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ノート(161) 幹部職員による面接を経て処遇の方向性が決まる

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~確定編(12)

受刑34/384日目

30室の男が戻る

 平日の日中は居室内で大手百貨店のギフトボックス作り、夜間や土日は簿記と英語の勉強に集中して取り組む中で、あっという間に2週間が過ぎた。5月21日の土曜日に保護室送りとなった30室の「トラブルメーカー」も、24日の火曜日には戻ってきた。

 少しは懲りたのか、それまでのように壁を蹴るといったことはなくなったが、それでも小さな声で下手な歌を歌っていたし、朝夕の点検時にも定位置に座っていないようで、舎房を担当する刑務官から「また保護室に行きたいのか!」などと何度も叱られていた。

 独房内での刑務作業も完全に手を抜いており、彼が作成したギフトボックスの手直しを刑務官の要請で僕が行わざるを得ないほどだった。驚いたことに、僕だと1日で120~150箱ほど組み立てており、材料がなくなってしまうということで刑務官からペースダウンを指示されるほどだったが、30室の男はせいぜい10箱程度しか作っていなかった。

 しかも、台紙の折り方は山折りや谷折りのラインに沿っていない雑なもので、汚く、およそ「商品」として外部に流通させてよい代物とはいえなかった。改めて僕が台紙を展開して平らに伸ばし、1から作り直すほかなかった。

 精神に何らかの障害があるのではないかとの疑念もあったが、刑務官とのやり取りを聞いたり、戸外運動や入浴のために廊下に出てきた男の態度などを見る限り、特に問題なさそうに思われた。

 ただ、そのうち「作り直し」の作業はなくなった。取調べや調査を経て、30室の男に「閉居罰」という懲罰が科されることになったからだ。

 これは、私物の使用や購入、書籍の閲覧、面会や手紙のやり取り、刑務作業や運動、ラジオ放送の聴取などを一定期間停止させ、朝から夕方までの間、居室内の所定の位置に正座か安座で座らせ、謹慎させるというものだ。獄中用語で「座り」と呼ばれる。

 眠ったらダメだし、前を向いていなければならないから、地味だが辛いものだ。それでも、男は点検時に刑務官を無視したり、指示に反して室内を歩き回ったりしており、そのたびに刑務官から「いいかげんにしろ!」などと怒鳴り上げられていた。

 仕事とはいえ、こうした「満期上等」の受刑者に付き合わされる刑務官が気の毒だった。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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