池袋暴走事故「遺影持ち込みなら被害者参加NG」裁判所が遺族に迫った非情な二者択一

(写真:cap10hk/イメージマート)

 池袋暴走事故で遺族が亡き母子の遺影を持って裁判に参加しようとしたところ、東京地裁から被害者参加をするなら当事者席での遺影はNG、傍聴席で傍聴人としてならOKと指示され、二者択一を迫られたという。

遺族の思いは?

 被害者参加とは、殺人や危険運転致死傷、過失運転致死傷、性犯罪など一定の犯罪について、被害者や遺族が裁判所の許可を得て刑事裁判に参加できる制度であり、自らないし弁護士に依頼して次のような行為が可能となる。

・裁判に出席して法廷で当事者席に座る。

・検察官に意見を述べる。

・一定の範囲内で証人尋問をする。

・被告人に質問をする。

・検察官とは別に事実関係や求刑に関する意見を述べる。

 母子の生命が奪われた池袋暴走事故でも、7名の遺族が被害者参加を許可されており、そのうち夫ら5名が初公判に出席することになっていたが、遺影を巡って冒頭で述べたような事態となったわけだ。

 遺族は上申書を提出して抗議したものの、裁判所の意向は変わらなかった。そこで、初公判では夫の母親が被害者参加をあきらめ、一般傍聴人として傍聴席に座り、遺影を持つ形となった。

 こうした例は枚挙にいとまがない。遺影を持ち込もうという遺族の思いは次のようなものだ。

・被害者本人の代わりとして、被告人の姿や裁判の経過を見届けさせたい。

・裁判所や被告人に被害の現実や被害者、遺族の処罰感情などを示したい。

・被告人に反省を促し、良心に訴えかけ、真実を語らせたい。

持ち込みを禁じる理由は?

 では、なぜ裁判所は遺影にナーバスなのか。

 実のところ、遺影の持ち込みに関する明確な規定はない。裁判所法法廷等の秩序維持に関する法律などに基づき、裁判所がケースバイケースで可否を判断しているところだ。

 一昔前は、次のような理由から、遺影の持ち込みなど認めないというのが裁判所の姿勢だった。

・被告人に不当な重圧を与え、萎縮させ、言いたいことを言いにくい状態にさせる。

・裁判官や裁判員の心理に影響を及ぼし、事実認定や量刑判断が被告人に不利となり、公正な裁判が行えなくなる。

・法廷の雰囲気が異様なものとなり、遺族らが感情を高ぶらせて法廷内外で不穏当な言動に及び、無用の混乱を生じさせるおそれがある。

・ 額縁は凶器になり得るし、現に額縁を傍聴席のいすに叩きつけ、ガラスを割って散乱させた例がある。

結局はケースバイケース

 しかし、次第に認める裁判所が出てくるようになり、特に2004年に犯罪被害者等基本法が成立したころから、その傾向も顕著になった。

 それでも、同じ事件で地裁はOKだったのに高裁がNGにしたといったケースも出てくるなど、裁判所によって判断はバラバラだ。許可の場合でも、次のような条件が付されることも多い。

・目立たないような小さな遺影にし、1つに限る。

・傍聴席では最前列真ん中ではなく、被告人の目に触れない端や後方に着席する。

・開廷までは遺影を風呂敷で包むなどし、表に出さない。

・開廷後は正面から見えないように膝の上で上向きにしておくか、膝の上で前向きに立てる場合でも高く掲げるなどして被告人に示してはならない。

・裁判員裁判ではダメ。

「バー」の内側は厳しい

 それでも、「バー」の内側に持ち込むことまで認める裁判所は少ない。「バー」とは、裁判官や検察官、弁護人ら当事者が訴訟活動をする法廷の空間と、傍聴人が座る傍聴席との間を仕切る木製の柵のことだ。

 遺族が証言や意見陳述のために遺影を持ったまま傍聴席から証言台に向かおうとすると、裁判所から遺影を席に置いておくようにと注意される。

 遺影そのものが「バー」の向こう側で訴訟活動をするのは不可能だし、被告人との距離も近くなり、威圧の程度が大きくなるうえ、遺影を持って感極まった遺族が被告人に暴行を加えるリスクも高まるからだ。

実は「バー」の外側の話

 それでも、今回は全く次元を異にする。というのも、被害者参加を許可された遺族が7名おり、遺族をサポートする弁護士も2名いたため、法廷内の当事者席だけでは足らず、傍聴席の一部をも当事者席として取り扱うという特殊なケースだった。

 法廷内には、遺族のうち夫ら2名と弁護士1名が座り、当事者席扱いになっていた傍聴席の一部に遺影を持った夫の親らが座る段取りとなっていた。

 しかし、東京地裁は、たとえ傍聴席であっても、当事者席扱いの席に座る者が遺影を持つことは許さず、被害者参加をやめて一般人として別の傍聴席に座るのであれば構わないと指示したわけだ。

 あまりにも形式的すぎる非情な判断であり、不合理だと言わざるを得ない。被害者参加人か一般傍聴人かの違いこそあれ、座る場所は同じ傍聴席であるうえ、裁判員が参加しないプロの裁判官だけの裁判であり、被告人への威圧などを考慮しても、区別する理由が乏しいからだ。

 遺族は「ここで自分たちが声を上げたら裁判が不利になるのでは」との不安があったことから、初公判では不承不承、裁判所の指示に従ったが、今後も粘り強く裁判所に翻意を促していくという。

 確かに、刑事裁判は被告人が有罪か否か、有罪だとしてそれに見合う量刑はどの程度が適正かを慎重に審理、判断すべき手続ではあるが、被害者や遺族への配慮やその協力、国民の理解も不可欠だ。

 このまま東京地裁が形式論にこだわって頑なな姿勢を維持するのか、12月3日に予定されている第2回公判での対応が注目される。(了)

【参考】

拙稿「『車に何らかの異常』池袋暴走事故で元院長が無罪主張、今後の裁判はどうなる?

岡村勲「被害者と裁判官」(2018.2.6、東京高裁での講演)」

法務省「平成19年改正刑事訴訟法等に関する意見交換会第7回会合議事録

TBS NEWS「【ノーカット】池袋暴走事故 初公判を終え 遺族が会見

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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