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話題のシンデレラ体重『健康リスク、でもキレイでいたい』やせ願望はなぜ過熱する?文化人類学者の視点

市川衛医療の「翻訳家」
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 いま、「シンデレラ体重」というワードがSNSを中心に話題になっています。

 ある特定のワードに、どのくらい検索が集中しているかを調べられる「Googleトレンド」で『シンデレラ体重』を調べてみると、2月19日前後から多く検索されていることがわかります。

Googleトレンド「シンデレラ体重」検索結果
Googleトレンド「シンデレラ体重」検索結果

「シンデレラ体重」とは

 「シンデレラ体重」は医学用語ではありません。ネットの色々なサイトを見た限りでは、主に女性を対象に、このくらいの体重だと「美しい」とされる目安のような形で使われているようです。

 具体的には、下記の計算式で算出される値とされています。

身長(m)×身長(m)×20×0.9

 筆者は男性ですが、試しに計算してみます。身長171センチですので、メートル単位では1.71となります。それを入れて計算すると

1.71×1.71×20×0.9=52.63kg

 現在の体重より10kg以上少ない値です。ここまでやせろと言われたら、ちょっと厳しいというか、率直に言えば体を壊してしまいかねないと思います。

 実際、この計算式で求められる値は、WHO(世界保健機構)の基準で「低体重(やせ)」とされます(※1)。

 「シンデレラ体重」が話題になっていることについて、ツイッターでは若い女性のやせ過ぎは「将来の骨粗しょう症(骨がもろくなる状態)の危険や妊娠する力の低下など、健康リスクが生まれかねない」という指摘も出ているようです。

 一方で、筆者がインスタグラムで「#シンデレラ体重」と検索してみると、女性を中心に『目指せ#シンデレラ体重 #痩せたい #あと3kg』といった投稿が多く見つかりました。シンデレラ体重は、「痩せたい」と思う人にとって、例え健康リスクがあったとしてもこのくらいを目指したいと思う、一つの目標になっているのかもしれません。

 

画像:pixabay
画像:pixabay

女性がやせ続ける日本

 もともと日本は、食糧事情が安定した先進国には珍しく、若い女性の体重が減り続けていると指摘されています。最新のデータでは、20代女性のおよそ2割が「シンデレラ体重」レベルのやせ型の体型になっています(※2)。

 

 もちろん、体質的にどうしても体重が増えないかたもいらっしゃると思いますが、私の周囲で考えても、例えば30年前と現在を比較した時に、以前だったらむしろ「スリムだね」と言われていたような体型の人が、「もう少し痩せたいんだよね」と悩んでいる姿を見かけるようになった気がします。

 どうしてこんなに、「痩せたい」と願う人が多くなってきたのでしょうか。

 文化人類学者という立場から、女性の体形と社会的な意識の変遷について研究している磯野真穂さん(国際医療福祉大学講師)に、現状をどのように見ているかを聞いてみました。

磯野真穂さん(撮影・高野由香里さん)
磯野真穂さん(撮影・高野由香里さん)

Q)シンデレラ体重が話題となっていること、またそれを目指すことについて、率直にどう思われますか?

「シンデレラ体重」とは、この日本社会の中でやせていようとするのなら、もはやそのレベルまで行かなければならないという、過酷な状態の現れであると感じます。

よくやせているかどうかの基準を考える際にBMI(体格指数)が出されますが、これは医学的な基準であって、私たちが普段の生活の中で人を見る時に使う基準ではありません。

私たちが使う基準は、その人が周りの他者と比べてやせているか太っているかです。つまり周りがやせれば、やせの基準はより厳しくなるのです。そしてその基準は昔に比べてはるかに厳しくなっています。

わかりやすい例がアイドルの体型でしょう。たとえば80年代のアイドルと、いまのアイドルの体型を比べれば一目瞭然ですが、明らかにいまのアイドルの方が細いです。かわいい、きれいと言われる女性の体型はこの数十年でどんどんと細くなっているのです。

Q)女性のやせ過ぎに関して、健康リスクを指摘する声は多くあげられています。一方で「美」を求める人にとって、こうした声は刺さりにくいのではないかとも思います

「リスクを知らないからむやみにやせようとする」と考えて「正しい知識を彼女たちに教えればいいのだ」という啓蒙的な態度をとったり、逆に「ありのままのあなたがいい」といった現代社会にありがちな理想論で、彼女たちの行動を変えたりしようとする視点をいったん保留すべきだと思います。

人は社会的に認められる身体になるために、進んで自らの身体を傷つける一面を持っています。たとえばアフリカにすむヌアーと呼ばれる民族の男性は、大人になるための通過儀礼として、麻酔も使わない状態で頭をぐるっと一周する3本の傷をつけます。中国の漢民族の女性によって行われていた纏足(てんそく)は、3-4歳の頃から足を成長しないように縛り続ける慣習で、足を成長させないため、足の細かな関節に脱臼まで起こさせていました。

この2つは極端な例ですが、顔への刺青や、鼻に棒を指すピアス、子ども頭蓋骨の変形など、外の社会から見たら理解しがたいこともある身体変工に、ある種の美しさが見出され、それが集団の中で美の基準として共有されることは、人間の世界では珍しいことではありません。

そして人が時に身体を激しく傷つけてまで美しさを求めて身体変工を行うのは、その身体でいることになんらかの社会的価値があるから、くだけた言い方をすれば、そういう身体でいた方が、周りに受け入れてもらえるからです。

そのような人間の性質を踏まえたとき、まずすべきは、「そんな危ない体重になるのはやめなさい」という教育的な声かけではなく、「なぜシンデレラ体重になりたいのか」と彼女たちに問うことではないでしょうか?

彼女たちの10年後や、彼女たちが産む子ども達の心配ももちろん重要ですが、その前にまず、彼女たちがどんな世界を生きているのかを知るべきです。彼女たちの「いま」の連続の先にしか、未来はありません。シンデレラ体重に警鐘を鳴らす人々は、どれだけ彼女たちの「いま」を、彼女たちの視点から見ることができているのでしょうか?

それを踏まえた上で私たちにできる働きかけがあるとすれば、体型に過度にこだわらなくとも恋愛ができたり、おしゃれができたり、目標が達成できたりすることを生き方として示すことだと思います。

Q)社会の中に『スリムな女性は「美」であり、目指すべきもの』という意識が強いと、逆に、標準的な体型の人への風当たりが強くなる気もしますね

170cm、54kgの17歳の女子高生にインタビューをしたことがあります。彼女はこの体型を保つために日々涙ぐましい努力をしていました。彼女は私にこう話してくれています。

「背が高くて太っていたら(その体型は周りから見て)『許せない』になってしまう。もしそうなったら、面白くなる以外に生きていく道はない。でも私は面白い女の子にはなりたくないんです。」

彼女は自分と同じ身長で、ぽっちゃりしている女友達がクラスメートから影で揶揄(やゆ)されるのを知っており、自分もそうなることを恐れていました。

こんなエピソードもあります。155cmで53kgの24歳の会社員の女性は「親戚に体型のこといつもからかわれる。本当は嫌だけど、みんなが笑っているから一緒に笑うしかない」と話してくれました。彼女は太っているわけではありません。でも現在の日本の基準に照らし合わせると、ぽっちゃりになってしまうのでしょう。

海外ではやせ過ぎの女性をモデルとして起用しない、あるいは体型をからかいの対象にしないなど、やせの行き過ぎに社会的な歯止めをかけようとする動きが起こっています。

しかし国家が警鐘を鳴らすレベルで若い女性のやせ過ぎが深刻化している日本において、このような動きは一向に起こりません。それどころか体型を笑いの対象にすることはいまだに許されており、芸能人やアスリートの体型の変化を「激太り」と称し、写真とともに面白おかしくネットに晒すこともよく見られる光景です。

このような傾向を批判すると「もう何も笑いのネタにできない」といった逆の批判が来ることもありますが、その結論にたどり着く前に、「なぜ太っていることは面白いのか?」、「何を基準に他者を『太っている』と判断しているのか」、「それをわざわざ指摘することの意味は何か?」を考えて欲しいのです。

シンデレラ体重を目指す女性たちを教育するその前に、私たち自身が健康に害を及ぼしかねないレベルにまでずれこんでしまったやせた体型を「きれい」「かわいい」と感じ、その視線で持って他者の体型を評価し、笑いという名の暴力に晒していないかを見直す必要があると思います。

【取材協力】

磯野 真穂. MAHO ISONO. 国際医療福祉大学大学院講師(博士【文学】)。文化人類学者。1999年、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。2003年、オレゴン州立大学応用人類学修士課程修了(修士【応用人類学】)。2010年、早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。早稲田大学文化構想学部助教を経て現職。2000年より拒食・過食についての研究をはじめ、シンガポールと日本でフィールドワークを行う。現在は主に現役の医療者に向け文化人類学を教える傍ら、医療現場でのフィールドワークを続けている。

【注】

※1 「シンデレラ体重」は、BMI(体格指数)で18.0に相当する。WHO(世界保健機構)はBMIが18.5未満を「低体重(やせ)」と定義している。

※2 平成28年国民健康・栄養調査報告より、20代女性のBMI18.5未満の割合(20.7%)を示した。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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