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日本でひとつのモンテッソーリ教育小学校課程、83歳の情熱

前屋毅フリージャーナリスト
モンテッソーリ教育を生みだしたマリア・モンテッソーリ女史(写真:Shutterstock/アフロ)

 モンテッソーリー教育といえば、「将棋の藤井聡太だよね」との反応が定番の時期があった。2017年6月に、デビュー戦から連勝を重ねてきた藤井聡太7段(当時は4段)が14歳で歴代最多連勝記録を更新(29連勝)し、大騒ぎになったころのことである。

 藤井7段が3歳で入園した地元の幼稚園がモンテッソリー教育を取り入れており、記録更新を可能にした彼の並外れた集中力は、その教育の賜だと注目されたのだ。いまでも、モンテッソーリ教育から藤井7段を連想する人は少なくないようだ。

 モンテッソーリ教育は、イタリアで女性として初めての医師となったマリア・モンテッソーリ(1870~1952)が生みだした教育法である。日本では、日本人として初めてモンテッソーリ教師の資格を取得した赤羽恵子氏がイタリアから帰国して活動を始めた1963年から広がりはじめたといわれている。

 現在は、モンテッソーリ教育を謳う幼稚園や保育園は日本にも多く存在している。しかし、モンテッソーリ教育を行う小学校の存在は、あまり耳にすることはない。

 それもそのはずで、小学校課程でモンテッソーリ教育を実施しているところは、日本に2校しかないという。うち1校はインターナショナルスクールであり、日本人が経営するところとなると、たったのひとつしかない。

 それが、横浜市青葉区にある学校法人「高根学園」が運営する「マリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクール」である。ただし、文部科学省(文科省)の認可を受けているわけではないので、正しくはフリースクールである。

 このマリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクールを設立したのは、高根学園の理事長を務める高根澄子さんである。83歳になるというが、かくしゃくとして、弁舌もさわやかだ。モンテッソーリ教育を実施している保育園や幼稚園は多く存在するのに小学校は数少ない理由を彼女に訊ると、「文科省の従来の教育が壊れるからです」との答が戻ってきた。

83歳でもモンテッソーリ教育の情熱を燃やす高根澄子さん
83歳でもモンテッソーリ教育の情熱を燃やす高根澄子さん

 そして彼女は、モンテッソーリ教育と文科省教育の違いのポイントを列挙した。そのひとつが、文科省教育は「競争心をあおる」のに対してモンテッソーリ教育は「個々の良いところを認める」ということだった。

 言うまでもなく、いまの学校は「競争」が付き物だ。全国学力テストをはじめ、文科省は子どもたちに競争を強いている。

 対してモンテッソーリ教育は、一人ひとりの良いところを認め、伸ばしていく教育なので、「自分で考えられる、自分の意思をしっかりもっている、自分の将来は自分で決めていく子どもに育ちます」と、高根さんは説明する。

 根本的に違う。最近の文科省は方針転換をはかろうともしているようだが、そうそう簡単ではない。

 高根さんが教育に関係しはじめるのは、20代半ばで長女を出産したのがきっかけだった。卒業した大学も教育関係ではないし、卒業後も秘書の仕事をしていた彼女は、それまで教育とは無縁だった。高根さんが言う。

「子どもが興味深い存在だと気づいて、どういうふうに成長していくんだろう、と興味がわきました。自分の子とほかの子では成長に違いがあるので、さらに興味深い存在でした。そこで近所のお子さんを預かりはじめたら、どんどん増えて30人にもなってしまいました」

 当然、1人では面倒をみきれないので、人も雇った。そうそう高い保育料は取れないので、たちまち赤字経営になってしまい、苦境に立たされることになる。それでも中断はしなかった。

 そうこうしているうちに、町田市から保育園経営を任されて園長に就任することになった。「それまで教育の勉強を系統だててやったことがなかったので、勉強しようとおもい、学校に行き始めました」と、高根さん。

 高根さんが選んだのが、「上智モンテッソーリ教員養成コース」だ。モンテッソーリ教育の教員を養成する、日本で初めての学校である。初代の主任を務めたのが、先に紹介した日本にモンテッソーリ教育を伝えた赤羽氏だった。

「ここで、人間って、こうして成長していくのか」と学びましたね。このコースに満足できなかった彼女は、本場のイタリアに何度も足を運んで学んだ。

 そして2000年に現在の横浜市青葉区に、高根学園を設立し、横浜・モンテッソーリ幼稚園を開園する。さらに2008年、小学校課程のマリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクールをスタートさせるのだ。

「幼稚園でのモンテッソーリ教育を高く評価してくださった保護者の方々から『ぜひ小学校もやってくれ』という要望があって、それで始めたんです」と、高根さん。

 スタート時は生徒数13名だったが、現在は1年生から6年生まで70名の生徒が通っている。子どもたち一人ひとりの良いところを認めて伸ばしていくには、一人ひとりと丁寧に接しなければならないので、教員の数も必要になる。さらに教員にも高い質が求めらる。高根さんは毎年、教員をイタリアに留学させて学ばせてもいる。それもあって、現在の生徒数に抑えているのだ。

「子どもが成長していくのは、教員の力だけではありません。ここは縦割りのクラスで、1年生から3年生までと4年生から6年生までの2クラスになっています。そのなかで下の子は上の子を見習いながら、友達同士で助け合いながら、成長していきます。将来のことも自分で考え、決めていくんです」

 日本におけるモンテッソーリ教育は、モンテッソーリ教育の教具だけが注目されているようなところがある。その教具を使っていればモンテッソーリ教育をやっている、と考えられている節がないではないのだ。モンテッソーリ教育を理解したうえで教具の指導をしなければ、実は意味がない。小学校課程でモンテッソーリ教育を実施するなら、より深い理解と実践が必要になってくる。

 だからこそ、小学校課程でモンテッソーリ教育を行う、日本人の経営する学校は、日本でひとつだけなのかもしれない。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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