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五輪ボランティアの非売品ユニフォーム 売ったり買ったりしたら処罰される?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 開会まで1週間を切った東京オリンピック。無観客開催でボランティアの辞退が相次ぐ中、フリマアプリや転売サイトなどを介し、非売品であるボランティア用のユニフォームなどが高額で売り買いされているという。

ユニフォームは誰のもの?

 ボランティアは無給だが、オリジナルデザインのトップス、ジャケット、パンツ、ハット、シューズ、バッグ、ソックスといったユニフォームが配布される。

 しかし、オリンピック組織委員会や自治体のボランティア規約では、これらを転売するなど、第三者への譲渡が禁止されている。参加を辞退した場合には、理由が何であれ、全て返還しなければならない。返還に要する費用も、ボランティアの負担となっている。

 ユニフォームを着用しているだけでは競技場に入れないものの、会場周辺でボランティアに扮するなど、悪用されるおそれが高いからだ。オリンピックグッズは世界中にコレクターがおり、転売目的でボランティアに登録し、ユニフォームを手に入れた後、ドタキャンする者が出ることもあり得るので、これを防ぐという狙いもある。

 要するに、法的にはユニフォームの所有権は配布後も運営主体であるオリンピック組織委員会や自治体に帰属しており、ボランティアはこれを「貸与」されているにすぎないという関係にある。勤務を果たせば、大会後に委員会などが返還請求を放棄することで、そのまま進呈されるという仕組みだ。

 ボランティアはこうした規約を承認した上で登録しているわけだし、研修や配布時に周知されていることから、「知らなかった」という言い訳は通らない。

 したがって、勤務していない中でユニフォームを転売すれば、横領罪に問われる。もし最初からボランティアをやる気などなく、ユニフォームを手に入れて転売することが目的だったのであれば、配布を受けた段階で詐欺罪が成立する。

 重要なのは、横領罪で懲役5年以下、詐欺罪で懲役10年以下であり、いずれも罰金刑がないという点だ。バレたら罰金を支払えば済むということにはならない。

購入者はどうなる?

 では、ユニフォームを購入した者はどうなるか。刑法では、横領された物やだまし取られた物など、財産犯で得られた被害品をそうと知りつつ購入したら、最高で懲役10年、罰金だと50万円以下に処されることになっている。

 その認識は未必のもので足りるし、どのような財産犯で得られた物であるのかを具体的に知っている必要もない。

 オリンピック開催前の出品だし、報道でも規約違反だと問題視されて取り上げられているわけだから、「委員会に無断で転売しているのでは?」「最初から転売目的で手に入れたものでは?」といった認識くらいはあるのではないか。

 転売サイトなども、ルール違反の出品に当たるということで、ユニフォームの出品を見つけたら直ちに削除するとは言うものの、追いつかない場合もある。

 官房長官が記者会見で問題視するなど、政府の関心も高いことから、警察が悪質な転売者を見せしめ的に摘発するかもしれない。ボランティアを辞退したのに転売するといったことは絶対にやめておくべきだ。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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