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民家の郵便受けに投函相次ぐ謎の1万円札 使ってOKか、誰のものになる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 10月以降、大阪市で複数の民家の郵便受けに封筒に入った1万円札などの投函が相次ぎ、すでに総額20万円に上っているという。差出人などの記載はなく、「誰が何のために?」「令和のねずみ小僧か?」と話題だ。

「トラップ」の可能性も

 この件につき、NHKの報道によれば、現金が投函された民家は道路を挟んだ両側に集中しているものの、金額は統一されていないという。中には10月に1万円、12月に3千円と2度投函された民家もある。

 ただ、こうしたケースは決して珍しくなく、全国で時折発生している。児童養護施設や社会福祉施設、市役所などが多いが、一般の民家でもみられる。

 例えば、2014年には奈良のマンションで30戸の集合ポストなどに紙幣や小銭の投函が相次いだ。金額は千円から13万円とバラバラで、総額76万円に上っている。神奈川でも29軒の民家に封筒に入った5千円から数万円の商品券が投函された。

 まれに1回で250万円とか400万円とか500万円とか1100万円といった高額な現金の投函例もある。こうした事態に直面した場合、「ラッキー」と思う人も多いだろう。

 しかし、善意で投函されたものとは限らず、「トラップ」の可能性もあるので注意を要する。あとで差出人から「別の人物に渡そうと思っていたが、投函する家を間違えた」「実際にはもっと金額が多かった」などと主張され、トラブルに巻き込まれることもあり得る。

法的には「準遺失物」になる

 すなわち、今回のケースのように手紙などが添えられておらず、誰から誰に宛てられたどのような趣旨の現金なのか不明な場合、差出人に贈与の意思があったとは断定できない。

 そのため、「他人の置き去った物」として遺失物法が規定する「準遺失物」となり、忘れ物や道端の落とし物と同じく拾得物の手続が適用される。

 投函された民家の住民は、誰からのものか分からず、本人に返還できない以上、速やかに警察に提出しなければならない。もし勝手に使ってしまうと、刑法の遺失物横領罪に問われることになる。最高刑は懲役1年、罰金だと10万円以下だ。

 面倒でも正直に届け出ておけば、投函した人物が誰か判明した場合、その人物に5~20%相当の報労金を請求できる。警察の公告から3か月以内にその人物が見つからなければ、現金などは全て投函された拾得者のものとなる。

 もっとも、今回のようなケースの場合、その受け取りを拒否する住民が大半だという。気味が悪いからだ。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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