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コロナ終息でも夏休み短縮、変形時間労働制は飾りだけとなるのか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「姫路市教委は2021年度の小中学校と特別支援学校の夏休みを7日間短縮し、35日間とする方針を決めた」と、『毎日新聞 地方版』(9月20日付)が報じている。

 夏休み短縮といえば、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)をきっかけとする長期休校での学習の遅れを取り戻すために全国の学校で実施された。しかし姫路市教委が決めたのは、来年の夏休みの短縮である。いまから新型コロナの影響が懸念されているのかといえば、そういうわけではなさそうだ。

 同記事は、「新学習指導要領で増加した授業時間に対応するため」と説明している。今年度から実施されている新学習指導要領では小学3年生以上で外国語活動や外国語、プログラミング教育も導入され、学習内容が増えている。それに対応するには従来の授業時間では不足するため、授業時間を増やす傾向にある。

 夏休み短縮もその一環で、新学習指導要領の導入に対応するための授業時間を確保するためなのだ。今年の夏休み短縮が新型コロナのせいにされているが、新型コロナがなくても夏休みの短縮は行われていた可能性が高い。

 昨年6月29日付の『朝日新聞』は、「公立小中学校の夏休みを短くする動きが広がっている」と報じている。まだ、新型コロナの気配すらないときのことである。

 記事は、「朝日新聞社が都道府県庁所在地市区と政令指定市の計52教育委員会に尋ねたところ、6教委が2016~18年度に規則で夏休みの期間を短くし、4教が19年度から短くすることを決めていた」と伝えている。その理由を記事は、「学習指導要領の改訂で教える内容が増え、授業時間を確保する必要があるためだ」としている。

 新型コロナ騒ぎがなくても夏休みを短縮する学校はあったし、そこに足並みを合わせるように短縮に踏み切る学校が増えていたであろうことも容易に想像できる。その動きが、新型コロナのために霞んでしまっただけのことだ。

 そして来年、新型コロナとは無関係に夏休み短縮の動きが早くも始まっている。これから、どんどん拡大していくのも確実だ。

 そうしたなかで懸念されるのが、教員の働き方改革ということで導入されようとしている変形労働時間制である。昨年12月4日に給特法(教職員給与特別措置法)の改正が成立し、公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を自治体の条例で導入することが可能になり、来年の4月1日から施行される予定だ。

 学期中の忙しい時期に勤務時間を延ばし、その分を夏休みなどにまとめて休みをとることで帳尻を合わせようというのが変形労働時間制だ。1年単位で調整することで、教員の超過勤務を減らすと文科省などは説明している。

 問題は、ほんとうに夏休みなどにまとめて休みをとることができるのか、ということだ。それを前提に残業を強いられたにもかかわらず、まとめての休みをとれなければ目も当てられないことになる。

 授業時数は増えるし、教員の業務がいっこうに減る気配もない現状では、学期中の教員の残業時間は増えるばかりだ。文科省や教育委員会は変形労働時間制を逃げ口上にしようとしているのだろうが、来年以降の夏休み短縮も広がっていくなら、夏休みにまとめて休みをとるのも困難になる可能性は高い。変形労働制は机上の空論になるかもしれない。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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