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就活「期間」論争は不毛でしかない

前屋毅フリージャーナリスト

■経団連がやりたいのは早めの人材確保

まさに、そこ、そこが問題なのですよ。就職活動(就活)の解禁時期を大学4年生の4月に遅らせる方針を政府は経済団体などに打診しているそうで、それに対する経団連の米倉弘昌会長と経済同友会の長谷川閑史代表幹事のコメントが4月3日付の新聞で報じられているが、長谷川代表幹事のコメントは実に的を射ている。

経団連の米倉会長は「学生の声を聞かないと大きな問題になる」と語ったそうだが、この人が学生の声に耳を傾けるような謙虚な姿勢の持ち主とはおもえない。日本経済新聞は「米倉会長が1日に自社の住友化学で新入社員と会食した際には、就活の短期化を心配する声が相次いだという」と伝えているが、要するに、「現状を変えないほうが良い」という米倉会長の意見を「学生の声に」などともっともらしくカムフラージュしているとしかおもえない。

経団連は現在、倫理憲章で解禁時期を大学3年生の12月としている。それに経団連加盟企業以外も従わされているのが現状だ。

経団連といえば日本の経済界の代表であり、その加盟企業は一流企業といわれるところがそろっている。学生にしてみたら、第一志望にしている企業ばかりなのだ。そこに早々と就職が決まれば、多くの学生は他社の採用試験を受けようなどとは考えないのが現実である。つまり企業にしてみれば、採りたい人材を早めに確保できるわけだ。だから経団連に加盟している大企業にしてみれば、就活が早くなれば早くなるほど歓迎となる。だから、就活の期間を短くしたいという政府の方針に、米倉会長は良い顔をしないわけだ。

■人材確保できない人事担当

一方の経済同友会は、失礼ながら、経団連にくらべれば少しばかり「格下」とみられている。学生の一般的な人気という点でも、経団連には劣る。

その経済同友会は、2012年2月に、就活の解禁時期を大学3年の行事が終わった「3月にすべきだ」という提言を行っている。政府が提示している方針に近いことを主張してきたわけだ。

そこには、「期間が短ければ経団連加盟企業に人材を独り占めされにくくなる」という経済同友会側の思惑があるにちがいない。学生にしてみれば、期間が短いので、とにかく多くの企業を受けてみようという気になる。実際に接してみて、「経団連加盟企業より経済同友会加盟企業のほうがよかった」という結論になる学生が増える可能性が高まる。結果、経済同友会加盟企業が人材確保できる可能性は高まるかもしれないのだ。そういう思惑もあって、経済同友会としては就活期間を短くしたのだろう。

もちろん、そういう企業側の思惑だけで就活の期間が決められることには問題がある。そんなことだから、就職してみて「自分がやりたい仕事ではない」というミスマッチの問題は大きくなるばかりだし、短期間で退職してしまう若者も増えるばかりなのだ。

そこで、就活期間短縮の政府方針に対する経済同友会の長谷川代表幹事のコメントである。日本経済新聞によれば、「採用活動のタイミングのせいで優秀な人が採れないなんて、人事担当の怠慢だ」と語ったというのだ。

筆記試験や数度の面接だけで、自分の会社にとって必要な人材かどうかを判定できる力が現在の人事担当者にあるとはおもえない。だから、学歴や学閥などというものが相変わらず重宝されているのだ。まさに長谷川代表幹事の言うとおり、「人事担当の怠慢」でしかない。

しかし、全部の責任を人事担当者だけにかぶせるのも酷だ。人事担当者の能力の問題でもあるが、その前に、採用制度そのものの問題でもある。新卒者を一括して採用するというシステムに、すでに無理がきている。そこに目を向けないで、就活の期間だけを問題にすること自体が、もはや「怠慢」でしかない。「人事担当の怠慢」をいうのなら、そこまで踏み込んだ採用改革の旗振り役を長谷川代表幹事は期待したいものだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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