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18禁マッチングアプリで出会った女性と…実は17歳だった!罪に問われる?【追記あり】

前田恒彦元特捜部主任検事
(提供:TKM/イメージマート)

 駅伝選手の男子大学生(21)が18禁マッチングアプリで出会った女子高生(17)に対する淫行容疑で逮捕された。「交際していた」「18歳だと聞いていた」と供述しているという。それでも罪に問われるか――。

「みだらな性交」とは?

 青少年の保護や育成を目的とした条例の淫行規制は、自治体によってその内容が微妙に異なる。例えば、東京都の条例だと、「青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない」と規定されているものの、それが何を意味するのか定義がない。

 そこで警視庁は、福岡県の条例に関する最高裁判例を踏まえ、ホームページで次のような解釈を示している。

「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいいます」

「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は除かれます」

 これに対し、隣である神奈川県の条例の場合、「青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない」と規定した上で、それが何を意味するのか定義している。具体的には、次のようなものだ。

みだらな性行為:健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交

わいせつな行為:いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為

 このように、神奈川県の方が東京都よりも規制の範囲が広い。例えば、同意の上で女子高生の胸を触っただけだと、性交でも性交類似行為でもないから東京都ならセーフだが、神奈川県だと「わいせつな行為」ということでアウトだ。

 また、東京都なら婚約中に準ずる真摯な交際関係での性交であればセーフだが、神奈川県だとさらに厳しく、結婚を前提としない性欲に基づく性交というだけでアウトの可能性が出てくる。

18歳だと思っていたら?

 また、年齢の認識に関しても、条例により大きな食い違いがある。

 神奈川県の条例には、「当該青少年の年齢を知らないことを理由として…処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない」という規定が置かれている。

 この種の事案には「18歳未満だとは思わなかった」という弁解がつきものだから、年齢確認が不十分な過失の場合でも処罰するためだ。青少年の保護をより強めたもので、ほとんどの自治体がこのパターンになっている。

 しかも、「過失がない」とは、単に相手が示した年齢を鵜呑みにしただけではダメで、年齢確認の際、他人の身分証明書や年齢を偽造した定期券を提示した場合など、誰が見ても見誤る可能性が十分にあるような場合でなければならない。

 相手が高校生だというのであれば、学生証などで生年月日を確認するのは当然として、それこそ保護者に問い合わせるなど、客観的に可能なあらゆる方法を用いて確認すべきだとされている。

 しかし、東京都の場合、こうした規定はあるものの、成人図書の販売規制や成人映画の入場規制などに限定されており、淫行は対象外だ。したがって、東京都では故意犯に限られるので、18歳未満だったという年齢の認識が不可欠となる。

今回のケースは?

 今回の大学生は、昨年10月にアプリを介して女子高生と知り合い、12月と今年1月に神奈川県と東京都のホテルで性交に及んだ。ただし、金銭の受け渡しはなかった。

 そこで、これが「みだらな性交」に当たるか否かは、2人の客観的な人間関係が決め手となる。2人が出会った経緯や現在までに取り交わしたメッセージの内容、実際に会った回数、そこでの会話などの内容、ホテルに行くに至った経緯や状況、その後のやり取りなどが捜査の対象となるわけだ。

 女子高生が別の淫行で補導されたとか、親にバレたといった可能性もあるが、警察に届け出るに至った背景もポイントだ。

 こうした様々な捜査の結果、警察は2人に真摯な交際の実態などなかったと判断したのだろう。学生寮の捜索までしており、余罪も視野に入れているのではないか。

 次に年齢の点だが、女子高生がプロフィールを偽って18禁アプリに登録したことは間違いない。しかし、女子高生は当初こそ18歳だと伝えていたが、その後のやり取りの中で17歳だと明かしたと供述しているという。大学生の言い分と食い違っている。

 東京都の条例違反が成立するか否かについては、女子高生の供述が事実なのか、事実だとして年齢を明かした時期が性交に至る前か後かが重要だ。LINEのメッセージなどで伝えていれば、その日時が客観的な証拠になる。

 一方、大学生は相手が高校に通っていることを知っていたと供述している模様だ。それが性交に至る前の時期であれば、アプリの登録情報を信用していたという弁解は苦しくなる。年齢確認に過失があったということで、少なくとも神奈川県の条例違反が成立するということになるだろう。(了)

【追記】

 横浜地検は、逮捕から約2ヶ月後となる7月30日、男子大学生を神奈川県青少年保護育成条例違反や児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)などで起訴した。

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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