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「給特法」見直し、日教組と全教は力を合わせられないのか

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 文科省が実施中の教員勤務実態調査の速報値が、来年(2023年)春ごろに公表される。それを受けて、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の見直しに向けて本格的な動きがはじまる。教員にとって給特法の見直しは来年の最重要課題となるわけで、教員の総力をあげての取組が必要とされている。

| 迫る給特法見直し

 教職員組合としては日本最大の日教組(日本教職員組合)の瀧本司中央執行委員長が、『教育新聞』(2022年11月25日Web版)のインタビューで、給特法の見直しについて語っている。そこで瀧本氏は、「(給特法は)完全に廃止、もしくは時間外勤務手当支給の除外要件を外す抜本的な見直しを行うべきだ」と日教組としての見解を明らかにしている。

 これは日教組の方針として大会で決定しているもので、「給特法廃止は労基法へ移行するということ、抜本的見直しは超勤限定4項目以外についても勤務とし、時間外勤務手当・休日勤務手当を支給するということです」と広報も説明する。限定4項目は給特法で例外的に超過勤務として認められているもので、(1)生徒の実習に関する業務(2)学校行事に関する業務(3)教職員会議に関する業務(4)非常災害等やむを得ない場合に必要な業務の4項目となっている。

 しかし教員の超過勤務(残業)は、これ以外のものが多く含まれている。だからこそ、過労死ラインを超える超過勤務の実態にもなっている。これを文科省は、「自主・自発的」な活動として、超過勤務として認めていない。これが実態を無視した「詭弁」でしかないことは、これまでも指摘されてきている。この「詭弁」を撤廃して、超過勤務には相当の手当を支給すべきだ、というのが日教組の主張なわけだ。

 日本の教職員組合で日教組と並ぶ存在である全教(全日本教職員組合)は、「給特法の廃止」までは求めていない。その理由を、「長時間労働解消のための『給特法』のはなし」というパンフレットのなかで、給特法の廃止で「超勤限定4項目」以外の「時間外勤務を命じない」との規定もなくなる、と説明している。さらに、「自発性、創造性に基づく勤務に期待される」という給特法がなくなると、教員の自主性や創造性に基づく自主的な研修も認められなくなる、との懸念も示している。

 ただし、給特法のある現状で、超勤4項目以外の超過勤務は押しつけられていないだろうか。教員の自発性、創造性は尊重されているだろうか。

| 異なるなかに一致する見解

「廃止」については、日教組と全教は見解を異にしているわけだ。しかし、全部が違っているわけではない。

 日教組は「廃止」がダメなら「抜本的見直し」を求めており、具体的には超勤限定4項目以外についても時間外勤務手当・休日勤務手当を支給することをあげている。これについては全教も、先のパンフレットで改正要求のひとつとして「時間外・休日手当を支給しない規定を削除し、法定労働時間を超えた場合、労働基準法37条に準じて計算した賃金を支払う規定を設ける」と掲げている。

 この点については、日教組も全教も一致しているのではないだろうか。それは、今回の見直しで実現しなくてはならない最大のポイントでもある。

 分裂という歴史的経緯があって現在存在している両組合が、簡単に腕を組むことができないのはわかる。しかし迫る給特法見直しは、教員が教員らしさを取り戻し、ひいては子どもたち中心の学校にするための重要な一歩でもある。

 そのためには、教員が力を合わせる必要がある。現実を知らない幼稚な発想と笑われるかもしれないが、両組合が力を合わせるべきところは力を合わせられないかと期待してしまう。そうでなければ給特法見直しは、「改悪」されてしまいかねない。 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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