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そもそも実施は無理だった大阪市のオンライン授業、学校現場は大混乱

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 大阪市はオンライン授業をアピールしたいようだが、「やろうにも、やれない」のが実態でしかない。にもかかわらず、緊急事態宣言延長でも大阪市は独自方針を変更していない。さらに学校現場は混乱している。

|インフラが整っていないのに強行

「やれるのであれば、オンライン授業だってやりますけどね」と、大阪市のある小学校教員が呆れぎみに語った。

 新型コロナ禍のなか、市教委の方針どおりに、大阪市の小中学校ではオンライン授業が実施されていると世間的には受け取られているかもしれない。しかし実際は、そんなことはない。

 午前中にはオンライン授業などを受けて、それから子どもたちは登校して給食をとる。これが、市教委の示したシナリオである。ところが、全部の小中学校で毎日、オンライン授業が実施できているわけではない。

「オンライン授業を実施しなければならないというので、非常事態宣言前に市内の小中学校で接続テストをやったんです。そうしたら途中で切断する、そもそも繋がらない、といった事態が頻発しました。理由は簡単で、全小中学校で一斉に双方向によるオンライン授業をやるためのテストをやったところ、ネット回線がパンクしちゃったんです。基本的な容量の不足が原因です」

 と、先ほどの小学校教員。そもそもオンライン授業を実施するためのインフラが整っていなかったのだ。にもかかわらずオンライン授業の方針を決めて、強行したことになる。

 さすがに容量不足での不具合を放っておくこともできなかったのか、市教委はオンライン授業のできる時間帯を地域ごとの「割り当て」を行っている。オンライン授業を分散することで容量不足をカバーしよう、と考えたのかもしれない。

 割り当てとはいえ制限されるのは時間だけで利用は毎日できる、とおもえなくない。先の小学校教員が続ける。

「割り当てられたのは、小学校の場合で40分間だけ、それも、ほぼ週1日だけでした。これでは、何もできませんよね」

 とてもオンライン授業をアピールできるような実態ではない。オンライン授業を前提に午前中の家庭での授業を市教委は決めたのだが、オンライン授業はできないのでプリント学習が主となった。そのプリント内容について市教委から指示があるわけでもなく、丸投げされた学校現場で考えるしかなかったという。家庭にいることが難しいため、家庭学習とされた午前中でも多くの子どもたちが登校する学校も少なくなかったことが報道されてもいる。

 オンライン授業をアピールしたいのなら、インフラの整備を急がなくてはならないはずである。しかし、「教育委員会が動く気配はありません」と、小学校教員。

 回線容量だけでなく、家庭でのWi-fi環境も必要になるが、それに必要なルーターも大幅に不足している。各学校では何個が不足しているか把握しているのだが、「その確認の問い合わせも教育委員会からはありません」(小学校教員)という状況らしい。インフラ整備を急ぐつもりが、そもそも無いのかもしれない。

 インフラ整備には決断が必要だし、当然ながら予算も必要になる。ここでこそ松井一郎市長の強いリーダーシップの登場が必要なはずなのだが、そういう気配はないらしい。

|独自方針の終了は全国学力テストのため?

 そして、緊急事態宣言が延長された。インフラの改善もないままで、市教委は独自方針の延長を各学校に通知している。ほぼ週1回という頻度は同じだが、時間は40分から35分に短縮されている。条件は悪くなっている。

 家庭学習とされていた時間は正規の授業としては認められないので、大幅な授業時間の不足が生じることにも変わりはない。

「取り戻すことは不可能ではありませんが、それには遠足など学校行事を大幅に削減する必要があります。その調整もたいへんです。それ以上に、子どもたちにしてみれば不満でしょうね」

 と、先の小学校教員。夏休みの短縮さえ市教委は検討しているとの報道もある。インフラも整わないなかでオンライン授業の方針だけを強行したツケは、子どもたちと学校現場にまわされることになっているのだ。

 さらに注目すべき点がある。緊急事態宣言は5月31日まで延長されたが、大阪市の独自方針の延長は21日までで、24日の月曜日からの割り当ては示されておらず、通常に復するらしい。緊急事態宣言の前に独自方針は解除するというわけだが、いったい、どういう理由なのだろうか。

「全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)に参加するためだ、と教員のあいだではもっぱらの噂です」(先の小学校教員)

 文科省は全国学力テストを、緊急事態宣言が解除しない5月27日に、予定どおり実施する姿勢を崩していない。その文科省は3回目の緊急事態宣言、それが延長されても、宣言対象地域にも通常どおりの授業を指示した。それに逆らって大阪市は独自方針をとったわけだが、全国学力テストでは文科省の方針に素直に従うつもりなのかもしれない。大阪市は、いったい何を大事にしたいのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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