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「情報」を早々に大学入学共通テストにくわえた文科省、そして自ら認める体制の不十分さ

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 この4月に入学した高校1年生から「情報Ⅰ」が必履修科目になった。そして3年後の大学入学共通テストでは新たに「情報」が課されることになったのだが、ちゃんとした授業が実施される状況ではないのが現実である。

| 「情報」教員が足りなさすぎる

 今年の連休前の4月27日付で文科省は各都道府県・指定都市教育委員会などに向けて、高等学校における情報教育の充実についての事務連絡を行った。今年度から高校で「情報Ⅰ」が必履修科目として開始されたのだが、授業を行う教員が不足していることから、教員の充実を求めるとの内容だった。

 大学入学共通テストで「情報」が課されることが決まったのは、今年1月28日のことだった。必履修科目としての開始が今年4月で、その最初となる1年生が受験者となる2025年の大学入学共通テストで「評価」するというわけだ。

 じゅうぶんな教育を受け、じゅうぶんに学んだ生徒が、その「成果」を評価されるのなら、仕方ないのかもしれない。しかし、そうではないのが現実でもある。

 文科省が事務連絡をだしたのは、情報科を担当する教員が不足しているからである。必履修科目になったにもかかわらず、じゅうぶんな授業のできる体制になっていないことを文科省も認識している。だからこその事務連絡なのだ。

 今年2月、NHKは全国の都道府県教育委員会に対し、公立高校で情報を教えている教員の状況を訊いた調査結果を発表している。それによれば、43の道府県で情報の免許がない教員が授業をしている公立学校があると答え、その数は情報を教えている教員全体の2割にものぼったという。情報の授業を担当している教員の全員が情報の免許をもっていると答えたのは東京都、埼玉県、兵庫県、佐賀県の4都県でしかない。

 免許のない教員はちゃんとした授業はできない、とまで言うつもりはない。しかし「情報」を必履修科目にしたからは、それを実施できる体制を整えるのは、文科省の責任ではないだろうか。

 さらに大学入学共通テストの科目として課するのであれば、全国で平等な教育が実現できていることが前提でなければならない。ところが前述のように、免許をもっている教員が授業を担当できているのは、4都県だけでしかない。にもかかわらず大学入学共通テストの科目として課されるというのは平等ではない。

 その状況を理解しているからこその文科省の事務連絡なのかもしれないが、「不平等」状況を文科省が改める方策を示しているわけではなくて、各教育委員会等に「考えて、やれ」と言っているだけにほかならない。

 大学入学共通テストで評価すると「尻を叩き」ながら、その対処策は「勝手に考えて実行しろ」と「丸投げ」しているにほかならない。そういうなかで高校生の「情報」の力が向上していくのかどうか。「情報」を嫌う生徒を生みだすことにならないか不安だ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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