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新型コロナウイルス「最適な消毒薬は?」「安全な使い方は」「入手困難どうすれば?」薬剤師に聞きました

市川衛医療の「翻訳家」
ドラッグストアでは、消毒用アルコールは軒並み売り切れ(筆者撮影)(写真:アフロ)

「消毒用アルコールですか?入荷は未定です。マスクより厳しいです…」

けさ、筆者が近くのドラッグストアで店員さんに尋ねると、そんな答えが返ってきました。

いま、新型コロナウイルス感染症の影響で、消毒薬の品切れが相次いでいます。ネットのショッピングサイトでは1ボトルに1万円近い価格が付けられているケースまで出ているようです。

一方で消毒薬を求めるあまり、人体にとって有害な燃料用アルコールが購入されている可能性も危惧されています。

消毒用アルコール ひと文字違いが命取り(NHK News Web 2020年2月19日)

ドラッグストアには様々な消毒薬が売られています。コロナウイルスが心配な場合、どれを選べば良いのでしょうか?間違えると危険なものはないのでしょうか?

現役の薬剤師として「自分にあった市販薬を選びませんか?」をテーマにブログやSNSなどで情報を発信されている@kurieditsさんに聞きました。

消毒薬イメージ 画像:写真AC
消毒薬イメージ 画像:写真AC

多少入荷してもすぐ売り切れ 医療機関でも不足か

Q)いま消毒薬を求めてドラッグストアにいらっしゃる人は、多いですか?

消毒薬の需要は本当にすごいです。店頭では除菌・消毒関連の商品について1日に何度もお客さんから聞かれます。多少入荷してもすぐ売り切れてしまう。全く入荷してこない商品もあります。市場調査のために街のドラッグストアを何軒も回るのですが、どの店も欠品だらけです。

医療機関に勤務している方が、わざわざドラッグストアの店頭に消毒用アルコールを買いに来たケースもあり、これは本当に大変なことだなと感じました。

その中で気になるのは、先述のニュース(「消毒用アルコール ひと文字違いが命取り」)にもあるように、消毒薬への誤解です。お客さんとお話していると、消毒薬の種類を区別されていなかったり、自己流の使い方をされている方も意外と多く、消毒薬への理解には個人差が大きいと感じます。一口で消毒薬といっても、特徴も使い方も異なりますので、注意が必要です。

コロナウイルスへの対策に適した消毒薬は

Q)ドラッグストアで消毒用の製品のコーナーに行くと、いろいろなものが売っています。コロナウイルスへの対策を考えた場合、何を選ぶべきでしょうか?

消毒薬というのは万能ではなく、成分によって効果が発揮できる細菌やウイルスが決まっています。誤った消毒薬を選んでも、目的のウイルス対策にはなりません。

いまコロナウイルスへの対策として推奨されているのは、アルコール系の消毒薬です(※1)。

通常、消毒成分のアルコールとは「エタノール」成分を指します。ちなみにアルコールではない成分として「ベンザルコニウム」や「クロルヘキシジングルコン酸」なども市販製品によく使われていますが、過去の報告では、コロナウイルスへの効果が認められなかったり、エタノールに比べて劣っていたことが報告されています(※2)。

実はエタノールと並ぶ、もう一つの代表的アルコール成分としてイソプロパノールという消毒成分が市販薬として売られています。こちらも70%以上の濃度でコロナウイルスに効果的とする報告があります(※2)。ただし、匂いがきついことや、エタノールよりも脂を落とす作用が強く手が荒れやすいなど、安全面で欠点のあるアルコールです。

どうしても消毒用エタノールが手に入らない状況では止むを得ない場合もあるかもしれませんが、平時であれば70%イソプロパノールは手指の消毒に使うのはお勧めできません(※3)。

消毒用エタノール 適切に使うために

Q)「エタノール」と書いてあるかどうかが大事ということですね。ほかに、気を付けたほうが良いことはありますか?

エタノールを選ぶ上で着目するのは濃度です。店頭では製品のラベルに記載された成分濃度を確認してみてください。

ポイントは、濃度が高いほど効果が高いわけではないことです。市販薬で入手できる消毒薬のうち、いちばん手指消毒に向いているのは濃度80%前後のエタノールです。

エタノールにしても使いすぎは手を荒らすことになります。手荒れが気になる方は、あらかじめグリセリンなどの湿潤剤が添加されたアルコール系消毒薬を選んだり、使用後にハンドクリームでスキンケアしたりする方法があります。

アルコール消毒イメージ 画像:写真AC
アルコール消毒イメージ 画像:写真AC

詰め替えボトル 100円ショップのもので良いの?

Q)他に、よく質問されることはありますか?

使い方や詰め替え容器の相談も多いですね。手指消毒に使いやすいノズル付きやスプレータイプの消毒薬が早々に売れてしまったため、店頭にはボトルだけの商品だけが残っていることがあります。

「100円ショップのスプレーボトルに詰め替えればいいの?」と質問されますが、そもそも、市販の消毒薬のラベルには「他の容器に入れ替えないでください」と書かれているものがほとんどだと思います。消毒薬の種類によっては微生物が繁殖しやすいものがありますし、容器を変質させてしまうこともあるからです。

実際に100円ショップの空のボトルのラベルを見ると、エタノールを入れないでくださいと書かれた商品がたくさんあります。

また、エタノール禁止の注意書きがない空ボトルでも安全であるとは限りません。例えば、わたしが無印良品で売られている「PET詰替ボトル」について相談窓口に確認したところ、「エタノールの詰め替えによって容器のひび割れなど破損が報告されているので、ご遠慮いただいています」といった趣旨の回答をいただきました。

このほか、詰め替えた容器を、家族がエタノールと知らずに誤用・誤飲してしまう恐れもあります。わたし自身のお客さんの中にも、今回の騒動の中である消毒剤を自己判断で安価なボトルに移し替えたところ、変な匂いがすると言って相談に来られた方がいました。異臭の原因はわかりませんが、安易な詰め替えは避けた方が良いと思います。

消毒用アルコールがなければ手洗いを

Q)消毒用のアルコールが売り切れて手に入らず、心配されている方もいらっしゃいますね。薬剤師としてどのようにアドバイスされていますか?

いま厚労省やWHOなどの公的機関が一般の方々に伝えている手指の衛生対策は2つです。一つはアルコール消毒、そしてもう一つは手洗いです。手洗いも大事なんですね。消毒用のアルコールが手に入らなければ、手洗いを心がけるのが良いと思います。

ハンドソープでしっかり洗う場合は「ハッピバースデー」の歌2回分ほどの時間をかけると良いとされています。

随分長いと感じられるかもしれません。でも、エタノール消毒であっても効果を得るには実は少なくとも15秒は必要です。しっかりと手にすり込み、乾燥させることが大事と考えられています。

消毒用アルコールが手に入らなくても、いつもより時間をかけて手を洗う、むやみに顔に手を触れない、人ごみを避けるなど効果的な対策は実はたくさんあるのです。

安易な転売は違法行為のおそれ

最後に、最近ちょっと気になっていることを、2つ付け加えさせてください。

いまネットのショッピングサイトなどで、消毒薬が高額で販売されています。異常な値付けもさることながら、そうした高額出品者の中には医薬品販売の許可を得ていない業者がいる可能性があります。

というのも、医薬品を販売する際は販売許可やその責任者名などを明記しなくてはいけないのですが、それが見当たらないのです。販売許可を得ずに薬を売ることは違法行為とされるおそれもあります。今の騒動に便乗して、安易な気持ちで薬を売る方が現れないことを祈ります。

また、今、店の現場は異常事態になっています。開店前からお客さんが並ぶ、お客さん同士のトラブルが発生する、お客さんからの問い合わせと質問でスタッフが手いっぱいになると言った非日常が繰り広げられています。

ドラッグストアの現場で働くスタッフは、どうすれば一人でも多くのお客さんにお探しのものをお届けできるか精いっぱい努力しているはずです。どうか、その点をご理解いただければ幸いです。

新型コロナウイルスという脅威を前に、皆で力を合わせてうまく対応していきたいですね。

【取材協力】Kurieditsさん

市販薬の販売に携わる薬剤師。“自分にあった市販薬を選びませんか?”をテーマに、匿名でブログ「ドラッグストアとジャーナリズム」を運営中。JCEJ「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」11位、朝日新聞「未来メディアキャンプ」未来メディアキャンプ賞受賞。

ツイッターは@kuriedits

【参考文献・リンク】

(※1)

厚労省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)

世界保健機関 Coronavirus disease (COVID-19) advice for the public

米疾病管理センター Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)

(※2)G. Kampf et al. Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and its inactivation with biocidal agents. J Hosp Infect. 2020 Feb 6. pii: S0195-6701(20)30046-3.

(※3)「シチュエーションに応じた 消毒薬の選び方・使い方」尾家 重治 (著)

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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