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企業内保育所の拡大をめざす厚労省の策に落とし穴はないのだろうか

前屋毅フリージャーナリスト

厚生労働省と経済界は待機児童の解消に向けて2017年度末までに企業内保育所を5万人分増やす方針だ、と12月20日付け『日本経済新聞』(日経)が伝えている。待機児童問題は深刻であり、その解消にむけての施策としては歓迎すべきものである。

しかし、これで待機児童問題が根本的に解決するわけではないことも指摘しておかなければならない。

『日経』の記事によれば、企業内保育所を利用している子どもは、2014年3月時点で約7万1000人だという。「新たに5万人を整備すれば一気に7割増える」と、同記事は前向きに評価するニュアンスで書いている。

ただし現在、企業内保育所を設けているのは、同記事も「大病院やヤクルト、資生堂など女性の多い企業が中心だ」と書いている。「女性が多い企業」に企業内保育所をつくるのは当然なのだが、問題は「大病院やヤクルト、資生堂」、つまり大企業に集中しているというところである。

女性の働く場は大企業ばかりとはかぎらず、中小企業に勤める女性も数多くいる。そういうところの企業内保育所が充実しているかといえば、そんなことはない。

中小企業の企業内保育所の整備がすすんでいないのは、企業側の負担も大きいからだ。だからこそ、負担に耐えられる大企業ばかりの整備がすすんでもいるわけだ。中小企業にも企業内保育所を浸透させるには、企業側の負担を減らすことが重要になってくる。

今回の厚生労働省の方針では、少子化対策の財源として企業が国に納める子育て拠出金の両立を0.05ポイント引き上げ、それによって捻出される800億円程度を助成金として企業に配るというものだ。

もちろん、その助成金だけで企業内保育所の運営費がすべて賄われるわけではない。企業側が少なからず負担を強いられる状況に大差はない。それに耐えられる企業しか、企業内保育所を設置できないことに変わりはない。つまり助成金は大手企業にまわり、やはり中小企業では企業内保育所の設置が遅れるという状況が画期的に改善されることは期待できないのだ。

もうひとつ、特に都市部にある企業内保育所の問題は、どうやって保育所に通うのか、にある。親と一緒に「通勤」することになるが、大人でも辟易する通勤電車に乗って子どもが通うのはたいへんなことだ。親は子どもを預けられて助かるかもしれないが、子どもにとっては苦痛の日々でしかない。

保育所は、やはり住んでいるところの近くにあるのが望ましいのではないか。少しばかり助成金を増やして大手企業ばかりを優遇するような施策で行政の責任を果たしたような気にならず、もっと地域の保育所整備に頭もカネも使うべきではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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