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どんどん「犠牲者」をだすかもしれない萩生田文科相の発言

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 萩生田光一文科相が、「英語民間試験は制度上大きな問題があると判断した」と『教育新聞』(2019年11月26日付)のインタビューで答えている。かなり、とんでもない発言かもしれない。

「もともと存在している民間の英語検定を借りて、新しい大学入試制度を作ろうとしたところに無理があった」と述べたうえで、萩生田文科相は「大学入試センターがやる試験ならば、例えば、文科省が責任を持って全国の高校を借り上げた上で、試験会場として再配分するようなことをしなければならない」と語っている。英語民間試験の活用を根底からくつがえすような発言だ。

 実際、「もともとあるものを使わせてもらえないかではない。国の方針を決め、それに協力してくれるという民間の人たちには引き続き協力をしてもらえるような仕組みも考えていきたい」とも語っている。民間試験の業者は国に協力したいなら参加できるようにしてもいい、といっているようなものだ。英語民間試験制度では「メイン」だったはずの民間を「サブ」にするというわけだ。

 こんな扱いをうけて、英語民間試験の業者は黙っていられるのだろうか。来年からの民間英語試験実施を目前にして、どの業者も会場などの準備を慌ただしくすすめていたところに、突然、萩生田文科相が中止を宣言した。そのうえメインからもはずされるとなれば、まさに踏んだり蹴ったりの仕打ちである。

 そもそも英語民間試験が延期になったのは、萩生田文科相の「身の丈発言」がきっかけといってもいい。英語民間試験は複数回の受験が認められていたが、それには経済的な負担がともない、1回しか受けられない受験生と複数回うけられる受験生では格差が生じる。これについて萩生田文科相が、今年10月24日のテレビ番組で「(英語民間試験は)自分の身の丈に合わせてがんばってもらえばいい」というような発言をして、大きな批判を浴びた。

 英語民間試験そのものは認めての発言だったわけだが、批判の声が大きくなると、その原因となった英語民間試験そのものの見直しを萩生田文科相は発表したのだ。英語民間試験を問題視していたなら、「身の丈発言」などするはずがない。

 そのあげくが、民間を「サブ」にする今回の発言である。やりたい放題だ。

 萩生田文科相が言っているように、民間試験を活用するのではなく国主導の英語試験にするのなら、根本からの変更だから大混乱となるのは必至である。そして、英語民間試験の活用を制度化した責任を誰かがとらなければならなくなるはずだ。

 萩生田大臣は、その発言で問題をひろげている。それによる「犠牲者」も、どんどん増えることになるかもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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