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教員免許更新制の「廃止」は「発展的解消」でしかない。「発展的」には辛い未来しかないかもしれない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 教員免許の期限を10年として更新時に講習の受講を義務づける「教員免許更新制」を「廃止」する方針を、萩生田光一文科相が23日に表明したと報じられている。休みを使い、しかも受講費も教員負担の制度は、教員にとって大きな負担であることから、不満も大きい。それが「廃止」とあって、歓迎する声も大きい。しかし文科相が言っているのは「完全廃止」でなく「発展的解消」であり、この「発展的」がクセモノだ。それに気づいている教員も少なくないようだが、あらためて確認しておきたい。

|「廃止」ではなく「発展的解消」である

 萩生田文科相の方針表明は、23日に行われた中央教育審議会(中教審)の教員免許更新小委員会が、文科省が同委員会に示した「審議まとめ(案)」(以下、「まとめ」)を了承したことを受けて行われたものだ。その「まとめ」の最後には、「教員免許更新制の発展的解消」と記され、以下のように述べられている。

「『新たな教師の学びの姿』の実現に向けて、教員免許更新制を発展的に解消することを文部科学省において検討することが適当であると考える」

 これまでの教員免許更新制は廃止するが、「新たな教師の学びの姿」を実現するための新たな制度をつくっていくということだ。「発展的解消」とは、そういう意味でしかない。

「新たな教師の学びの姿」について「まとめ」は、「学び続ける教師」であるとしている。そのためには「主体的な姿勢」が必要であり、これまでの教員免許更新時の講習における一律的なものではなく、「個別最適」なものでなくてはならないとしている。

 しかも、具体的な目標に向かって、体系的・計画的に学びが行われるために「適切な目標設定・現状把握、積極的な『対話』」が必要だともしている。さらに、オンデマンド型だけでなく同時双方型もふくめて「質の高い有意義な学習コンテンツ」が必要であり、それらをオンラインで小刻みに学ぶことが必要だとしている。10年に1度の更新時にまとめて受講するのではなく、小刻みに受講するスタイルにしようというのだ。

 そして、「学びの成果の可視化と組織的共有」が必要ともしている。可視化することで任命権者や服務監督権者・学校管理職等は、特定の事項に秀でた教師の発掘や、人事配置や校務分掌の決定その他の取扱に積極的に活用することができるようになる」というのだが、「管理強化」でしかない。

 それには「デジタル技術の活用」によって、「教師の学びを把握し、教師の研修受講履歴を記録・管理していく」ことも盛り込まれている。主体的に小刻みな質の高い学びをすることを求められ、進捗状況は管理職や教育委員会などに逐一把握されることになるのだろう。

|「指導上の措置」にまで言及

 管理強化ではないかと疑問に思うのは、「処分」にまで言及されているからである。「まとめ」には、「任命権者等は当該履歴を記録管理する過程で、特定の教師が任命権者や服務監督権者・学校管理職等の期待する水準の研修を受けているとは到底認められない場合は、服務監督権者又は学校管理職等の職務命令に基づき研修を受講させることが必要となることもありえる」と書かれている。また、「事案に応じて、任命権者は適切な人事上又は指導上の措置を講じることが考えられる」とも述べている。「上」の意に沿わない教員には強制的に研修を受講させ、「指導上の措置」も講じるようにすると言っているわけだ。

 2009年4月に導入された現行の教員免許更新制の設立過程では、「不適格教員の排除に利用しようとしているのではないか」との批判も強かった。そのために現在、教員免許更新制を説明する文科省のホームページでは、「目的」の項で、わざわざ「不適格教員の排除を目的としたものではありません」と注意書きがある。

 しかし教員免許更新制に代わる新しい制度では、「上」の意に沿わない教員、「不適格教員」の「排除」を明確にしているようにも思えるのだ。

 10年ごとの受講だったものを「小刻み」な受講にし、しかも管理を厳しくし、「排除」さえも可能にしているとも受け取れる。それが、「発展的」の意味なのかもしれない。それは教員のため、教育のためになることなのだろうか。

 中教審の小委員会が「まとめ」を了承したことで、それを実現するために文科省は来年の通常国会に関連法案を提出し、2023年度にも現行の教員免許更新制を「廃止」し、新制度をスタートさせるために動きだした。

 問題のある現行の教員免許更新制が廃止されるのは望ましいことには違いないけれど、それに代わって導入される新制度が教員と教育のためになるものなのかどうか、冷静に対応していく必要があるように思える。単純な「廃止」を文科省は考えてはいない。「廃止」の文字だけに喜んでいると、教員にとっては辛い未来を押し付けられることになるかもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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