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ヤクルトがファン感「転売チケット」の座席番号公表 他球団も本気の転売対策を

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 11月にプロ野球の各球団によって開催されるファン感謝イベントを巡り、ヤクルトスワローズがネットオークションで転売されているチケットを特定したうえで、取引停止を求め、その座席番号を公表するといった厳しい転売対策に出た。ファンからは歓迎の声が上がっているという。

球団の方針は?

 球団が10月31日にホームページで公開した「ファン感謝DAY2023のチケット転売について」と題するニュースリリースによると、次のような転売対策をとる模様だ。

「チケット販売において、ネットオークションにて転売をされていることを確認しております」

「弊社から停止を求めた取引の抜粋となります。座席番号:ファン感SS指定席 1塁側 20段 31番~34番」

「インターネットオークションサイト等が、弊社からの出品取り下げ要望に応じた情報などは、随時掲載させていただきます」

「ファン感謝DAYのチケットは『特定興行入場券』となっております。弊社の許可なく転売することを禁止しております」

「インターネットオークション等通じてチケットをご購入されたお客様におかれましても、ご来場の際に入場をお断りし、チケット代金の返金等おこないません」

「許可なく転売した者には会員の強制退会、今後のチケット販売拒否および入場禁止等の措置をとります」

刑罰法規には限界がある

 チケット不正転売禁止法の不正転売罪は最高で懲役1年、罰金だと100万円以下だ。セ・パ公式戦のチケットなどがこれに該当することは間違いない。ただ、セレモニーやゲーム大会、サイン会、写真撮影会などがメインのファン感謝イベントのチケットが転売規制の対象である「スポーツ」の興行にあたるかというと微妙だ。

 また、入場券以外のサイン会や写真撮影会への参加券のほか、抽選で無料配布される招待券も規制の対象外となる。さらには、「業として」の転売、すなわち「反復継続の意思をもって」という要件もみたす必要がある。

 転売目的を隠し、嘘をついて球団側からチケットをだまし取ったとして、刑法の詐欺罪を使うことも考えられるが、チケット不正転売禁止法による立件を含め、こうした刑罰法規には限界があり、事件化には警察の「やる気」が重要となる。

球団の垣根を超えた本気の転売対策を

 むしろ、「転売ヤー」から購入した者が次々と入場を拒否される事態となれば、それだけ転売チケットの買い控えが期待できる。あまり知られていないが、先ほどのチケット不正転売禁止法は、努力義務とはいえ、興行主側にも次のような転売対策を義務付けている。

・入場者が当初購入した入場資格者と同一であることを確認すること

・公式リセールサイトなどで適正に転売できる機会を提供すること

・チケット購入者らからの不正転売を巡る相談には適切に応じること

・チケットの適正な流通に関する広報活動を充実させること

 各球団は、転売サイトなどで高額転売が行われているチケットを発見した場合、取引停止を求めるとともに対象の座席を特定、公開し、関係した売買の両者を「出入り禁止」にするといった厳しい措置をとるべきだ。その意味で、ヤクルトスワローズの転売対策は理想的なものといえる。

 もちろん、これだけでは十分とはいえない。警察に「刑事事件」として被害を届け出るほか、イベント当日は本人確認を行い、身分証明証の提示を原則とすることが望ましい。さらに、各球団には、公式リセールサイトを利用しやすくするためにも、手数料などの大幅な引き下げが求められる。各球団は、単に転売禁止をうたうだけでなく、より具体的な「本気の転売対策」に乗り出すべきだ。

 「転売ヤー」は複数球団のファンクラブに複数の名義で加入し、当選した先行抽選チケットなどを直ちに転売サイトなどに高額で出品するといった行為を繰り返している。こうした「転売ヤー」に関するファンクラブへの加入情報についても、球団の垣根をこえて共有するなど、NPB全体で彼らの締め出しを図る必要があるのではないか。(了)

【参考】

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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