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福島原発事故、草ぼうぼうの公園が笑ってる

前屋毅フリージャーナリスト

雑草が伸び放題で、まるで廃墟です――福島県内のある街に住む知人からのメールが届いた。彼の住む街では、このような公園が増え、目立つという。

夏だから草も伸びるだろうよ、とおもう人もいるかもしれない。しかし子どもたちが遊ぶ公園が草ぼうぼうでは、親から文句の一つもでるはずだ。公園を管理する自治体の責任なのだから、職務怠慢と責められても仕方ないだろう。

しかし、そんな公園で遊ぶ子どもの姿はないという。子どもが遊ばないのだから親からも文句はでない。親からの文句がでないからなのか、「どうせ子どもたちが遊ぶわけがないから」と自治体自体がおもっているからなのか、草は伸びるにまかせられているのだ。そして、廃墟然とした姿をさらしている。

東京電力福島第一原発事故(福島原発事故)によって飛散した放射線物質は、大勢の人に避難生活を強いるほど、福島県内を汚染した。強制避難させられなかった地域でも、事故以来、放射線量の数値は高いままである。

そんな放射線量が高い屋外で子どもたちを遊ばせるのは、あまりにもリスクが高い。だから、子どもたちは公園では遊ばない。親たちも遊ばせない。遊ばないから、公園が草ぼうぼうでも、誰も文句を言わないのだ。

自治体はといえば、「安全」のキャンペーンに必死になっている。他県への避難が増えて住民が減るのを懸念しているのだろう。

そのために、除染作業に力をいれていることを強調してみせる。その除染も、劇的な効果が得られるわけではないことを多くの人は、すでに気づいている。

だから、子どもたちを公園では遊ばせないのだ。かといって、子どもたちは体をつかって遊ばないわけにはいかない。そんな子どもたちは、「屋内遊び場」に集まる。ここは常に満員状態だという。

福島県内に住んでいる人たちは、けっして安心して住んでいるわけではない。放射能の影響を恐れながら、それでも経済的な問題などがあって離れないでいるのだ。その苦しい信条を、草ぼうぼうの公園が語っている。

「安全だ」と繰り返す自治体だって、ほんとうに安全だとおもっているわけではない。思っているなら、公園で子どもたちが遊ぶことを推奨するだろう。公園を草ぼうぼうのまま放ってはおかないだろう。

それどころか、公園を嫌って子どもたちが遊び場にしている屋内遊び場は自治体が設置を支援しているものなのだ。外で遊ぶのが安全だと自治体が考えているなら、こんなものを設置していないはずである。自治体も、ほんとうは安全だと考えていないにちがいない。

現実から目をそらせ、住民の県外流出を食い止めて自らの存続を自治体は優先しているかのようだ。そんな自治体の姿勢を、草ぼうぼうの公園は冷たく笑っているのかもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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