「アイス好評です」SNSで覚醒剤の売買を勧誘、実は氷砂糖だった…その罪と罰

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 覚醒剤を意味する「アイス」などの隠語を使い、SNSで売買の勧誘をしていた大学生の男が書類送検された。実際には覚醒剤ではなく、氷砂糖などの偽物だったという珍しい事案だ。

何罪になる?

 男は、2019年からSNSで「アイス好評です」「1g35000」など隠語を使った投稿を始めた。購入希望者と連絡をとってJR名古屋駅などで待ち合わせ、氷砂糖などで作った偽物を本物と偽り、1グラム3万5千円程度で複数回販売して10万円超を稼いでいた。

 もちろん、実際に覚醒剤の密売を行っていれば、覚醒剤取締法違反で処罰される。しかし、今回は偽物であり、2020年8月に行われた自宅などの捜索でも覚醒剤は発見されず、氷砂糖や小麦粉、小分け袋、注射器などが押収されただけだった。

 そこで、愛知県警は、男を麻薬特例法が規制する「あおり・唆し」の容疑で立件し、9月に書類送検した。

 これは、次のような犯罪だ。

「薬物犯罪…を実行すること又は規制薬物を濫用することを、公然、あおり、又は唆した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」

 覚醒剤や大麻、麻薬、向精神薬、あへんなどが蔓延したり、濫用されるのを未然に防止しようとしたものであり、不特定多数の者にあおったり、唆した場合に成立する。SNSで売買を勧誘するというのもその一つだ。男は容疑を認めているという。

安易な投稿には注意を

 あまり聞き慣れない罰則だということで、その存在を知らない人も多いのではないか。現にネット上では、SNSや動画サイトで規制薬物の使用などを勧める投稿も目にする。

 しかし、2010年にネット上の掲示板に覚醒剤の売買を勧誘するような書き込みをした男が逮捕されたのを皮切りに、その後もこの罰則で立件された例は現にある。

 最近では、若年層を中心として大麻事件が多発する中、大麻合法化論に脅威を抱く捜査当局がこの罰則を「捜査の入り口」として使い、ネット上で大麻解禁を叫ぶ投稿者らを検挙する例が目立つ。

 サイバーパトロールでそうした書き込みを発見すると、大麻を含めた規制薬物への親和性が高い人物として内偵捜査を進め、発信者を特定して関係先を捜索したうえで、その発見、押収や第三者への譲渡、拡散事実の証拠確保を目指すわけだ。

 2015年に「大麻解禁の人柱になる」と主張してSNSに栽培、使用の動画などを投稿していた男がこの罰則で検挙された際も、大麻の栽培・所持のみならず、覚醒剤の所持・使用の余罪でも立件されている。

 ネット上に安易に規制薬物を礼賛する投稿をしたり、フォロワーとしてフォロー、拡散しているだけで、捜査当局にマークされ、捜査の対象となり得る時代になっている。

詐欺罪はどうなる?

 今回の事件の場合、男には覚醒剤所持などの余罪がなく、警察の狙いは空振りに終わった。では、氷砂糖を本物の覚醒剤だと偽って販売した点はどうか。

 結論からいうと、たとえ規制薬物の取引が前提であったとしても、詐欺罪が成立する。ただ、本物だと信じ込んで男から氷砂糖を買った顧客は、常習使用者の可能性が極めて高い。

 「だまされた」と警察に被害を訴えたら自らが捜査の対象になるわけだし、規制薬物の売買という不法な原因に基づいて代金が交付されており、民法の規定によって男に渡した金の返還を求めることもできない。

 顧客が名乗り出てくるはずもなく、詐欺罪による立件は見送られたというわけだ。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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