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教職員の精神疾患による休職が過去最多、それでも「大問題」をスルーする文科省

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 教職員の「メンタルヘルス(心の健康)」が深刻な状況になってきている。10月20日に開かれた「質の高い教師の確保特別部会(第5回)」(以下、特別部会)で文科省が提出した資料「教育職員の健康及び福祉の確保等に関する関連資料」(以下、資料)も、「教育職員の精神疾患による病気休職者(令和3年度)は、5897人(全教員職育職員の0.64%)で、令和2年度(5203人)から694人増加し、過去最多」と問題視している。

|肝心なことをスルーしている文科省

 文科省も「なんとかしなければならない」とおもっているからこそ資料を提出しているのだろうが、そこに記されている数字は令和3年度(2021年度)のものであり、そこから改善されたという話もいっこうに聞こえてこないのだから、さらに悪化していると想像できる。文科省の「本気度」が疑問である。

 資料には、「公立学校教員のメンタルヘルス対策に関する調査研究事業」について来年度に7000万円の予算を要求しているとされている。ただし前年度、つまり今年度も同じ予算額が計上されている。つまり同額の予算をかけて調査研究事業をやっているにもかかわらず、教職員のメンタルヘルスは改善していない、のだ。「いつまで調査研究ばかりやっているのだ」という声が聞こえてきそうである。実際、「事例の創出や効果的な取組の研究を行う」としているだけで、具体的な取組については何もふれられていない。

 調査や研究ばかり口にしながら、じつは教職員のメンタルヘルス対策にとって最重要なことを文科省は問題視していない。ふれたくないのか、「見て見ぬフリをしている」としかおもえない。

 その最重要なこととは、病気休職者の復職支援である。過去最多と問題視するのなら、一刻一日でも早い復職を支援すべきである。そこに大きな問題があるにもかかわらず、まるで文科省は忘れているようである。

 そのことについて、10月20日の特別部会において、委員の妹尾昌俊さんが次のように指摘している。

「休職中の方に対して校長がフォローをするということになっていますが、校長のハラスメントでしんどい方もたくさんいらっしゃるわけで、そこに校長がでてくると正直しんどい、ということがある」

 文科省の「教職員のメンタルヘルス対策検討会議」は2013年、つまり10年前の3月29日付で「教職員のメンタルヘルス対策について(最終まとめ)」を公表している。そこに「復職支援」の項目があり、校長等が定期的に本人と連絡をとって状況を確認する、と記されている。休職の原因が校長だった場合、その「加害者」が「被害者」に定期的に連絡してきて状況確認をするというわけだ。「被害者」にしてみれば、妹尾さんが指摘するように「しんどい」以外のなにものでもない。なにより、「加害者」が親身になって「被害者」の相談にのるとは考えにくい。状況を悪化させ、休職者の休職期間をいたずらに長くし、さらには退職に追い込むことにもなりかねない。

 校長のパワハラが教職員の精神疾患の原因になっているケースは少なくない。筆者は拙著『教師をやめる』や『教育現場の7大問題』でも、校長によるパワハラの多さ、酷さを指摘してきている。

 精神疾患からの復職を重視するのなら、学校現場におけるパワハラの解消を急ぐ必要がある。せめて、精神疾患が理由の休職者に校長が連絡して状況確認する現行制度は早急に見直されなければならない。にもかかわらず、文科省が特別部会に示した資料には、そのことが、まったくふれられていない。

 教職員の精神疾患による休職を減らすために、文科省は「本気」になってほしい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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