基調としたモダンなデザインに。看板スペースには八角形の中に「大吉」のロゴを上品に配し、白いのれんに「やきとり」の文字がすがすがしい。一見、高級料理店を思わせる店構えとなった。この新しい大吉は「白大吉」の愛称で呼ばれている。

看板メニューの焼き鳥に変わりはないが、季節感をとりいれた期間限定の変わり串や、野菜などの一品料理も増やし、若い世代や女性、ファミリーなど、より幅広い客層に利用しやすいメニュー構成となっている。

この新たな白大吉は2023年9月現在、6店舗まで広がっている。

「焼き台は舞台」の精神で得意客を掴む

「白大吉」の狙いについて、ダイキチシステム常務取締役 開発・営業担当の近藤隆氏に聞いた。

近藤氏によると、リブランディングは2027年の創業50周年を見据えた「第2の創業」プロジェクトの一環だという。

「全国市場調査を行ったところ、『大吉は知っているけど行ったことがない』という人が多かった。つまりこれまでの大吉は常連のお客様に支えられてきたと言える」

実は常連客の多さが、大吉のビジネスモデルの根幹となっている。

というのも、大吉は創業以来「生業(なりわい)商売に徹する」を理念とし、すべてがFC(フランチャイズ)店で構成されており、店主一人ひとりが経営者。メニューや価格はチェーンとして統一されているものの、セントラルキッチンがないため、アルコール以外の仕入れ、仕込み、接客は店主の裁量だ。

店の広さは「10坪20席」と決め、例えスペースに余裕があってもそれ以上広げることはないという。

「焼き台は舞台。自分の注文した焼き鳥がカウンター越しに見える。店主が調理をしながら目配りできる」

郊外立地での地域密着型のビジネスであるがゆえ、店主の客あしらいと人柄の魅力で常連客を掴むことがすなわち安定経営につながる。日に20人ほど入れば成り立つ商売だという。

「店主は全国で500人以上いるが、十人十色で今まで包丁を握ったことがなかった人も。『おいしいものを食べて笑顔になってもらいたい』という思いを大切にしている。3ヵ月の研修を設けており、基本のマニュアルもあるが、それぞれ自分に合うやり方を見つけて経営している」

焼き台は舞台。カウンター越しの眺めを楽しみながら、お酒を飲みつつできあがりを待つ(筆者撮影)
焼き台は舞台。カウンター越しの眺めを楽しみながら、お酒を飲みつつできあがりを待つ(筆者撮影)

コアなファンに支えられ、コロナ禍を乗り切る

またこうした地域密着型ビジネスは、コロナ禍にあっては大きな強みとなった。時短、アルコール制限が課された時期も、常連客が店主の顔を見に寄るので、他のチェーンに比べれば落ち込み度合いが少なくて済んだ。

さらに大吉は郊外にあり、リモートワークによる影響も少なかった。コロナ禍を機に多くの飲食チェーンが都心や駅前から郊外立地へと切り換えたが、大吉ではその必要はないわけだ。

ただ、逆に言えばこれまで郊外型焼き鳥チェーンとして差別化してきたが、他社も郊外に移ってきたことでほかの強みを出していく必要があるということになる。

また店舗数の減少も課題である。1990年年代前半に急激に増え、1000店を超えたこともあるが、現在は半減している。オーナーの高齢化も理由として大きいという。子供が継がない場合は閉店するしかないからだ。

リブランディングではこうした時代の変化に対応するために、小型店舗、郊外型地域密着といった基本ビジネスモデルは踏まえながらも、より広い客層を取り込むための工夫を施したという。

白大吉の実力はいかに

今回、白大吉の国分寺店を訪ねたが、確かに、外から店内を見通せる大きな窓というところに、従来の大吉との違いが見てとれる。これならちょっと通りかかった新規のお客も入りやすいだろう。またカウンター席のほか、複数人客に対応できるテーブル席も多めに設えている。

なお、広さや20席程度という席数は従来の大吉と同じだ。

リブランディングにあたり新たに開発したメニューも、従来の大吉らしさとは一線を画すものだ。

例えば「しっとりむね肉の大吉サラダ」(600円)。サラダは女性のいる飲み会では必ずと言っていいほど注文されるので、女性客を取り込むなら必須のメニューだ。

むね肉は苦労して編み出したという低温調理により、本当にしっとりと仕上がっている。

「すり鉢半熟卵のポテサラ」(385円)はじゃがいもや卵を自分でつぶして好みの食感に仕上げる、エンタメ要素のあるサラダ。じゃがいもが熱々の状態で食べられる。

「味自慢!ささみカツ」(385円)も低温調理のささみを使った、これまでにないしっとり食感のささみカツだ。タルタルソースをたっぷりつけて食べるのがおすすめ。ボリュームがあるので、1人ならこれ一つでもおつまみに十分そう。

変わり串としては、9月からの期間限定メニュー「デュカとチーズ」(220円)に目新しさがある。チーズと流行の調味料「デュカ」をたっぷりかけたもので、骨を外し食べやすくした手羽先にチーズがからみ、いろいろなスパイスの香りやザクザク食感が味に深みをプラスして面白い。

女性には、定番一辺倒でなくいろいろな味を楽しんでみたい人が多い。「季節のおすすめ串」を加えたのはいいアイディアだ。

価格は「大吉値段」で、お手頃なのも嬉しい。

しっとりむね肉の大吉サラダ。むね肉は独自の低温調理で絶妙なしっとり具合に仕上げられている(筆者撮影)
しっとりむね肉の大吉サラダ。むね肉は独自の低温調理で絶妙なしっとり具合に仕上げられている(筆者撮影)

季節のおすすめ串は、いろいろなものを食べ比べたい傾向のある女性には喜ばれそうだ。写真は流行のデュカを使った「デュカとチーズ」(筆者撮影)
季節のおすすめ串は、いろいろなものを食べ比べたい傾向のある女性には喜ばれそうだ。写真は流行のデュカを使った「デュカとチーズ」(筆者撮影)

流行のデュカを使った

白大吉の今後は?

このように、従来の大吉とは大きくイメージチェンジした白大吉。反響を聞いた。

「売上目標は全店クリアし、男女比も従来は7対3だったが、白大吉は5対5と狙い通り。男性の多い店というイメージかと思うが、現在はファミリーや女性も多い」

白大吉は今後、新規出店していくほか、まずは物件を自社で持っている大吉から白大吉に切り換えていく。また、大吉よりメニュー数が多いことなどから、研修期間を見直すことなども検討しているそう。

将来的な展開としてはまずは白大吉をしっかりと立ち上げることを目標としており、最終的な店舗数などは未定だ。白大吉が盛り上がることによる、従来の大吉への宣伝効果といった相乗効果も期待しているという。

以上のように、手軽さという大吉の良さを残しながら一品メニューも増えて若者、女性、ファミリーにも利用しやすくなった白大吉。大吉の進化形として期待できそうだ。

さて、大吉と言えば、2023年1月4日に鳥貴族ホールディングスがダイキチシステムの全株式を買収したことが記憶に新しい。

かたや直営が相当数あり、テストキッチンも備えたチェーン店。一方でやきとり大吉は全店FCのチェーン店だ。

同じ焼き鳥チェーンとは言え、客層、方法が大きく違う両者。手を結んだことによる変化がどのようなところに表れるのか、興味深いところだ。

※写真撮影・試食用の料理はダイキチシステム提供

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

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