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文科省調査に〝あれ〟がない不思議

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 教員は自宅に戻ってからも仕事をしている。全日本教職員組合(全教)は1月19日、「教職員勤務実態調査2022」(以下、「実態調査」)の第1次集計の結果を公表した。それを見ると、文科省が無視している「持ち帰り時間」が無視できない存在であることがわかる。

| 文科省は無視?

「実態調査」によれば、「持ち帰り時間」の平均が4週間合計で14時間44分となっている。「持ち帰り時間」とは、在校時間では終わらなかった仕事を自宅に持ち帰ってやった時間のことだ。

 ただし、この数字は「全職種」を対象にした結果である。「実態調査」は幼稚園から高校、特別支援学校で働く教諭や講師、事務職員、学校司書など広い職種を対象としている。その全職種における平均なので、職種によって差があると考えられる。14時間をはるかに超える「持ち帰り時間」になっている職種もあるということだ。

 この「持ち帰り時間」を、文科省は把握していない。昨年12月23日に文科省は、「令和4(2022)年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」を発表している。「教育委員会」に聞いた教員の勤務実態調査だ。

 そこに、教職員の「在校等時間」等の総時間から所定の勤務時間の総時間を減じた時間、つまり「時間外勤務時間(残業)」についての調査結果も示されている。公立小中学校の教員の時間外勤務時間の上限は法的根拠のある「指針」によって、月45時間とされている。その上限以内に時間外勤務時間を収めている割合が、2019年度に比べて2022年度は増えているという結果となっている。時間外勤務時間は減っている、と言いたいわけだ。

 問題は、文科省の調査における「在校等時間」である。文科省調査の説明では、平日と休日における在校時間、平日と休日の研修などの校外での勤務、そして「各地方公共団体で定める方法によるテレワーク等による時間」となっている。テストの採点や授業準備など教員が自宅に持ち帰ってやっている仕事と、一般公務員を対象にしたテレワークとは必ずしも一致しない。

 つまり、文科省調査に「持ち帰り時間」は、ほぼ含まれていないと考えていい。その「持ち帰り時間」が、全教の「実態調査」では4週間合計で14時間以上も行われている。

 文科省調査は、全教の言う「持ち帰り時間」が加われば、違う結果になった可能性は大きい。しかし文科省も教育委員会も、それを〝見ない〟ようにしているのか、〝見えていない〟のか、抜け落ちている。

| 改善されていない実態

 全教の「実態調査」では、2022年の「持ち帰り時間」は14時間44分で、前回調査の2012年では21時間41分だった。10年前に比べて、2022年は減っていることになる。ここだけ見ると、「改善」されているようにおもえる。しかし、そうではない。

 学校内に残って残業した「校内での時間外勤務」は、2012年の69時間32分だが、2022年は71時間40分と増えている。持ち帰っての仕事は減ったが学校内での残業は増えた、ということである。

 自宅に持ち帰っての仕事は残業にカウントされないので、カウントされる学校内に残っての仕事に移行した、と解釈できる。そうであれば、「賢い判断」といえる。

 そして「校内での時間外勤務」と「持ち帰り時間」を合計した、つまり正しい意味での4週合計での時間外勤務時間は、2012年の91時間13分から、2022年には86時間24分となっている。改善された、と言える。

 ただし、厚生労働省は月80時間の時間外勤務時間を「過労死ライン」としている。「改善」されたと言えなくもないが、依然として教職員は過労死ラインを超える働き方をしている。

 教職員の働き方を考えるとき、「持ち帰り時間」を考慮することは必要不可欠な要素でしかない。にもかかわらず、文科省の調査では無視されている。そこに、「持ち帰り時間」を「自発的なもの」にしてしまいたい「意図」すら感じる。それでは、教職員の働き方改革は前向きにならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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