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示談不成立でも強制性交「嫌疑不十分」で不起訴の山川穂高選手 今後どうなる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:CTK Photo/アフロ)

検察は西武ライオンズの山川穂高選手を不起訴処分にした。「クロ」すなわち強制性交等の容疑を認定した上で「起訴猶予」にしたわけでも、逆に「シロ」すなわち女性の同意があったなどと認定した上で「罪とならず」「嫌疑なし」と判断したわけでもない。「同意の上だった」「少なくとも自分はそう思っていた」という弁解を覆せるだけの証拠がなく、「嫌疑不十分」だという。

それでも示談が成立していれば、この件は刑事・民事の両面ともこれで終わりだった。しかし、示談金1億円とも報じられていた示談交渉は決裂し、不成立で終わったとされる。検察は女性から求めがあると、不起訴処分の理由を告げることになる。その内容いかんや女性の処罰感情がなお厳しいままで変わらなければ、女性は検察審査会に審査を申し立てるだろう。

そこでの議決が「不起訴相当」なら刑事手続はそこまでだが、「起訴相当」か「不起訴不当」だと必ず検察の再捜査が行われる。「不起訴不当」に対して検察が再び不起訴にすればそれで終わりであるものの、もし「起訴相当」議決なのに不起訴にし、検察審査会で再び「起訴相当」の議決が下れば、山川選手は強制起訴される。これとは別に、女性は損害賠償を求める民事訴訟も提起できるから、法的紛争については解決までさらに長引くかもしれない。

書類送検時の警察の意見は起訴を求める「厳重処分」ではなく、起訴か不起訴かが微妙なライン上にあり、検察に一任するという「相当処分」だった

女性が「バーだと思った」というホテルの1階にはダイニングバーがあるものの、外壁にはホテルと明示され、フロントもあり、フロアには客室が並んでいた

女性は山川選手との行為の前にシャワーを浴びており、行為が終わり山川選手が帰ったあと、山川選手に対して何事もなかったかのような様子のLINEメッセージを送っていたという

西武グループはコンプライアンスに厳しい姿勢を明確にしており、国内FA権の資格取得条件を満たすまで17日となった山川選手にどのような処分を下すのかが焦点に

重要なのは、ここにきてシャワーの件やLINEメッセージの件といった山川選手にとって有利となる事実が報じられている点だ。報道によると、前者について女性はブーツでむれた足を流しただけだと主張し、後者についても女性の弁護士は性被害者にみられる迎合反応だと主張しているという。とはいえ、「疑わしきは罰せず」という刑事司法の大原則からすると、いずれも山川選手の弁解を支える客観的事実と評価できるから、検察の判断も「嫌疑不十分」の方向に傾くことになる。

むしろ、当初からこれらの事実が報じられていれば、社会に与える事件の印象も変わっていたかもしれない。検察審査会の11人の審査員は市民の中から選ばれており、素朴な正義感に基づいて検察の不起訴処分が妥当か否か判断しているから、一般に性犯罪には厳しい傾向にある。それでも、もし女性が審査を申し立てた場合、審査員がシャワーの件やLINEメッセージの件をどう評価するのか注目される。

この事件は、検察による今回の不起訴処分だけで全てが終わらず、こうした推移も見極めなければならないわけで、さらに相当の時間を要するという難しさがある。球団としても、単年契約であることや今シーズン中に刑事・民事の最終結論が出ない可能性をも踏まえた上で、複数のシナリオを描いておく必要があるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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