Yahoo!ニュース

「ゴーン氏からの報酬は1億円超え」報道 米国人親子から没収・追徴できる?

前田恒彦元特捜部主任検事
ゴーン氏の家族の関与も捜査の焦点(写真:ロイター/アフロ)

 カルロス・ゴーン氏の逃亡を手助けしたとして、米国人親子が逮捕された。彼らがゴーン氏から報酬を受け取っていた場合、没収や追徴によって剥奪できるか――。

没収・追徴とは

 没収は現物そのもの、追徴はそれが使われていた場合などに同額を取り上げる制度だ。贈収賄の賄賂や選挙違反の買収金は必ず没収・追徴する決まりだし、覚醒剤やけん銃といった法禁物も必ず没収することになっている。

 しかし、親子2人に対する逮捕容疑である不法出国幇助罪と犯人隠避罪には、そうした必要的没収・追徴の規定が存在しない。

 「犯罪収益」の隠匿などを禁じている組織犯罪処罰法にも、没収・追徴を可能とする特別な規定があるが、そこでいう「犯罪収益」は組対法が前提としている一定の犯罪に限られる。

 不法入国の援助はその対象だが、不法出国の手助けや刑法の犯人隠避罪は対象外だから、組対法は適用できない。

 そこで、裁判官の裁量に基づいた没収・追徴を可能としている刑法の規定を使うことになる。

 殺人の凶器や、偽造した文書、窃盗の盗品などがその代表だが、それに限らない。刑法は「犯罪行為の報酬として得た物」の没収・追徴も認めているからだ。

 殺し屋が依頼者から代金を受け取って殺人に及んだ場合などがその典型だが、不法出国幇助や犯人隠避に対する報酬もこれにあたる。

積極的な没収・追徴を

 この点について、次のような報道がある。

「2人はゴーン被告の不法出国の前後約7か月間に、被告側から9回にわたって計136万2500ドル(約1億4600万円)相当の送金を受けた」(読売新聞

「米司法当局の文書によると、ゴーン被告側から計130万ドル(約1億3800万円)以上がマイケル容疑者側に渡ったといい、報酬の可能性がある。トルコのPJ運航会社幹部にも3千万円超が支払われたことも判明している」(産経新聞

「マイケル容疑者の話を信じれば、ゴーン氏は1億3800万円ほどの支払いをしたが、ほとんどが飛行機代で、あとはチームに払われ、自身の報酬はないという」

「『もし金のために動いたのであれば、先払いを主張しただろう。危険を犯した理由は、特殊部隊のモットーである『抑圧からの解放』のためだ』とインタビューで答えている」(FLASH

 元グリーンベレー隊員であるプロの請負人が「赤の他人」のゴーン氏のために刑罰のリスクを犯してまでタダ働きするとは考えられない。報酬はないという弁解は信じがたい。

 所有権の確定手続などに手間がかかるといった理由から敬遠されがちな没収・追徴規定だが、報酬の有無やその金額は情状の面でも極めて重要だ。

 特捜部は、米国当局の協力を得た上で、様々な客観証拠からこの事実を確定し、起訴の際には裁判所に対して積極的に没収・追徴を求めていくべきではないか。

 現実に剥奪できるかは未知数だが、その旨の有罪判決を得るだけでも、不法な利得の帰属は許さないという姿勢を国内外に示す意義がある。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事