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東京都で教員の残業時間は減った?本当なのか!

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 教員の時間外労働時間(残業)が減少した、という調査結果を東京都教育委員会(都教委)が発表したのは今年2月17日のことだった。しかし取材をしていくと、単純に「減少した」と単純に喜べない現実がみえてきた。

|なぜ残業時間は減ったのか

 都教委では、2019年から毎年10月の教員の残業状況を調べている。それによれば残業が月あたり45時間以下だった教員が、2019年には公立小学校で51.9%だったが、2021年には59.0%となっている。

 2019年5月に都教委は、1ヶ月あたりの残業時間の上限を45時間とする方針を示している。つまり45時間以内であれば許容範囲、と都教委はしていることになる。その45時間以下の割合が増えているということは「許容範囲が増えている」、「残業時間が減っている」という解釈になるわけだ。

 これは、公立中学や都立高校でも同じである。中学で45時間以下が43.7%から51.8%、高校では66.5%から67.0%となっている。

 なぜ、東京都の教員の残業時間は減ったのだろうか。その理由がわかれば、全国で教員の残業時間を減らすための参考になるし、教員の働き方改革を前進させることができる。

 そこで東京都教育庁に取材を申し込み、総務部企画担当課長に応じてもらった。先の調査結果については、「時間外労働(残業)は減少傾向にあるととらえています」と明確な答がもどってきた。

 続けて、その理由について訊いてみる。それに対する返答は、明確とはちょっと言いがたい。

「明確に『これだ』とか、『いちばんのポイントはこれ』というのは、正直なところ、ちょっと分析できていません」

 とはいえ、残業時間の上限を決めただけで、都教委が何もしなかったわけではない。2018年2月に策定した「学校における働き方改革推進プラン」には、残業時間を減らすための施策も盛り込まれている。

「それらの効果があったのかも」としながら担当課長は、まず「外部人材」をあげた。そのひとつが「スクール・サポート・スタッフ」で、教員が行っている学習プリントの印刷や授業準備を外部スタッフが代行するもので、それによって教員の仕事を軽減するのが狙いだ。その存在で、小中学校で教員の在校時間の縮減は「週に3時間24分」になったと都教委は発表している。

 効果があるのなら、もっとスクール・サポート・スタッフの数を増やせば、もっと教員の残業時間は激減できるのかもしれない。しかし、簡単ではなさそうだ。

「現在は1803人が補助対象に決まっていますが、これは地区から申請があって都が認めた分になっています。申請はしても人が集まらないところもあるので、実績としての数は足りないかもしれません。人の多い東京だから、まだ集まりやすいとおもいますが、ほかの地域では厳しいと聞いています」

 その時給を訊ねてみたら、「1050円」との答だった。好待遇とは言いがたく、ここらにも人が集まらない理由がありそうだ。

 もうひとつ、残業時間が減っている理由として担当課長が強調したのが、出退勤を管理するシステムの導入だった。都内の9割以上の自治体がシステムを導入し、管理職(校長、教頭)による出退管理がされているという。

「これによって先生方の働き方についての意識改革がすすみ、時間外労働が減ってきていると考えています」と、担当課長。

|残業時間が減った学校現場の実態

 じつは、教育庁に取材する前に、都内の公立学校に勤務する複数の教員から話を聞いていた。たしかに、「全体的にみると、退勤時間は早くなっている気がします」という感想を何人もから聞いていた。ただし、それは次のように続くのだ。

「なにしろ、管理職にうるさく言われますからね。それが嫌で、早く帰るようにしているようです。遅くなる日が続いたりすると、教頭に呼びつけられて注意を受けます。それは、嫌だし、面倒くさいですからね」

「早く帰れ」と言われて早く帰れるのなら、それで良いのかもしれない。ただし、釈然としない。それで、仕事を終えることができるのだろうか。教員としてじゅうぶんな仕事ができているのだろうか。それを質問すると、誰もが笑いながら答えた。

「終わりません。終わらないから、システムで退勤の手続きを済ませてから居残って仕事するんです。それでも終わらなければ、学校が休みである土日に出勤して仕事します。もちろん、出勤として記録はされません」

 そういう現状を、都教委や教育庁は把握しているのだろうか。担当課長に質問してみた返答が次のようなものだった。

「個別の声までは把握していません。ただ、そういう働き方をされている先生はいらっしゃるでしょうね。単純に帰らせることだけを優先することがないように、管理職の研修のなかでは指導しているはずですが・・・」

 帰る時間を強制して数字のうえだけで残業時間を短縮してみても仕方ない。そういうことが行われているのは、そもそもが業務量が減っていないことに問題があるのではないだろうか。

 教員の残業時間を減らすために都教委では「学校における働き方改革推進プラン」を策定しているが、そこには業務量そのものを減らすための施策は盛り込まれているのだろうか。それについて、担当課長は次のように答えた。

「どう業務量を減らすかについての具体策はだせていません。来年とか再来年といった短期間で業務量を減らすことにつながるかどうかわかりませんが、ICTの活用によっても減らしていけるのではないでしょうか」

 ICTによって効率化はできるかもしれないが、根本的な解決にはならない。いま必要なのは、教員の業務についての根本的な見直しでしかない。そのためには都教委や教育庁は教員の生の声を聞くべきだし、教員一人ひとりが率直な意見を表明することである。それをやらずに上から命じるだけでは、働き方改革を推進するどころか、ますます学校現場をおかしなことにしてしまいかねない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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