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8万円を稼いだ小学3年生は、それからどうしたか・・・。

前屋毅フリージャーナリスト

 美女木小学校(埼玉県戸田市立)の3年生が〝おカネを稼ぐ授業〟を受けた経緯については以前の記事で紹介した。(前回記事:https://news.yahoo.co.jp/byline/maeyatsuyoshi/20220127-00279168)そして2月4日、いよいよ〝稼ぎ〟が授業中に発表された。

| お母さんが目をまんまるにしてた

 授業が始まってすぐ、3年1組のひとりの男の子が「ねぇねぇ、聞いてくれる!」と興奮気味に言って立ち上がった。「『グッズをつくってネットで販売したんだよ』って教えたらね、お母さんが『どういうこと、どういうこと』って、目をまんまるにしてたんだよ」と笑いながら話した。

 それを受けて担任の才田恵理子さんが、「そういうことができるんだって、お母さんも驚いたのかな?」と訊くと、その男の子は「うん、うん」とうなずく。その子だけでなく、何人もの子が同じようにうなずいている。

〝おカネを稼ぐ授業〟に対して、保護者たちも否定的な反応だったわけではないようだ。子どもたちが自分でつくったグッズをネットで販売する授業が行われたことに驚き、感心したらしい。その証拠に、我が子のつくったグッズを喜んで購入したし、学校に苦情を言ってくる保護者などいなかった。

 今回の販売は告知もじゅうぶんにできなかったうえに、販売期間も短かったので保護者の購入に頼るしかなかった。とはいえ、保護者以外からの購入もあったという。

 いよいよ、〝稼ぎ〟の発表だ。売上から商品の原価、手数料が差し引かれた、純粋に子どもたちが手にする金額である。

 1組では、才田さんが金額を1の位から順に大型モニターに表示していく。最初に表れたのは「7」、続いて「9」、その次も「9」だった。さらに、「まだ、あるよ」と才田さんが声をかけると、子どもたちがソワソワしはじめる。

 次の数字は「3」で、ここまでで3997円の〝稼ぎ〟があったことになる。ここらあたりになると、「おっー」と子どもたちの口々から漏れてくる。これで終わりではない。

「まだ、ありますよ」の才田さんの声に、子どもたちは息を詰める。最後にモニターに表れたのは「8」、子どもたちは「わーっ」という歓声とともに手を挙げ、拍手して大喜びだ。〝稼ぎ〟が8万3997円だったことを、子どもたちは確認したのだ。ただし、これは1組だけの〝稼ぎ〟ではなく、3年生の4クラスでの合計金額である。

 どのクラスでも同じようなことになっているのだろうと、隣の2組を覗いてみた。しかし、1組とはだいぶ様子が違っていた。

| クイズ方式で発表

 担任の後藤香織さんが、「お楽しみクイズです。ピタリ賞はいたかな?」とパソコンに向かって話しかけている。黒板には学年合計の下3ケタまでが記され、その前に2つのマスが書かれている。ここに2つの数字が入るという意味だ。子どもたちに〝稼ぎ〟の額を予想させていたらしいのだが、肝心の子どもたちの姿は教室のどこにもない。

 じつは、この日、3年2組はオンライン授業をやっていたのだ。〝稼ぎ〟の発表をクイズ形式にした理由を、あとで担任の後藤さんに訊ねてみたら、「オンラインだと聞くだけになってしまいがちたので、少しでも自分のこととして考えられるように工夫してみました」という答が戻ってきた。

 ともかく、美女木小学校の3年生たちは8万円以上を稼いだ。自分の力で稼げることを知ったことになる。こうなると、稼ぐことが面白くなり、「もっと稼ごう」と言いはじめる子が出てくるかもしれないと、筆者はおもっていた。授業の本筋を外れてしまって、〝おカネを稼ぐ〟だけに子どもたちの興味が向かってしまう可能性もありうる、と案じてもいた。

 ところが、そんな心配は杞憂でしかなかった。子どもたちはすぐに〝稼ぐ〟から離れ、稼いだおカネを使って目的を達成する方法、つまり何を買うのかに話をさっさとすすめていく。教員のファシリテートもうまいのかもしれない。

 カブトムシを捕まえるためのバナナトラップという罠について熱弁する子もいれば、木が必要だと提案する子もいる。必要な材料や道具の値段を、パソコンで熱心に調べはじめている子もいる。少人数のグループに分かれてアイデアを戦わせているクラスもあれば、それぞれのアイデアをパソコンを使って一覧にして話し合いをすすめているクラスもある。いずれにしても、賑やかだ。そして、なにより楽しそうである。

 あれやこれやがあり、虫を増やして飼うためにビニールハウスをつくり、そこに木や花を植えることでまとまりそうなクラスもあった。さらに話がすすんでいくうちに、木や花は短時間では育たないというところに話が広がっていく。

 すると、ある男の子が、「ボクたちが4年生とか5年生になっても面倒みられるかもしれないけど、そのあとに下級生に『あとは、お前たちが面倒みろ』と言っても、下級生は迷惑なんじゃないかな。『イヤだ』と言われるかもしれないし」と言いはじめた。どのクラスでも、同じような問題にぶつかっていたらしい。

 虫や植物を育てるには時間もかかるし、それなりの世話も必要になる。話がすすんでいくうちに、そこに子どもたちは気づいたらしい。教員が指摘したわけではなくて、話し合いをすすめていくなかで、子どもたち自身が気づいていったようだ。

| さらなる難題も待ち受けているようだ

 じつは、さらに問題がある。学校のスケジュールは、基本的に単年度で進行されていく。3年生での学びは3年生のうちに終えなければならないのだ。虫をテーマにした3年生の総合学習は、3年生を終えるときには終わっていなければならないはずである。4年生になった彼らが、3年生での総合学習のテーマを引き続きやっていけるのかどうかは疑問なのだ。

 自分たちで稼いだ8万円を使って、たとえばビニールハウスをつくってみても、彼らが4年生になったときには、下級生どころか4年生の彼らも面倒をみられない可能性もあるのだ。かなりの難題だとおもえるのだが、まだ彼らは気づいていない。

 8万円を稼いだけれど、子どもたちには前方に横たわる問題が見えてきたし、さらなる難題も待ち構えている。それらを、子どもたちと教員は、どうクリアしていくのだろうか。残念ながら、この日の授業は、その答を出すところまでいかずに時間切れとなってしまった。

 これから、どう向き合い、学びを深めていくのだろうか。そして、どんな答を見せてくれるのか、筆者も興味津々だ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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