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免停中の人身事故でも辞職しない木下都議 捜査の焦点は交通違反の常習性か?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 運転免許の停止中に人身事故を起こしたとされる東京都議の木下富美子氏。辞職せず、新たに1人会派の「SDGs東京」を立ち上げたという。警察の捜査では、交通違反の常習性が焦点になるだろう。

いつから免停だった?

 木下氏は、事故当日である7月2日まで免停中だったという。問題はその期間、すなわちいつから免停だったのかという点だ。これについては、次のような報道がある。

「木下氏は取材に『事故を起こしたのは事実。2月ごろに免許停止になったが、事故当日は停止期間が終わったと勘違いをしていた。公人でありながら本当に申し訳ない』と話した」

東京新聞/共同通信社配信

 免停は交通違反や事故の累積点数に基づく通常のケースと、覚醒剤中毒だとか、他人の飲酒運転をそそのかしたとか、道路以外の場所で重大な人身事故を起こしたといった特異なケースに分かれる。

 都議の木下氏が後者であれば、今回以上にマスコミで大騒ぎになっているはずだから、表に出てこない交通違反を重ねた前者のパターンではないか。

 その場合、免停の期間は過去3年間の累積点数と行政処分歴を踏まえて30日、60日、90日、120日、150日、180日の中から決められる。講習を受ければ試験の成績次第で日数の短縮もあり得るが、受講は任意だ。

 「2月ごろに免許停止になった」という木下氏の話が事実であれば、免停の満了日が7月2日である以上、免停期間は150日であり、短縮講習も受けていないのではないか。

行政処分も2回以上か?

 しかも、少なくとも過去3年間に免停や免許取り消しの行政処分を2回以上受けていることになる。

 というのも、免停の最長期間は行政処分歴が一切なければ90日、1回だけだと120日までと決まっており、2回以上なければ150日の免停などあり得ないからだ。2回で累積点数4点、3回で3点、4回以上で2点なら150日になる。

 そればかりか、90日以上の免停だと、通常の「行政処分出頭通知書」というハガキではなく、「意見の聴取通知書」といった書面が届く。反論の機会を与えるためだ。指定日に運転免許センターなどに出頭して意見を述べ、そこで免停処分が決まる。

 そうすると、木下氏はこの手続を経験しているわけだし、行政処分を受けるのも初めてではなく、むしろ免停のシステムを熟知しているベテランということになる。さすがに「事故当日まで免許停止中だったが、免停が終わったと勘違いしていた」という弁解は苦しい。

 しかも、2017年に初当選を果たしているわけで、現職議員でありながら、今年2月ころの免停に至るまでの間、交通違反を繰り返していたことになる。

 木下氏については、免停中の無免許運転の余罪に関し、次のような報道もある。

「SNS上では、2日以前にも車、原動機付き自転車を運転していた目撃情報が多数アップされており、木下氏は自身のツイッターで6月1日に『新しい2連ノボリで都政報告を致しております』とヘルメットを原付きにかけた写真とともに投稿。原付きを運転したことをほのめかしていたが、現在は削除している」

スポーツ報知

 検察では、交通違反や人身事故の刑事処分を決する際、過失の内容や被害者のケガの程度、示談状況などのほか、交通法規を遵守する姿勢の有無を考慮している。そのあらわれである交通違反の常習性が、木下氏にとって「運命の分かれ目」となるだろう。(了)

(参考)

 拙稿「無免許で人身事故の木下富美子氏 『免停が終わったと勘違い』発言の意図は?

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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