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お湯換え年2回の旅館「罰金2千円以下」報道は誤り それでも驚きの罰金額は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 福岡県筑紫野市の旅館「大丸別荘」が法令に違反して大浴場の湯を年2回しか換えず、県に虚偽の報告をしていた問題で、県が刑事告発の方針を固めたという。ただ、2千円以下の罰金に処されるとした一部報道は誤りだ。

「罰金等臨時措置法」が適用される

 この事件は、体調不良を訴えた旅館利用者がレジオネラ症と診断されたことから、県保健所が立入検査に及んだものの、旅館側が換水や消毒の実施状況について虚偽の報告をし、営業再開後の保健所による再検査でその嘘が発覚したというものである。

 公衆浴場法やこれを受けて制定された条例では、営業者に対して衛生などに必要な措置を講じる義務を課している。例えば、この旅館のようにろ過機能を備えている連日使用型の循環浴槽の場合でも、週1回以上は完全に換水する必要がある。

 これに違反しても罰則はないが、県の立入検査に対して虚偽の報告をした場合は別だ。公衆浴場法は「2千円以下の罰金に処する」と規定している。「罰金2千円以下」という一部報道は、この条文を踏まえたものだろう。

 しかし、そもそも刑法は「罰金」という刑罰について「1万円以上とする」と規定しているから、現行法では2千円という罰金はありえない。古い法律の中には刑法の規定に則した改正に至っていないものが多く、公衆浴場法もその一つだ。

 そのため、貨幣価値や経済事情の変動を考慮して罰金額などの特例を定めた「罰金等臨時措置法」という特別な法律が存在し、この適用により、罰金額は2千円以下ではなく、10倍の「2万円以下」になる。

旅館業法違反の可能性も

 また、旅館業法にも、旅館業の適正な運営を確保する観点から、立入検査に対する虚偽報告罪が設けられている。こちらが適用されれば、さらに50万円以下の罰金に処される。

 それでも、態様の悪質性や生じた結果の重大性などに比べると、公衆浴場法違反ともども罰金額のあまりの低さに驚かされる人が多いだろう。事件の実態に即した法改正により、厳罰化が求められるところだ。

 とは言え、こうしたケースの場合、旅館にとっては信用失墜に伴う経営面への打撃のほうがダメージが大きい。営業停止命令や営業許可の取消しといった行政処分に関する今後の県の対応が注目される。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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