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「PISA」結果大躍進で〝学力偏重〟路線は加速、教員の働き方改革は後退することになりそうだ

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 PISAとは、経済協力開発機構(OECD)が世界81ヶ国・地域の69万人の15歳を対象にした「学習到達度調査」のことである。4年ぶりに実施された2022年同調査で世界トップ級を回復したことで、教員の働き方改革は後退するかもしれない。

|PISA結果は学力偏重の成果か

 OECDがPISAの結果を公表したのは12月5日だったが、前回の2018年調査で過去最低の15位だった読解力で3位に飛躍し、数学的応用力も6位から5位へ、科学的応用力は5位から2位へと高順位となった。2003年結果で順位が急落した「PISAショック」で、いわゆる「ゆとり教育」から「学力偏重」へと大転換した文科省にしてみれば、その方向転換の〝成果〟がでたわけで鼻高々にちがいない。

 実際、調査結果発表にあわせて行われたOECDのイベントでスピーチを行った盛山正仁文科相は、「コロナ禍でも学びを止めないよう、学校現場は多大な努力をした」と述べたそうだ。学びを止めない教員の努力があったことは事実だが、それが文科省の意図した〝学び〟だったかどうかは疑問である。

 ともかく文科省は今回のPISA調査結果を、自らがすすめてきた〝学力偏重の成果〟にしようとしている。そうなるとPISA調査結果を理由に、ますます学力偏重の路線を強めることになるはずだ。

 問題は、教員の働き方改革が前進することになるのかどうか、ということである。

 学力偏重のために文科省は、学習指導要領で示している標準授業時数を増やしてきている。さらに、その標準授業時数を超えた授業時数を実施している学校も少なくない。それも文科省方針を忖度した〝多大な努力〟の一環と言える。もっとも、そうした〝努力〟と今夏のPISA調査結果の因果関係ははっきりしない。

 ともかく今回の調査結果を文科省方針の成果としたい文科省は、ますます〝多大な努力〟を学校現場に求めてくるにちがいない。多すぎると指摘もある標準授業時数を上まわる授業を実施する学校も増えていくことが懸念される。

|ICT活用だけで働き方改革は前進するのか

 そうなると、当然ながら教員の労働時間が増えていくことは避けられない。それは盛山文科相も懸念しているようで、先ほどのイベントのスピーチで「ICTを活用して勤務時間を短縮しなければならない」と述べている。

 しかし、ICT活用によって授業時数が減るわけではない。授業以外にかかる時間をICT活用で減らす、という意味だとしても、どれほどの成果をえられるのか疑問でしかない。

 教員の働き方改革を前提にするなら、授業時数の検討を優先すべきところである。しかし学力偏重の成果のために〝多大な努力〟を求める姿勢が変わらないのでは、授業時数が減ることはない。そして、ICT活用でも授業以外の時間が劇的に減ることはない。

 つまり、教員の多忙化が解消されることはない。今回のPISA調査結果で自信を深めた文科省は、学校現場にますます〝多大な努力〟を求めることになり、教員の多忙化は加速していくことが懸念される。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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