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本気で、詰め込みではない子どもの自主性を保護者も望んでいる学校

前屋毅フリージャーナリスト
ドルトン東京学園                           撮影:筆者

 ドルトン東京学園は、大手予備校の河合塾が運営する中高一貫校である。学校教育法第1条に定められた学校(1条校)でもある。大手予備校が運営母体なのだからガチガチの進学校を目指しても当然なのだが、受験指導もしないわけではないが、それは同校の中心にあるのではなく、選択肢のひとつでしかない。

| 保護者は教育に何を求めているのか

 校名に「ドルトン」とあるように、同校ではドルトンプランをベースにした教育が行われている。1条校としてドルトンプランを実施しているのは、日本で唯一である。

 この学校に我が子をかよわせている保護者たちは、何を学校に期待しているのだろうか。校長の安居長敏さんに訊いてみると、即、次の答がもどってきた。

「自分で考え、自分で決め、自ら行動する子に成長してくれることです」

 同じように願っている保護者は、同校だけでなく、一般的に多いはずだ。しかし一方で、「良い大学に進学して、一流の会社に就職して欲しい」というのも保護者の願いである。前者を大事にしたいけれども、現実的には後者を優先してしまうのが保護者の本音ではなないだろうか。だからこそ学習塾にかよわせ、高い進学率を謳う学校を我が子に勧めたりする。

 まして、受験指導では実績のある河合塾が運営するとあっては、そこに期待が集まっても無理ない。それでも安居さんは、「受験指導は指導のなかのひとつでしかない」という。

「本校が開校したのは2019年で、正直にいうと、当初のころは『河合塾がやっているのだからは受験はだいじょうぶだ』と考えて我が子を入学させる保護者もいらっしゃいました。しかし、『それは当校が本来、目指しているものではありません』と説明してきました。最近では、受験指導最優先を望む保護者がいらっしゃると、『そういう学校ではありません』と別の保護者が説明されたりもしています。保護者も変わってきています」

| 詰め込み型教育への問題意識から生まれたドルトンプラン

 先述したように、ドルトン東京学園はドルトンプランをベースにした教育を実践している。ドルトンプランについて、同校のホームページでは次のように説明している。

<ドルトンプランとは、今からおよそ100年前に、米国の教育家ヘレン・パーカーストが、当時多くの学校で行われていた詰め込み型の教育に対する問題意識から提唱した、学習者中心の教育メソッドです。>

 100年も前に、「詰め込み教育」は米国で問題とされていた。いまの日本も詰め込み教育を問題視する声は高まってきてはいる。だが、まだまだ詰め込みは教育の中心に居座っている。ただしドルトン東京学園は、ドルトンプランを軸としているので、詰め込み型の教育を基本とはしていないことになる。

 ドルトンプランでは「自由」と「協働」が重視される。詰め込み型ではなく、生徒が主体的に探求・挑戦し、そして他者とともにすすめていく学びを目指している。

 ドルトンプランとしての型にはまったカリキュラムがあるわけではない。世界各国にドルトンプランを実践する学校があるが、ドルトンプランの軸を大切にしながら、それぞれのカリキュラムを実施している。

 ドルトン東京学園でも、学習指導要領にもとづく授業も行われているが、独自カリキュラムでの学びも多い。ほかの学校なら普通になっている定期テストもない。

 特に4年生から6年生(他校での高1~高3)では、学習指導要領で定められた授業時数は最低限を確保し、自由に学べる時間がより多く確保されている。そこで自分のテーマを追求していくのだが、テーマが受験であれば受験勉強でもいい。

 そうしたなかのひとつ、「探求ラボ」の時間を見学させてもらった。他校なら「総合的な学習」のような時間かもしれない。

 といっても、よくあるように同じテーマをクラス全員が取り組んでいるわけではない。今期だけでも21のテーマがあり、そこから生徒が自分で選んで参加している。学年も関係なく、図書室やカフェテリアなどいろいろ場所で学習がすすめられている。理系の学生グループが指導している授業もあれば、講師を招いての映画に関する授業もあった。海外とインターネットで繋げて会話している生徒たちもいる。とにかく、個人やグループごとに好きなことをやっているようにみえる。印象的なのは、誰もが退屈していないことだ。

 ほかに、教員と2人で向き合って個別授業をうけている生徒もいた。聞けば、生徒から教員にリクエストし、個別またはグループで指導を受けているのだという。

「自立した人間を育てる方針で、それぞれのやりたいことが最大限実現できる環境をつくるのが学校の使命だとおもっています」と、安居さん。くどいようだが、自分をさらに高めるために大学を目指すのなら、それを学校としては最大限、支援する。さらに、安居さんが続ける。

「先生とか大人は子どもより知識もあって偉い、という考え方を私は好みません。子どもと大人は、人間としてはフラットです。子どもから先生が学ぶことも多い。そういうフラットな関係である子どもと先生、そして大人が学び合う空間が学校だと、私は考えています」

| 子どもだけでなく教員も自立

 そのためには、教員も教科書だけに頼り切った授業をしているわけにはいかない。それをやっていると、自立した生徒からの信用をなくすことになりかねない。

「うちの学校に理想の教師像なんてありません。ただ、人間的に魅力のある先生が多いのは事実です。教科の授業でも、生徒に信頼される指導を工夫してやっています。外部から人を呼んできての授業を考える先生も多い。そのために謝礼が必要なら、それを学校にださせる工夫は自分で考えてやることになります。『こうしなければいけない』という決まりがあるわけではありません」

 教員も自分で考え、自分で決め、自ら行動していることになる。教員も、生徒の協働のパートナーなわけだ。自立する生徒や教員が学びを楽しめる場、それがドルトン東京学園のようにおもえる。

 詰め込み型教育に対する問題意識は高まっているが、そこから抜け出せないでいるのが日本の教育の現実である。問題意識をさらに高め、変えていくヒントがドルトン東京学園にある気がしている。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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