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文科省も認める小中学生の「在宅勤務」を実現する学校がある

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

「子どもは勉強が仕事」というのなら、学校に行かないで自宅で勉強するのは「在宅勤務」である。文科省も推奨しているわけではなさそうだが、「在宅勤務」を認めてはいる。

| 「在宅勤務」を認める文科省の通知

 高校生では通学しなくても卒業資格を取得できる「通信制」という制度があり、最近では在籍者が増えている。しかし、小中学生では同じような制度がない。通学しなければ、「不登校」という枠でくくられてしまう。

 2021年10月13日付で文科省が公表している「2020年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査結果」によれば、小学校における不登校児童は6万3350人で中学校では13万2777人となっており、合計で19万6127人だ。これは過去最多であり、8年連続での増加でもある。

 ちなみに文科省は、年間30日以上の欠席を不登校と定義している。その範疇にふくまれる不登校の児童生徒が20万人近くもいるというわけだ。ただし文科省の定義にあたらない30日未満の欠席とか登校しても保健室に入り浸りといった児童生徒は、この何倍もいるともいわれている。現在の学校に馴染めない子どもたちは増えている。

 そうしたなかで文科省は、2005年7月に「不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について」という通知をだしている。IT等を活用した家庭での学習活動について一定の要件を満たしていれば校長は出席扱いにできる、というものだ。「在宅勤務」を認めているわけだ。

 ただし、要件として「学習活動が学校への復帰に向けての取組であることを前提」という項目があった。学校復帰が大条件になっていたわけで、それを校長が判断するのはかなり難しい。文科省が「在宅勤務」を認めても、それは「絵に描いた餅」でしかなかった。

 転機となったのは、2016年の「教育機会確保法」の成立だった。これを受けて2019年10月25日付で文科省は、「不登校児童生徒への支援の在り方について」を全国都道府県教育委員会等へ通知している。ここでは必ずしも「登校」を目的とせず、学校以外の場所でも学校と連携した学習活動を行えば出席の取り扱いが可能となる、とされた。

 自治体による教育支援センターや民間のフリースクールだけに通っていても出席と認められる可能性がひろがったわけだ。ただし、そういった施設にさえ通えない不登校の児童生徒はいる。そういう子は「在宅勤務」しかない。新しい通知では、学校と連携して校長が納得しさえすれば、「在宅勤務」でも出席と認められる道が拓かれた。

| 「在宅勤務」をサポートできる学校の秘密

 とはいえ、小中学生の個人が校長を納得させる学校と連携した「在宅勤務」を計画し実行するのは簡単ではない。それをサポートする学校が2019年に誕生した。「株式会社 クラスジャパン小中学園」(以下、クラスジャパン)である。

「授業は現在、4種類のデジタル教材を使用して行っています。その教材を選ぶ基準は、学校で使用している教科書に対応しているかどうかです」と、代表取締役の中島武さんが説明した。

 出席と認められるには「学校との連携」が条件にあるわけで、そのためには学校で使っている教科書に対応している必要があるのだ。とはいえ、学校と同じ時間割で、同じ授業が行われるわけではない。

「先生が講義する映像教材もふくめたデジタル教材を、24時間配信しています。生徒は自分の都合に合わせて受講できるわけです」

 ただ気分次第で受講しているわけではない。クラスジャパンでは、1人の生徒に必ず1人の「ネットの先生」と呼ばれる「担任」がつく。この担任が生徒一人ひとりとネットでの面談をつうじて学習の目標をたて、学習計画を作成し、学習状況の確認と見直しをしていく。チャットでの毎日の声がけや、将来の夢や進路についての相談なども行っている。

 授業を行うわけではないので、ネットの先生は必ずしも教員免許取得者である必要はない。「元教員もいますが、子どもたちの話に耳を傾けながら相談にのるサポーター的な役割ですから、むしろサービス業経験者のような人が力を発揮している場合もあります」と、中島さん。もちろん、対応はネットでの1対1だが、1人が複数の生徒を担任している。

「学習計画は、1日何時限といったような固定されたものではなく、一人ひとりに合わせた授業計画を組んでいきます。たとえば勉強が嫌いで不登校になっている子もいるわけで、その子に1日に4時限も5時限もの授業を押しつけても無理です。得意な科目を1日30分だけやるところから始めて学習習慣をつけていき、徐々に授業時数を増やしていくといった工夫もネットの先生には求められます」

 学校での授業の進行についていけていない子もいる。4年生であっても3年生の授業内容が理解できず、それが不登校の原因になっている場合もある。

「そういう子には、2年生や3年生のところから学び直しをしてもらいます。選択できるデジタル教材だからこそ、それができます。理解できなければ何回も同じ授業を受けることも可能です。デジタル教材の強みです。それもネットの先生が生徒と話し合いながらやっていくからこそ、やれることです」と、中島さん。

 クラスジャパンでは授業だけをするわけではない。ネットで結んでの声優部やプログラミング部などの部活動もあるし、希望者を募ってのリアル体験での遠足も行っている。

 こうした学習進捗状況や担任とのやりとり、担任の所見などはレポートとして月に1度、保護者にメールで送付される。それを保護者が学校に持参することで、学習状況を学校に把握してもらって出席扱いしてもらう。こうしたことで、「在宅勤務」が成立している。

| なぜ株式会社なのか

 気になったのは、「なぜ、株式会社なのか」ということだった。それを質問すると、中島さんから次の答が戻ってきた。

「最初は財団法人で始めたんですが、財団法人だと自治体の受託事業でしかやれない。全部の自治体から受託するのは不可能で、そのうち学校の存在を知った保護者から入学希望がきたのですが、それこそ全国からきました。しかし、受託していない自治体に住んでいる子どもたちの希望を叶えることができない。株式会社なら自治体の受託でなくても、全国から生徒を受け入れられます。子どもや保護者の希望に応えられるわけです。だから、株式会社にして再スタートさせました」

 在宅勤務は大人の世界では広がり、定着しつつある。ならば、子どもの世界でも「在宅勤務」はあっていいはずだ。なにより、それを必要としている子どもたちが存在していることだけは確かである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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