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「全国学力テスト」という〝大病〟

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 過度なテスト対策が、石川県で指摘された。全国学力テストで毎年トップクラスの石川県だが、石川テレビが「そのウラで指摘される〝過度な学力テスト対策〟」と8月1日に報じている。しかし、教育関係者であれば「学力テスト対策」に誰も驚かないだろう。

| 教育長は知らない学校での過度な対策

 全国学力テストとは、文科省が毎年、小学校6年生と中学3年生を対象に行っている「全国学力・学習状況調査」のことである。その全国学力テストで石川県は毎年トップクラスの成績をあげており、今年の平均正答率でも小学生が国語で全国2位、算数で1位、中学生は国語・数学ともに全国1位となっている。

 そのトップクラスの成績を支えているのは「過度な学力テスト対策」であり、「直前の日に過去のテスト問題を解いているという実態も報告されています」と県教員組合の教文部長が石川テレビの取材に答えている。

 さらに石川県の馳浩知事は、8月1日の県の総合教育会議で「過去問調査を私は厳しく指摘しましたが、点数を上げるだけが目的じゃないわけですから」と苦言を呈している。そして、「現場を所管する教育委員会の皆様にも意識してもらいたい」とも述べた。

 ところが石川テレビの取材に、県教育委員会の北野喜樹教育長は「(過度な対策があるとは)私どものほうでは聞いていません」と答えている。

 おかしな話である。教職員組合も、そして知事でさえも「過度な対策」を認識していると言っているのに、教育長は「知らない」と言っている。

 教育長は、「調査します」とも語っていない。教職員組合や知事から指摘があるにもかかわらず、「聞いていません」のひと言で片付けてしまっている。学校現場を指導する立場でありながら、現場の実態を知ろうともしない。これは、問題である。

| 過度な対策は石川県だけではない

 過去問題を解かせるなどの全国学力テスト対策をやっているのは、石川県だけではない。全国の多くの学校で過去問をやらせるなどの対策が常態化している。学校現場での負担は大きく、「時間をとられて、正規の授業の進行に支障がでている」と多くの教員から聞いた。春休みの宿題として過去問がだされた、という話もあったようだ。

 だから石川県の現状を聞いても、誰も驚かない。どこも同じだからだ。過度な対策の背景にあるのは、全国学力テストでの順位をめぐる競争のエスカレートである。

 それを文科省も知らないはずがない。全国学力テストは競争ではなく、「調査」だと文科省は強調してきている。調査の目的を、「全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」ためと明言してもいる。

 一方で、都道府県別の成績を公表し、競争を煽るようなことをしているのも文科省なのだ。「調査」であるにもかかわらず「過度な対策」をすれば、実態を知ることはできない。調査の目的から逸脱している。それでも文科省は実態を調査するでもなく、競争のエスカレートを是正しようともしない。

 石川県だけでなく多くの自治体が、全国学力テストの順位を上げようと躍起になっている。調査という目的を無視した過度な対策を放置している。文科省も、見て見ぬふりでしかない。もはや〝病〟どころか、〝大病〟である。

 石川県をはじめ教育委員会、そして文科省は、そろそろ「健康な学校現場」を取り戻すことを考えてみてはどうだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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