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文科省vs.財務省の大バトル開始を告げた「35人学級」改正法の成立

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 小学校での「35人学級」を実現していく改正法が3月31日に成立した。4月1日に施行されて動きだしているが、これは本格的な「文科省vs.財務省バトル」がスタートしたことも意味する。

|35人学級を財務省が納得しているわけではない

 3月31日の衆議院本会議で義務標準法の改正案が全会一致で可決し、1980年に定められて40年ものあいだ継続されてきた40人学級(小学1年生は35人)から35人学級へ段階的に引き下げられていくことになる。もちろん、これで終わりではない。むしろ「スタートした」と言ったほうがいい。

 35人学級を実現するにあたって文科省は、不足する教員を加配から振り替えるという案を示して抵抗する財務省を説き伏せた経緯がある。習熟度別指導など特別に認められた授業のために特別に配置される教員が加配であり、彼らを35人学級導入で増える学級の担任に振り向ける措置などで、当面は35人学級で必要になる教員を最低限の増加に抑えて、つまり予算を最小限に抑えることで財務省も納得したわけだ。

 しかし、加配をどんどん学級担任にしてしまうと、本来の加配が必要なところに配置できないことになってしまう。そこをどうするのか、まだ不透明なままになっている。35人学級の導入がすすみ、教員の数を大幅に増やさなければならない事態になれば、財務省が抵抗するのは目に見えている。

 今回は小学校だけの35人学級だが、文科省が要求していたのは小中学校での35人学級の実現だった。財務省の抵抗を崩すことができなかったのだ。

 ただし中学校の35人学級を文科省が諦めたわけではないし、今回成立した改正法には附帯決議があり、それも可決されている。そこには、「中学校の35人学級の検討を含め学校の望ましい指導体制の構築に努めること。また高等学校の学級編制の標準の在り方についても検討すること」の一文もある。中学校の35人学級だけでなく、高校での学級定員についても検討を求めているのだ。

 実現していけば、どんどん教員数を増やしていかなければならないことになる。それは、財務省としては絶対に許せない。

 昨年12月の2021年度予算をめぐる大臣折衝で萩生田光一文科相に35人学級を認めさせられた麻生太郎財務相は、その後の記者会見で「40人学級、団塊の世代なら60人学級ですからね。あのころの人の程度が極めて悪くて、35人学級のほうが程度がいいという証明をしてもらわないと具合が悪いんじゃないですかな」と述べている。35人学級がいいというなら成果で示せ、というわけだ。嫌々ながら35人学級を呑まされた麻生財務相の悔しさが伝わってくるようだ。

|萩生田文科相も戦いのかまえ

 これに対して萩生田文科相は、3月12日の衆議院文部科学委員会で、35人学級の成果を全国学力テストの結果で示せばどうかとの質問に、「テストの平均点が上がることだけがエビデンスではない」と答えている。35人学級の成果など簡単にでるものではないので、全国学力テストの点数という土俵に上がってしまえば、「結果がでないじゃないか」と麻生財務相に切り込まれかねない。それを盾に財務省は、教員数を増やすことも、中学校での35人学級にも徹底的に抵抗するにちがいない。

 文科省としては不利な戦いを強いられることになる。そうならないために、テストの成績だけで35人学級の成果を評価することに萩生田文科相は異議を唱えたのだ。文科省vs財務省の前哨戦だったともいえる。

 小学校での35人学級導入がスタートすれば、「証拠を示せ」と迫る財務省と「簡単には評価できない」と抵抗する文科省とのバトルはエスカレートしていくはずだ。中学校の35人学級導入でも大バトルは避けられない。改正義務標準法の成立は、まさに両者のバトル開始を告げる号砲だったといえそうだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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