Yahoo!ニュース

新型コロナでパニック状態の学校を正常化するには少人数学級の導入しかない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

●丁寧に子どもに接することができない学校の実情

 新型コロナウイルス(新型コロナ)の影響で臨時休校に突入した学校も、次々に再開している。当初こそ分散登校や分散授業だったが、6月半ばごろからは全員が一斉に登校する通常登校に戻っている学校も増えてきている。

 通常登校で学校は新型コロナ以前に戻ったのかといえば、そんなことはなさそうなのだ。再開した学校現場では、混乱が広がっている。

 その状況を把握するために桃山学院教育大学人間教育学部の松久眞実教授が、数十人の小学校教員を対象にした緊急のアンケート調査を行っている。6月中旬に授業はスタートしたにもかかわらず教育委員会からは今年度の教育課程は年度中に終えるよう指示がでており、さらに安倍晋三首相による突然の休校要請を受けて3月初めから休校に突入したため前年度の積み残しもあるため、再開後の授業はまさに急ピッチですすめなければならなくなっている。さらには新型コロナ感染予防策までを押し付けられ、まさにパニック状態となっている学校現場の現実がアンケート結果から浮かび上がってきている。

「3ヶ月の休校中の教育力の差はすさまじく、格差の広がりを実感している」とアンケートで訴えている教員がいる。休校中にたくさんの宿題がだされたが、それをきちんとやれるかどうかは保護者の力が大きく、保護者にバックアップしてもらっている子どもは宿題をやっているが、そうでない子どもはまるでやっていない。

 それでも急ピッチで授業をすすめなければならない状況では、「宿題を全員がやっているものとして授業をやるしかない」という教員の意見がある。支援が必要な子どももいるわけだが、「授業以外にも教室の掃除や消毒も教員の仕事になっているため、補習をやる時間がとれない」と嘆く教員の声もある。

 たとえば1年生の1学期には「ひらがな」を習うことになっているが、休校のためにそれは宿題になっていた。そして再開後の学校では、ひらがなは読めるものとして授業がすすめられる。しかし実態は、ひらがなの読めない子がクラスの4分の1もいたりするという。それでも、教員は全員が読めるものとして授業をやるしかない。そうでなければ、今年度中の教育課程を年度中に終えることはできないからだ。

 当然、授業についていけない子は、どんどん置いていかれることになる。それがわかっていながらも、手一杯になっている教員はどうすることもできない。無視できれば楽なのかもしれないが、それができない教員は悩みを大きくしている。

 それでも、授業は計画どおりにはすすまない。ある教員はアンケートに、「子ども同士の距離を空けるために机の間隔を広げると、教室の後ろまで机の列が伸びます。それだけ教師との距離も離れるわけで、それによって子どもたちが授業に集中しなくなる」と答えている。授業は遅れることになる。

●心を痛める教員たち

 学習以外でも、子どもたちの感染防止に注意をはらうのも教員の仕事になっている。検温のチェックにはじまり、3密(密閉、密集、密接)を避けるために、「寄るな」「触るな」「喋るな」と教員は子どもたちに注意しつづけなければならない。子どもたちは不快なマスクをはずしたがるので、それにも目を光らせて注意しなければならない。

 注意されつづける子どもたちも、たまったものではない。もちろん教員も、である。「こんな注意ばかりで嫌になる。もっと手をかけたい、優しい言葉もかけたいとおもっているけれども、その時間がない」と訴えている教員もいる。「子どもたちを追い込んでいる自分が嫌になる」と、自己嫌悪に陥ってしまっている教員の声さえある。

 子どもたちへの対応だけでなく、保護者対応もたいへんになっている。保護者も新型コロナ休校で不安を募らせているためなのか、頻繁に学校に電話をかけてくる保護者が増えているという。「その電話対応だけでも、毎日2~3時間もの時間をとられている」と、悲鳴のような教員の声もある。さらには、「長期休校で生活リズムが乱れている子が多く、子どもが朝起きないから起こしてくれと要求してくる保護者もいます」と困りきった声もある。

 学校に行きたがらない子どもも増えている。そういう子を、保護者が学校まで送ってくるケースも少なくない。「保護者がイライラしているのは、見ているだけでもわかります。じっくり相談にのってあげたいとおもうのだが、その時間がとれない」と、教員は心を痛めている。

 再開して通常登校に移行しつつある学校現場は、まさにパニック状態でしかない。このアンケート調査を実施した松久教授は、次のようにコメントする。

「学校や教員に、二律背反することが求められています。つまり、『新型コロナの感染防止を完璧にし、それでも学習の遅れを取り戻せ』というわけです。これを両立させるのは至難の業で、教員はジレンマに苦しんでいます。『フラフラで倒れそうだ』と訴えています。

 新型コロナの第2波、第3波も予想されているなかで、もはや対症療法では学校を混乱から救うことはできません。やらなければならないことは、教員の数を増やし、少人数学級を1日でも早く実施することです」

 萩生田光一文科相は教員のがんばりを支援するために地方公務員から国家公務員への「格上げ」を考えていると発言しているが、そんなことでは学校現場の混乱はおさまらない。飴で釣って教員をがむしゃらに働かせようとしても、とうに教員は限界を超えている。文科省や教育委員会に求められているのは、教員の声に真摯に耳を傾けて現状を知り、ほんとうに有効な対策を迅速に実行することだけである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事